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日建設計 石川貴之氏/日立製作所 吉野正則・柴田吉隆
2022年9月22日、日立の研究開発グループが開催した「協創の森ウェビナー」で実現した、株式会社日建設計の石川貴之氏と日立の吉野正則、柴田吉隆によるパネルディスカッション。その2では、社会のイノベーションを起こしていく場としてのコミュニティづくりについて、三者がそれぞれの経験を交えながら語る。

「第1回:イノベーション創出への3つのアプローチ」はこちら>
「第2回:コミュニティづくりの本質」
「第3回:『未来探索のパートナー』としてのコミュニティづくり」はこちら>
「第4回:コミュニティの根付かせ方」はこちら>

都市開発コンサルの役割は「翻訳」と「会話の成立」

丸山(ナビゲーター)
それでは1つめのトピックに参ります。「社会イノベーションを起こしていく場としてのコミュニティづくり」。一見、手段と目的が逆のようにも見えるこのチャレンジについて、ご意見をお聞かせいただければと思います。

石川
わたしが携わってきた都市開発プロジェクトのマネジメントを例にお話しします。都市開発プロジェクトは、まずは行政・民間企業・住民らが集まり、「一緒にまちづくりをしませんか」という、ややぼんやりした目的のもとスタートするケースが一般的です。そうするとプロジェクトの初期段階では、それぞれのステークホルダーは「不利益を被ってはいけない」という意識から、何かしらの利益を享受したい、支援を得たいという「Take」の意図のもと、議論に終始するようになります。いわば、各ステークホルダーが個別に抱える課題の解決をめざす「部分最適」vs.まち全体の課題の解決をめざす「全体最適」という対立の構図がしばらく続きます。

画像1: 都市開発コンサルの役割は「翻訳」と「会話の成立」

こうした状況でこそ、我々都市開発コンサルタントのプロフェッションが活かされることになります。つまり我々のプロフェッションは、「部分最適」vs.「全体最適」の対立という構図を丁寧に翻訳しながら、ステークホルダー同士の会話が成立するようサポートすることなのです。この作業を通じて、「一緒にまちづくりをしませんか」という漠然とした思いをみんなが共感できる、より具体的な共通目的を設定します。

共通の目的が設定できると、プロジェクトは「合意形成フェーズ」へと進みます。そうすると、目的の達成に向け、各ステークホルダーができることを「Give」しあう関係が構築され、初動期とはプロジェクトの雰囲気がまったく違ったものになります。いわば運命共同体のような意識と体制ができあがり、このコミュニティをデザインすることに、都市開発プロジェクトのマネジメントの本質があると思っています。

画像2: 都市開発コンサルの役割は「翻訳」と「会話の成立」

まちづくりデザインの対象は具体的な建物や都市ではなく、みんなが共感・共有できる目的を設定することであり、合意形成のデザインだと捉えています。そして目的を共有することは、コミュニティを形成することだと考えています。

したがって、「イノベーションを起こせるコミュニティを意図的につくることができますか?」と問われたら、わたしはもちろん「YES」と答えます。その理由は、イノベーションのスタートも、課題や目的を関係者間で共有することであり、「まちづくり」を「イノベーション」という言葉に置き換えると、まちづくりの合意形成のプロセスがそのままトレースできるように思います。

イノベーションの目的共有の場としてコミュニティを組成できなければ、イノベーションの継続性も持続性も担保されないと思います。

画像: 日建設計 石川貴之氏

日建設計 石川貴之氏

関係性を駆使するクセをつける

丸山
石川さんから仮説のような形で意見が投げかけられましたが、イノベーションを起こせるコミュニティづくりを実践している吉野さんはどんな意見をお持ちですか。

吉野
石川さんのお話の中で出てきた「Take」の関係から「Give」しあう関係への変化は、とても腑に落ちました。わたしとしては、「Give」しあう関係こそ、本来先にあるべきなのではという思いを持って活動してきました。大学や企業の取り組みにありがちなのは、地域と一緒に活動することでどんな利益が自分たちに戻ってくるのかを先に考えてしまうことです。そうではなく、利他の意識すなわち「Give」する姿勢が先にあり、もしかしたらあとあと「Take」があるかもしれない。そういうスタンスに変わっていかないと、イノベーションを起こせるようなコミュニディづくりは難しいのではないでしょうか。

画像: 日立 吉野正則

日立 吉野正則

丸山
確かに工学的な考え方のもとに取り組むと、「何かしらの効果を得たい」という意図が先行しがちです。

吉野
まちづくりというものは長い年月をかけて行うものですが、大学や企業にとっては、期限が設けられた上でのプロジェクトであることが多い。ですが、そのまちの住民にとって、「暮らす」という行為にあらかじめ期間が設けられているわけではありません。そのため、大学・企業と住民とが一緒にまちづくりに取り組むと、どうしても目線にズレが生じます。異なる目線を一致させていくための場として、コミュニティは必然的に生まれてくるものだと思います。

丸山
柴田さんはビジョンデザインの活動の中で、コミュニティづくりに取り組む際にどんな点を重視していますか。

柴田
コミュニティは「関係性」だとわたしは捉えています。コミュニティという、実体を持たないものをまちづくりの真ん中に据えても、なかなかうまく事は運びません。みんなが「これは必要だね」と思えるわかりやすいものを活動の中心に据えることは、良いことのように思います。

画像: 日立 柴田吉隆

日立 柴田吉隆

例えば、具体的なテーマでイノベーションを起こすことを目標として真ん中に置くことで、コミュニティ内の関係性を駆使する。立場の異なる方々による粘り強い取り組みの末に、イノベーションというわかりやすい価値が生まれる。ここで、イノベーションという結果以上に重要で代替が利かないのは、コミュニティそのものがより強固になることです。「イノベーション」という目的を達成するために、その手段として一番大事な「コミュニティ」を育てていく。そこでポイントになるのが、ステークホルダー同士の関係性を活かせるクセを身につけることだと思います。(第3回へつづく)

「第3回:『未来探索のパートナー』としてのコミュニティづくり」はこちら>

画像1: 社会イノベーションとコミュニティ
【その2】コミュニティづくりの本質

石川貴之(いしかわ たかゆき)
株式会社日建設計 執行役員/新領域開拓部門 イノベーションデザイングループ プリンシパル/新領域ラボグループ プリンシパル

1987年、日建設計に入社。専門は都市計画。入社以来、施設企画から大規模開発まで幅広く建築と都市に関する業務を担当。2004年から東アジアを中心に都市デザイン業務を担当したのち、2008年に日建設計総合研究所に転籍。2009年から2年間、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)に出向し、政策提言活動に携わる。近年は郊外再生まちづくりのほか、インフラシステムの海外展開業務でスマートシティやTOD(公共交通主導型都市開発)の案件組成を支援。筑波大学客員教授、日本都市計画家協会正会員。一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)理事。

画像2: 社会イノベーションとコミュニティ
【その2】コミュニティづくりの本質

吉野正則(よしの まさのり)
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ シニアプロジェクトマネージャ
北海道大学 社会・地域創発本部 本部長/COI,COI-NEXT拠点長/特任教授
エミプラスラボ合同会社 代表

1980年、日立製作所に入社。アメリカ駐在を経て、Audio/Visualの商品企画、マーケティング、事業企画を担当。また、インフラやヘルスケアなどの新事業創出事業を推進した。2015年、文部科学省/国立研究開発法人 科学技術振興機構の北海道大学COI「食と健康の達人」拠点長に就任。2016年、日立北大ラボ 初代ラボ長に就任。2021年からCOI-NEXT(共創の場)で「こころとカラダのライフデザイン」プロジェクトリーダーを務めている。

画像3: 社会イノベーションとコミュニティ
【その2】コミュニティづくりの本質

柴田吉隆(しばた よしたか)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 主管デザイナー

1999年、日立製作所に入社。ATMなどのプロダクトデザインを担当したのち、デジタルサイネージや交通系ICカードを用いたサービスの開発を担当。2009年からは、顧客協創スタイルによる業務改革に従事。その後、サービスデザイン領域を立ち上げ、現在はデザイン的アプローチで形成したビジョンによって社会イノベーションのあり方を考察する、ビジョンデザインを推進している。

画像4: 社会イノベーションとコミュニティ
【その2】コミュニティづくりの本質

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長

日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。

Linking Society

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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