2019年4月に東京国分寺に開設された日立の研究開発拠点「協創の森」の存在意義について、研究開発グループのキーパーソン、森正勝と丸山幸伸が語る2回連載。後篇では、コロナ禍を逆手に2人が仕掛ける協創に向けた取り組みや、イノベーション創出をめざした社内での工夫、「協創の森」がめざす顧客とのコミュニティづくりについて語ってもらった。

「前編:日立はなぜ「協創の森」をつくったのか?」はこちら>

ウェビナーというアクセス手段

――2019年4月に設立された「協創の森」ですが、2020年にコロナ禍に見舞われ、世の中はいまだに対面でのコミュニケーションが限られた状況が続いています。「協創の森」を取り巻くこの1年を振り返ってみて、いかがでしょうか。


やはり、企業や行政の方がなかなか「協創の森」にお越しになれず、ワークショップや会議の延期を余儀なくされる事態が続いています。ただ、2019年度に比べて来訪者の数は減ったものの、新たに始まったプロジェクトも少なからずあります。社外の方々とリモートでのワークショップを重ねた結果、コラボレーションを始めるに至ったというパターンです。

リモートでの協創に手ごたえを感じるなかで改めて問われているのが、「協創の森」というフィジカルなコミュニケーションのための場をどう使うのか。協創の形をどう変えていけばよいのか。そこで研究開発グループは、我々から問いを発信しながら社外の方々と議論する場として、今年6月にウェビナー「問いからはじめるイノベーション」の配信をスタートしました。

画像: ウェビナー「問いからはじめるイノベーション」に出演する森と丸山

ウェビナー「問いからはじめるイノベーション」に出演する森と丸山

世の中では今、既存の学問領域だけでは解けない複雑な問題が非常に多く、研究の本質である「問い」に立ち返ることが我々に求められています。ウェビナーのテーマを「問いからはじめるイノベーション」としたのはそのためです。1つの「問い」に対して浮かぶ答えは、人それぞれ異なるはず。だからこそ、議論に値するテーマだと考えました。

画像: ウェビナーというアクセス手段

丸山
なかでも「社会課題とはそもそも何なのか」という議論を深めていきたいと考えています。というのは、ここ数年我々は、研究活動を事業に結び付けてイノベーションを起こすという取り組みに注力した一方で、研究者やデザイナーにとっての肥やしであるインプットの量が減ってしまったことを実感しているからです。オンラインを活用して社外に「問い直す」ことでインプットの量を増やせれば、社会課題をより正確に把握できるのではないか。そんな思いも持っています。

雑談に代わるアイデアの源泉「100本インタビュー」

丸山
ちょっと脱線しますが、この一年間社内を見ていて感じるのは、オンラインで気軽に打ち合わせができるようになったことで、対面の打合せ後に生まれていた雑談のような余白のコミュニケーションが激減したことです。何気ない雑談がまったくないと、アイデアのダイナミクスは生まれない。そう強く感じています。

画像: 雑談に代わるアイデアの源泉「100本インタビュー」

そこで研究開発グループでは、従業員を対象に「100本インタビュー」を行い、その音源を社内ラジオ(社内限定のネットワーク配信)で流し続けるという施策を半年ほど前から行っています。新人や異動してきたばかりの従業員の紹介にもなりますし、同僚の人となりや興味関心を知っているかどうかで、顔を合わせたときに最初に投げかける一言も変わってきます。もし共通の関心事があれば、一緒に仕事をする際にもスムーズに動き出せます。この100本インタビューが、研究開発グループ内における「信頼基盤」として拡がっていくことを期待しています。

インタビューでは、仕事の話よりもオンライン生活の状況や趣味について聞きます。すると面白いことに、趣味の話から業務や研究哲学の話につながることがあります。例えば、将棋が趣味のAI研究者が、AI将棋が人間を超えるかどうかというシンギュラリティについての持論を展開したり、最近銭湯にハマっているデザイナーが、銭湯文化と昭和の建築との関係についての考察を披露したりと、仕事のアイデアに通じる同僚たちのさまざまな視点が見えてくる。それが同僚の刺激となることを狙っています。

「協創の森」がめざすコミュニティづくり

――先ほどお話に出たウェビナーなどの活動や「協創の森」という場を通じて、どのように企業や行政を巻き込んでいきたいですか。

丸山
R&Dが社会に貢献する1つのスタイルとして、ウェビナーを核に、知識を創造していくコミュニティをつくっていきたいです。「問い」からはじめて、企業や行政などと一緒にビジョンを描き、新しいビジネスモデルをプロトタイピングしてソリューション化していく。それを単に日立だけの利益にするのではなく、「協創の森」の活動を通じて実現を加速する、イノベーションのパイプラインのようなものになれたらいいなと思います。


冒頭でも触れた「25のきざし」のように、「協創の森」ならではの視点がここにはあります。Webサイトをご覧になった企業や行政の方から、「あの観点が面白そうなので、詳しく聞かせてほしい」というお話をいただくことがあります。お客さまが何か課題の解決に取り組もうという際に日立を想起していただければ、一緒に新しいビジネスモデルを生み出せるかもしれません。

丸山
ウェビナーを始めたときに社外の方からの反応で嬉しかったのが、「日立がようやく外部との“対話”を始めましたね」と。結局のところ、社会課題を解決するには、日立だけの力では全然足りないのです。企業や行政などの皆さんと一緒に議論して、考えて、新しい何かをつくっていかないと、世の中は変わらない。そのために、皆さんのお力をお借りしたいです。

画像1: プロローグ-「協創の森」とは何か
【後篇】コロナ禍で模索する、イノベーションの可能性

森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。

画像2: プロローグ-「協創の森」とは何か
【後篇】コロナ禍で模索する、イノベーションの可能性

丸山 幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

新たな協創のカタチ

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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