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日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 環境戦略本部 サステナビリティ推進センタ 部長代理 菊間里枝
多くのビジネスパーソンがリモートワークにシフトした2020年、サステナビリティ推進活動の中断を余儀なくされた企業は少なくないはずだ。日立も例外ではなく、紆余曲折の末、なんとか活動の再開に漕ぎ着けた。2019年にEFOで公開した「社員と社会をつなぐ『プロボノ』」の続編として、日立の情報通信部門のサステナビリティ推進担当者や、2021年度の「企業プロボノ」に参加した社員、プロボノの支援先団体の職員、運営に携わったNPO職員の声を交え、コロナ禍における取り組みをレポートする。

「第1回:サステナビリティ推進活動の担当者は、コロナ禍をどう乗り越えたのか」
「第2回:NPOと向き合った、日立社員の2カ月半」はこちら>
「第3回:プロボノ支援が、NPOにもたらすもの」はこちら>
「第4回:プロボノに伴走する理由」はこちら>

年間計画が白紙に。活路は「選択と集中」「オンラインコミュニケーションの活用」

多様なサステナビリティ推進活動を展開してきた日立の情報通信部門。コロナ禍で緊急事態宣言が出された2020年4月、年間スケジュールは組まれていたが、状況は一変した。

「ワークショップやプロボノ(※)など、社員のサステナビリティマインドを醸成する活動はどれも対面でのコミュニケーションが核となる設計でした。2020年4月、在宅勤務に切り替わったことで、その年間計画がすべて白紙となってしまったのです」

※ 企業で働く人が本業のスキルを活かし、NPOをはじめとする公益団体の活動を支援する社会貢献活動。

画像: 年間計画が白紙に。活路は「選択と集中」「オンラインコミュニケーションの活用」

そう振り返るのは、日立の情報通信部門のサステナビリティ推進を担当している菊間里枝だ。社員たちはいったいどんな思いで働いているのか。コロナ禍が社会に暗い影を落とすなか、サステナビリティ推進活動に取り組んでいる場合なのか。菊間は改めて活動の意義を問い直すとともに、コロナ禍だからこそ社員に提供すべき価値を模索。社内の関係者や社外の協働パートナーとのブレインストーミングをひと月近く重ねた末に導き出した方針が、コロナ禍において実施すべき活動の「選択と集中」、そしてオンラインコミュニケーションを活用した内容の再構築だった。

「チームビルディングやワークショップをオンラインで行うニーズが社内できっと高まってくるはず。そこに、サステナビリティ推進活動をオンラインで行う意義があると思ったのです。また、コロナ禍だからこそ社員が自分と社会、社会と仕事との接点に改めて気づく機会を提供したいと考えました」

こうして菊間が2020年度の活動として絞り込んだのが、「社会イノベーション事業体験ワークショップ」と「企業プロボノ」、そして情報発信だった。

画像: 日立の情報通信部門が2020年度に計画していたサステナビリティ推進活動の一覧。緑色の部分が実際に行った活動だ。

日立の情報通信部門が2020年度に計画していたサステナビリティ推進活動の一覧。緑色の部分が実際に行った活動だ。

コロナ禍を逆手に取った、新しいワークショップのかたち

社会イノベーション事業体験ワークショップとは、NPO法人クロスフィールズの協力のもと、新興国が抱える社会課題の解決をめざし、社員が4人ずつの3チームに分かれ、3カ月かけてビジネスアイデアを考案するというもの。「コロナ禍で海外への渡航ができない状況だからこそ、社員に海外との接点を持ってもらう意義があるのでは」というのが菊間の狙いだ。オンラインでの実施に際してさまざまなハードルがあったものの、10月下旬、菊間は無事にワークショップ開催に漕ぎつけた。

2020年度の参加社員が取り組んだ社会課題は、カンボジアの医療、食・農業、教育。菊間が苦心したのが、社員が日本に居ながらにして現地を体感できるための工夫だ。

「例年のプログラムでは、現地で活動する社会起業家を講師に招き現地の社会課題の現状をレクチャーいただいていましたが、2020年度はレクチャーをオンライン化したことに加え、参加社員がZoomで現地の方に直接インタビューするという試みをしました。その結果、過去のワークショップよりも身近に、新興国の課題を感じてもらうことができました」

画像: ワークショップはオンライン形式と対面形式のハイブリッドで実施された。写真は2回目の全体セッションの様子。この日は徹底した感染対策のもと参加社員がオフィスに集い、カンボジア在住の講師とオンラインでつないでディスカッションが行われた。

ワークショップはオンライン形式と対面形式のハイブリッドで実施された。写真は2回目の全体セッションの様子。この日は徹底した感染対策のもと参加社員がオフィスに集い、カンボジア在住の講師とオンラインでつないでディスカッションが行われた。

在宅勤務でも下がらなかった、企業プロボノのモチベーション

同じく2020年に実施された企業プロボノは、社員4~5人のチームが2カ月半という短期間で、NPOをはじめとする公益団体が抱える課題の解決策を提案するというもの。2020年度はこれをフルオンラインで実施したが、初めは不安があったと菊間は明かす。

「支援先団体の活動を実際に見ることができず、社会課題の現場を体感できないため、参加社員が社会課題を自分事として理解できるか、不安がありました」

しかし、菊間の懸念は杞憂に終わる。それまで通勤に割いていた時間を有効に使えるようになったことで、社員と支援先団体とのコミュニケーションが密になり、社会課題への理解を深めることができたと言う。なかには、支援先であるNPOの活動の現場へ自主的に足を運ぶほど熱量の高いチームもあり、支援先への最終提案は例年に遜色なくクオリティが高かったと菊間は語る。

画像: 2020年度の企業プロボノで森林保全をしているNPOを支援したチームは、NPOの活動の現場を自主的に視察した。

2020年度の企業プロボノで森林保全をしているNPOを支援したチームは、NPOの活動の現場を自主的に視察した。

オンライン化で再認識した、対面の力

サステナビリティ推進活動への社員の募集には、コロナ禍以前と同様にメルマガ配信と社内イントラを用いた。ただ1つ異なるのは、ポスターを使えないことだ。

「以前なら、会社のエレベーターホールや社員食堂に貼ったポスターが社員の目に触れていましたし、仕事の合間の雑談にサステナビリティ推進活動が話題になるなど、対面ならではの日々のコミュニケーションが多くの応募につながっていたように感じます。そんな日常が見られなくなってしまった2020年は、応募者数が定員ギリギリという活動も実はありましたが、本当に意欲の高い社員が集まってくれました。コロナ禍で世の中が大変な状況だからこそ、積極的に社会に関わりたい。そんな強い思いを感じました」

画像: オンライン化で再認識した、対面の力

2020年10月に行われた社会イノベーション事業体験ワークショップの初回は、参加社員同士の初対面の場でもあることから、徹底した感染対策のもと、敢えて対面形式で実施された。そこで菊間が目の当たりにしたのは、久しぶりの対面の場で生き生きとディスカッションする社員たちの姿だった。

「対面とオンライン、双方のメリットを実感できたのが2020年でした。いずれコロナ禍は終息していくかもしれませんが、これからも対面とオンラインのハイブリッドでサステナビリティ推進活動を続け、社員の皆さんが社会課題の解決への強い意志をもってアクションを起こせるきっかけとなるような体験を提供できたらと思います」

その言葉どおり、2021年度も対面とオンラインのハイブリッド形式でサステナビリティ推進活動が実施された。次回は、その中の企業プロボノに参加した社員の体験談をお届けする。(第2回へつづく)

「第2回:NPOと向き合った、日立社員の2カ月半」はこちら>

画像: 続・社員と社会をつなぐ「プロボノ」
【第1回】サステナビリティ推進活動の担当者は、コロナ禍をどう乗り越えたのか

菊間里枝(きくま・りえ)
日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 環境戦略本部 サステナビリティ推進センタ 部長代理。入社以来、情報・通信分野のスタッフ部門としてソリューション事業の推進の取りまとめや、経営企画業務などに従事。2016年からコーポレートコミュニケーション本部にて幹部講演シナリオ策定業務に携わったのち、2018年より現職。日立の情報通信部門の社員を対象にさまざまなサステナビリティ推進活動を展開している。

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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