「第1回:インテリアと家電の視点から考える『おうち時間』とは?」はこちら>
「第2回:家具とインテリアのニーズに見る、ワークスタイルの変化とは?」
「第3回:アフターコロナにおける『ウェルネス』の高め方とは?」はこちら>
出演者
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベ―ション協創センタ
プロダクトデザイン部 リーダ主任デザイナー 助口聡(ナビゲーター):家電・ホームソリューション分野のデザインマネージャー
プロダクトデザイン部 プロダクトデザイナー 佐藤知彦:冷蔵庫のデザイン開発を担当
プロダクトデザイン部 プロダクトデザイナー 關舞:掃除機と空気清浄機のデザイン開発を担当
価値創出プロジェクト サービスデザイナー 日野水聡子:都市向けのソリューション創生を担当
価値創出プロジェクト サービス研究者 高田芽衣:まちづくりや働き方、オフィスのあり方を研究
株式会社アクタス
ビジュアルマーチャンダイザー 岡田夕起氏:日立の冷蔵庫のデザイン監修を担当
ヨーロッパ家具バイヤー 野口礼氏:ヨーロッパ家具の買い付けと商品開発の責任者
雑貨グリーンバイヤー 徳増和司氏:ライフスタイルとインテリアグリーンのブランドを担当
子ども用学習デスクという、3つめの居場所
日立 助口
2つめのトピックは「ワークスタイル」です。コロナ禍において、多くの企業で在宅勤務が定着しました。家の中に仕事が入り込んできたことによって、新たにどんな課題が生じているのか、あるいはどんな価値観の変化が起きているのか、伺っていきたいと思います。
アクタス 野口
在宅勤務が定着して一番変わったのは、主に日中、家の中にいる人数です。お子さまも含めて、ご家庭の中で家族一人ひとりがいろいろなことをやっている。そこにストレスを感じている方も多いのではないでしょうか。
わたしたちがコロナ禍以前から強く感じていたのは、家族がリビングやダイニングで一緒に過ごすことは間違いなく大切だということです。ただ、在宅勤務が定着したことで、個のスペースをいかに確保するかが非常に重要になりました。ダイニングテーブルとソファだけではもはや足りず、それらに続く3つめの居場所として使われるようになったのが子ども用のデスクです。わたしたちとしては、お子さまだけでなく家族みんなで使ってほしいという思いでずっとデザインをしてきたのですが、コロナ禍以降、お父さんやお母さんが仕事やちょっとした家事などに子ども用のデスクを使うという需要が増えました。
それから、従来とは違った形のソファも売れるようになりました。以前は、テレビを見るために家族みんなで同じ方向を向いて座るタイプが人気でしたが、コロナ禍以降、コンパクトでもみんなが別々の方向を向いて座れるタイプが売れています。1人はテレビを見て、もう1人はノートPCで仕事をして、一緒の空間で過ごしながらも個々のスペースを確保できる。そんなデザインに対するニーズが高まっています。
アクタス 岡田
在宅勤務が主流になってからは、わたしたちの店舗でも子ども家具のディスプレイを変えました。ダイニングテーブルを仕事に使うシチュエーションだったり、子ども用の学習デスクをリビングルームに持ってきたりと、大人もお子さまも使えるデスクとして提案する展示スタイルに変えています。
アクタス 野口
一日の中でも気持ちにはアップダウンがあります。家族みんなで楽しく過ごしたいときはテーブルで、1人で作業に集中したい、ちょっと気分を変えたいというときは子ども用のデスクで過ごす。家の中に居場所を設けることの重要性を、多くの消費者が感じているのではないでしょうか。
コロナ禍で広がる、椅子のデザインの可能性
アクタス 岡田
当社のあるスタッフは、在宅勤務でずっと同じ椅子に座り続けるのがつらいので、丸テーブルに、デザインがバラバラの椅子を4脚そろえたそうです。2時間ごとに座る椅子を変えることで、見える景色も変わってくる。そうやってリフレッシュしながら1日8時間の在宅勤務をしていると聞いて、なるほどと。今までは、ダイニングセットといえば椅子はおそろいのデザインにするのが主流でしたが、敢えてバラバラのデザインのものを提案するのもよいかもしれません。
アクタス 野口
椅子ですからもちろん座り心地も大切ですが、在宅勤務をされている消費者からはデザイン性も重視されるようになってきました。とても機能的なワーキングチェアをダイニングテーブルに合わせると、確かにPC作業はしやすいけれど、家の中がオフィスのような無機質な感じになってしまう。そのジレンマに悩み、椅子選びに迷われるお客さまが少なくありません。デザインするわたしたちもその声にお応えできるよう努力しているところです。
コロナ禍以前からご好評いただいていた商品に、座面がお尻の形にくり抜かれた3本脚の木製のスツール(背もたれのない椅子)があります。もともとは、15世紀のデンマークで牛の乳しぼりに使われていたのがはじまりと言われています。この椅子をプライベートで使っていた当社のスタッフが、あるときふと気づきました。「木の座面なのに、長時間座っていても全然お尻が痛くならない。在宅勤務のニーズに応えられるのでは」と。 コロナ禍だからと言ってまったく新しい商品をつくるだけでなく、今すでに持っているアイテムにも目を向けて、活用する。そんな発想もわたしたちに求められていると感じます。
衣・食・住+「働」
日立 日野水
在宅勤務でオンラインの打ち合わせをしたときに、子どもの声が入ってしまうことがよくあります。わたしはデンマークやフィンランドで働いていたことがあるのですが、北欧ではコロナ禍以前からそれに近いことが日常的に起きていました。同僚がお子さんをオフィスに連れてきて大きなデスクで宿題をさせたり、ほかの同僚に赤ちゃんの面倒をみてもらったり。そういったことを通じて同僚の生活や人となりが自然に伝わってくることで、ヒエラルキーの少ないオープンな職場環境がつくられていったのではないかと、今振り返ると思うのです。
そういう職場環境はなかなか日本では生まれにくいだろうと思っていたのですが、図らずも在宅勤務が世の中に広がってきたことで、オフィスと家との境があいまいになってきました。子どもの声や足音が打ち合わせに入ってしまっても、「そんなものだよね、ちょっとくらいバタバタしていてもいいよね」とみんなが感じる。そんなマインドセットの変化が起きつつあり、ひいてはそれが、だれもが働きやすい職場環境をつくっていくのではないでしょうか。
日立 佐藤
わたしの家では夫婦ともども在宅勤務なのですが、同じタイミングでオンラインの打ち合わせがあると、お互いの声が重なってしまいます。そうならないよう、一日の中でフレキシブルに家具のレイアウトを変えています。家事や仕事が入り組む状況の中で、いかにストレスなく仕事環境を整えていくかが重要になってきていると感じます。
これまでは、衣・食・住という3つの視点から生活シーンが語られることが一般的でした。コロナ禍以降は「衣・食・住・働」の4つがモザイク状に交錯し、日々忙しく生活されている方が多いと感じます。日立ではこれを「ワーク・ライフ・モザイク」と呼んでいます。家事や仕事が混在した複雑な生活を、もっと快適にしたい。あるいは、より自分に合った形で働きたい。そういったニーズが今後ますます高まり、そこに新しいビジネスのヒントが隠されているのではないかと考えています。
関連リンク Linking Society
■プログラム1
「アフターパンデミックの、職住ライフスタイル」
■プログラム2
「暮らしとシゴトのちょうど良い関係」
株式会社アクタス
日本の暮らしの質的向上をめざし「美しく丁寧な暮らし」を広めるため、衣食住のすべてにまつわる優れた商品とサービスを、幅広い販売チャネルで提供。インテリアショップ「ACTUS」におけるヨーロッパ家具の輸入販売やオリジナル家具・雑貨の開発・販売をはじめ、レストラン・カフェやアパレル、リノベーション、公共施設や商業施設のインテリアデザイン・設計施工など幅広く手掛けている。
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Linking Society
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楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。