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「第3回:日本をサステナ先進国にする道を探る」
「森とタタラ場、双方生きる道はないのか」で環境問題に目覚める
佐座さんが環境問題に関心を抱いたきっかけは、宮崎駿監督の映画「もののけ姫」だったという。主人公が発した「森とタタラ場、双方生きる道はないのか」というセリフに何かを感じた。福岡の自然豊かな土地に住んでいたが、公園は人工的な遊具ばかりで、自然と一体になれる遊び場が少ないことに疑問を持った。
幼い頃から気候変動に興味を持っていた彼女は、多様なバックグラウンドを持つ生徒が多いインターナショナルスクールに通っていたこともあり、高校を卒業するとカナダのブリティッシュコロンビア大学へ進学する。「都市と自然の関係」を専攻し、世界で起きているさまざまな事象には環境問題が深く関わっていることを知る。
「大学卒業後は国際機関への就職を考えていましたが、サステナブルな社会の実現についてより見識を深めるには、大学院レベルの勉強が必要だとわかりました。そこで、サステナブル開発教育で歴史のあるロンドン大学大学院に進学することにしたのです」
「あなたの意見は、お金持ちの国の発想」と指摘される
世界24カ国から集まった院生は48人。ある時、ペルーのクラスメートから「あなたの意見はお金持ちの国の発想」と指摘された。
世界には干ばつによって、水を汲んでくるのに3~4時間かかる国もあれば、降雨でインターネットが使えなくなる脆弱な通信環境の国もある。世界に貢献できる人材になりたいという志を持って大学院に進んだ佐座さんは、開発途上国の実情に理解が不足していたと思い知らされた。
「開発案について、ずっと意見交換をしているのですが、私の提案は、すべてお金がかかったり、インフラが整っていることが前提でした。海外経験は豊富ですので、スラム街も見ていますし、お金持ちじゃない国の友人も多い。偏った発想をしていた事実にもすごいショックを受けました。ただ逆に、『お金持ちの国だからこそ、できることは大きいよね』と思ったのです。彼女に指摘されたことが起点になってSWiTCHができ、世界を変える立場にある日本のリソースを有効活用しなければ、というところにつながったんです」
かつて住んでいた島が海に沈んだ模擬COP仲間も
海面上昇で島が水没の危機にさらされ、移住を強いられた南太平洋ソロモン諸島出身のMock COP26仲間もいた。2021年COP26の議長に向けて、海面に沈んだかつて祖父母が住んでいた島の上で波に揉まれながらメッセージを発信するグラディス・ハブさんのユーチューブの映像は、誰の胸をも打つものだ。
佐座さんは、勉強熱心で高い理想を抱いているさまざまな文化的背景を持つ友人たちに刺激を受け、気候変動のリスクを、 “自分ごと”にしていった。ロンドンで学んでいた彼女は、グラスゴーで開催されるはずだったCOP26の延期が発表されると、すぐに立ち上がる。
「いくらコロナ禍とはいえ、気候危機は待ったなしです。大人がやらないなら、私たちがやるしかないと、世界140カ国から環境専門家330人がオンラインで集まり、Mock COP26を開こうと決心しました」
その準備の過程で、ITの恩恵を大いに感じたという。
「メンバーには、いままで会ったことがない人もたくさんいました。それがITのおかげで世界中どこでも簡単につながることができました。またITには循環型社会における効率化の方法や、エネルギー面でどこの生産性が低いかなどについて、わかりやすく数値で可視化する力があります。悪かったポイントを良くするための数値が見えることで、改善ポイントが生まれてくる。また、その情報を瞬時に共有することも可能です。ただ、数値に依存することなく、地球のためにどう良くするのかについては、人間が考えないといけません」
それ故に、彼女は実際に対面で話すことの重要さについても、こんな話をしてくれた。
「じつは、オンライン開催だったMock COP26が日本で注目されたのは、グラスゴーで開催されたCOP26に実際に参加したことがきっかけです。議長国や各国の大臣級の人たちに直接アピールできたことで、気候変動教育の義務化に20カ国に署名してもらうことができました。それと、毎日オンラインで会話して“本当の仲間”と呼べるようになった人たちと、COP26で初めて会えた時は、やはりオンラインだけでは感じられないつながりを対面で体験しました。仲間の一人のカナダ人の彼女はこんなに身長が高かったんだなんてことを知るのも楽しかった」
デザイン重視の発想にはアーティストの妹の影響が
SWiTCHは活動方針の柱として循環型テクノロジーとサステナブルデザインの融合を掲げている。
「循環型社会を作るにはテックは必要不可欠です。さらにデザインも同じくらい大切だと思っています。循環型のアイテムを作ったとしても、本当に使いたいものになっていなければ、そのまま使われなくなってしまう。デザインの力で柔軟な使用方法が生まれるのではないかと思っています。例えばMacも、流行ったのは機能性以外にデザインがシンプルなのに、カッコいいからですよね。」
デザイン重視の発想は、妹の影響が大きいという。佐座レミさんはロンドン芸術大学で学び、今年卒業した空間デザインなどを手掛けるアーティスト。サステナブルなメッセージを掲げたインスタレーションなどを制作し、ロンドンをベースに活動している。
「アートだからこそ、人類にとっての価値を考えるきっかけを提供し、言語の壁を超えて世界の人々の心を動かせます。アートとサステナブルな社会づくりはだからこそ密接なのではと考えています。私が到底発想できないものを彼女は作っていて、お互いに刺激し合っています」と、笑う。
そして、佐座さんはこれまでの活動を振り返りながら、力を込めてこんなメッセージを残してくれた。
「若者の力は捨てたもんじゃない。それどころか、すごいんです。Mock COP26の参加メンバーは、本当に地球を変えたいって心の底から思っています。大人たちがやらないなら若者たちで一緒にやろうという共創意識に溢れている。そして、国際的なムーブメントを作れたのは嬉しいんですが、日本を振り返ると『あれ、なんか日本は波に乗れてない?世界の流れから取り残されている!』と強く思ったんです。だからこそ、本気で日本を変えて、世界とのギャップを無くし、サステナブル先進国として認められるようにしていきたい。いまなら間に合うと信じています」
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佐座槙苗(さざ・まな)
幼少期を福岡県で過ごし、インターナショナルスクールを経て、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学にて人文地理学を学ぶ。2019年ロンドン大学大学院 サステナブルディベロプメントコースに進学。コロナ禍でいったん日本に帰国。140カ国の若者が気候変動について議論する「Mock COP26」の立ち上げに参加した後、2021年1月一般社団法人SWiTCHを設立し代表理事に就任。
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