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株式会社Gab代表取締役CEOの山内萌斗氏は学生起業家だ。静岡大学情報学部に在籍しながら休学をして会社を立ち上げた。現在4期目の同社は、ゴミ拾いをエンタメ化した事業である「清走中」と、「エシカルな暮らしLAB」という、エシカル商品に特化した店舗展開を2本の柱としている。そんな若き経営者が何を志して起業し、どんな目標に突き進んでいるのかについて話を伺った。

「第1回:小さな挑戦から始めて、壮大なイノベーションを起こす」
「第2回:シリコンバレー研修で、must haveな事業に目覚める」はこちら>
「第3回:LaaSをイノベーションとして花開かせたい」はこちら>

社会課題解決の敷居を極限まで下げたい

「株式会社Gabは4期目で、大学2年生の19歳の時に会社を立ち上げました。当社が掲げるミッションは『社会課題解決の敷居を極限まで下げる』です。社会課題の解決や、SDGsについては多くの人が大事だと認識していると思います。その一方で、敷居が高く、最初の一歩にどう取り組むべきかがわからないことも多い。私自身もそう感じていました。敷居を下げるためには、全員がアクセスできる仕組みとサービスが必要ですし、イノベーションを起こすこともそれと同じです。最初は小さな挑戦から始まり、思わぬ形で変化して壮大なイノベーションを実現していくのだと思います。社員の平均年齢が21歳という若い力を最大限生かして、世界を変えたいです」

CEOの山内萌斗氏は、穏やかな口調で語り出す。株式会社Gabは、主に2本の事業領域で成長を続けている。その一つが、ゴミ拾いをエンタメ化した、「清走中」というイベント。自治体や企業と組み、これまで全国14カ所で19回開催。2,100人あまりを動員し、クラウドファンディングでも340万円以上の資金を集めた実績がある。

画像: 2022年のクリスマスイブに甲府市で開催された「清走中」での集合写真

2022年のクリスマスイブに甲府市で開催された「清走中」での集合写真

「ゴミ拾いは敷居が高く、意識が高い人しかやらず、毎回参加してもらうためにはさまざまなハードルがあります。ですが、『清走中』はゴミ拾いに関心がない人でも思わず参加したくなるような、いろいろな仕掛けを盛り込んでいるイベントです。直近では2022年のクリスマスイブに甲府市で開催し、110名の人たちが参加して楽しくゴミを拾ってくれました」

熱狂的にゴミを拾うというエンタメの力こそ、社会的課題解決の第一歩なのではないかと山内氏は強調する。ただ「清走中」にたどり着くまでには、試行錯誤もあった。

コロナ禍によってビジネスモデルが崩壊

「起業のきっかけは大学2年時に、『地方の大学生が東京に20日間滞在し、東京の課題を解決する』という合宿型ビジネスコンテストに参加したことでした。東京を歩き回って気づいたのが『渋谷の街がゴミだらけ』という課題。原因はゴミ箱が少ないことでした。地方は、コンビニや自動販売機の横にゴミ箱がありますが、渋谷にはゴミ箱がなかった。もう一つ、ゴミ箱の設置には、ゴミの回収など維持管理コストがかかるというオーナー側の課題も。その解決法として、広告付きのゴミ箱を置くというアイデアを発表して優勝できたんです」

画像: ゴミ箱に広告を掲載するというモックアップも日の目を見ることはなかった。

ゴミ箱に広告を掲載するというモックアップも日の目を見ることはなかった。

だが、資金調達し、事業を始めようとしたタイミングでコロナ禍になり、ゴミ箱に広告掲載してポイ捨てを防ぐ、というモデル自体が成り立たなくなった。

そんな時、あるプレゼン時のブレイクアウトルームで北村優斗さんという高校3年生に出会う。聞けば、フジテレビの人気番組「逃走中」にインスパイアされた「清走中」というイベントを高校2年生の時から開催。地元長野で100人以上も動員し、地元企業の協力も得て成功させていた。これはフジテレビ「逃走中」制作チームから動内容についての許諾を得た上で、株式会社Gabが商標登録して運営を続けているものだ。

「ゴミ箱に広告を掲載する最初のアイデアに頓挫してからも、地道にいろいろな団体とコラボイベントをしていました。そんな中でポイ捨てされやすい場所などをデータマッピングする、『My GOMI.』というサービスを開発。とにかくデータを蓄積して、何か違う形に利用できればと日々奮闘していました。ただ、いろいろなイベントを仕掛けても動員には難がありました。人の動員という難しい課題を『清走中』は軽々と乗り越えていて、これは可能性があるなと。そこで北村さんに大学入試が終わったら一緒にやろうと伝えました。彼はセンター試験の翌日に連絡をくれて、わずか2カ月後の3月には長野県の長野・松本・上田・飯田・諏訪の5都市で同時開催していました」

こうした経緯で、会社の事業としてキャッシュを生み出してくれることになった「清走中」。だが、矛盾も抱えることになる。「ポイ捨て」よりも「拾う」が大きくなればゴミはゼロになるが、一方でポイ捨てという行為自体を解決することにはならないからだ。山内氏は、投資家や事業者から「スタートアップでイノベーティブなことをしたければ、モノづくりや、売り方、消費者の意識を抜本的に変えるべきでは」と言うアドバイスを受ける。

根本的な社会課題を解決するには、エシカルな商品を世の中に普及させ、消費行動を促すことが大切だと思い至り「エシカルな暮らし」というインスタグラムのアカウントを立ち上げた。

実店舗とエシカル商品の相性の良さに開眼する

「もうひとつの事業である『エシカルな暮らし』は毎日のインスタグラムでの投稿で、社会課題をわかりやすく解説し、実際の解決につながる商品を載せています。例えばゴミから作られていたり、プラスチックを一切使っていない生活雑貨。ファッション、アクセサリー、食品などです。その商品を私たちが実際に使用して、本気でレビューしていきました。現在のフォロワーは4万人を超えています」

そんな実績を元に、オンラインからオフラインまで集客して売上を達成するというパッケージ化を実現。三井不動産、丸井などと共同で売り場作りを行っている。この8カ月でポップアップストアを11回開き、16,000人以上を動員。さらに、これまでのノウハウを集結させた常設店舗を有楽町マルイに2022年9月にオープンした。

「店舗としての『エシカルな暮らしLAB』は順調に推移していますが、ここに至るまで軸が定まらない部分もありました。インスタグラムのアカウントは順調にフォロワーを増やしていたので、まずはエシカル商品をアフィリエイトとしてECで展開していたんです。ただ、そこそこ売れるのですが、事業の柱になってくれるほどの売り上げは達成できませんでした。そんなタイミングで、三井不動産の方と偶然に出会い、渋谷の宮下パークにポップアップストアを出せることになりました。決して人流が多い場所ではなかったにも関わらず、ECの5倍以上も売り上げ、実店舗とエシカル商品との相性が良いことに気付かされました。インスタグラムのフォロワーさんたちもたくさん来店され、商品を購入してくれました。私たちが想像していた以上に、皆さんはエシカルな商品を求めていて、それを直に手に取ってみたいという熱が高かったんです」(第2回へつづく)

画像: 宮下パークのテナントで最初のポップアップストアを開いた

宮下パークのテナントで最初のポップアップストアを開いた

「第2回:シリコンバレー研修で、must haveな事業に目覚める」はこちら>

画像: エシカルな暮らしをすべての人に
【第1回】小さな挑戦から始めて、壮大なイノベーションを起こす

山内 萌斗(やまうち・もえと)
株式会社Gab 代表取締役CEO 

2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中。東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表。大学1年次の2月にシリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意し、同年12月に「ポイ捨てをゼロにする。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。現在4期目。フォロワー4万人のInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の運営や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」の全国展開など、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる」をミッションに掲げて複数の事業を展開中。

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