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一橋ビジネススクール教授 楠木建氏/独立研究者・著作家・パブリックスピーカー 山口周氏
2022年3月16日にライブ配信した、楠木建氏と山口周氏による対談「資本主義のこれから」。最終回では、聴講者からの質問に、お二人ならではの考察を交えてお答えいただく。

「第1回:プロジェクトファイナンスと資本主義。」はこちら>
「第2回:イタリアに見る、資本主義の成熟。」はこちら>
「第3回:資本主義と社会主義は真逆なのか。」はこちら>
「第4回:Q&Aライブ」

画像3: Q3:日本は経済大国の看板を下ろすべきか?

Q4:地域コミュニティの機能を高めるには?

「お金の目的化」を防ぐために、共通の価値基準が世の中に必要であるというお話に強く共感しました。そう考えると、自分の納税が世の中に還元されることに喜びを感じられるような空気感の醸成が必要だと思います。日本では、地域コミュニティの再建が1つのカギになると思います。コミュニティの機能を高めるための方向性としてはどのようなものが考えられるでしょうか。

山口
このご質問は、みんなで税金をもっとたくさん払って、困っている人に使ってもらうような世の中にしないと、お金の目的化を防げないのではないかという意図なんでしょうね。

楠木
そうでしょうね。自分の税金がどういうふうに使われるのかという納得なり実感なりを持つためには、国のレベルよりかは地域のレベルのほうがわかりやすいのかもしれない。

山口
先日ある企業の方とオンラインでミーティングしたんですが、その方は東京の本社に籍があるのだけれど、住んでいるのは九州。リモートワークの普及でこういうことが一般化すると、住む場所を選ぶという行為に市場原理が働いてくる。今までは会社に通える場所に住まざるを得なかった。つまり、雇用のある場所にみんなが住んでいた。

画像1: Q4:地域コミュニティの機能を高めるには?

もし日本中どこの街に暮らしてもいいよということになって、コミュニティの雰囲気や物価、自然、洗練された文化へのアクセスといった要素のバランスを考えてみんなが住む場所を選ぶようになると、街同士の競争がこの先、起こってくると思うんです。そうなると、それぞれの街のアイデンティティもはっきりしてくる。

「魚釣りができるきれいな海が目の前にある」という街には、そういうニーズを持った人が集まってくるでしょうし、「都会的な洗練と自然の豊かさ、両方が欲しい」という人は軽井沢のような土地に集まってくる。一方で、昭和の時期にたくさんつくられた「小さな東京」みたいな街は、中途半端に便利で、中途半端に自然があるのでキャラクターがはっきりしない。人が集まらず苦労する街も出てくると思いますが、これはこれで面白い流れが来たなと。

楠木
僕はその競争にはかなり期待できると思うんです。キャラクターを出すための工夫をきちんとやっている街なら、成果が出ますからね。

山口
まさに競争戦略論ですよね。

楠木
僕はバーチャルの世界が発達しても、リアルな生活の意味は全然変わらないと思うんです。住んでいるコミュニティのどんなところが良いか、悪いかは日々、五感で感じることができる。どの地域に住んでいるのかが、今後、より大きな意味を持つと思います。

画像2: Q4:地域コミュニティの機能を高めるには?

山口
司馬遼太郎が言っていますが、なぜ明治時代にあんな奇跡みたいなことをいろいろうまくやれたのかというと、1つは藩という制度が持つ多様性だと。長州藩は政治の天才を育てる素養があって、薩摩藩は器の大きなリーダーを育てる、佐賀藩はエンジニアを育てるというふうにそれぞれ藩風があった。で、明治政府ができたときに多様な人材が中央政府に集まってきたからうまくいったのだと。でも今や、教育制度も全国統一ですし、ある種の価値観が日本全国で標準化されてしまった。

楠木
幕藩体制を当時オランダの人が見たときに、「とんでもないぞ」と感じたそうですね。

山口
そもそも1つの国と言えないですからね。

楠木
一応、江戸幕府のガバナンスが行き渡っているのに、各藩に個性があって、かつ競合している。究極の政治システムなので、なんとか取り入れられないかと言ったオランダ人もいたほどです。

ただ、この話を出口治明(※)さんにしたら、「でも、みんながお腹を空かせていたから、江戸のシステムはダメ」とおっしゃっていて、それもそうかと。

※ 立命館アジア太平洋大学学長。ライフネット生命保険株式会社の創業者。

画像1: 楠木建×山口周「資本主義のこれから」―その4
Q&Aライブ

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。

著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

画像2: 楠木建×山口周「資本主義のこれから」―その4
Q&Aライブ

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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