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環境革命の時代に求められる、「トランジション」マネジメント
――我々が今向き合わなくてはいけない問題の1つに、環境問題があります。それは、世界の将来像を思い描ければよいというものではなく、問題解決に向けたさまざまなパスウェイ(道筋)があるのかもしれません。お二人から何か示唆をいただければと思います。
紺野
以前、日立さんが「トランジション(transition:転換)」というキーワードで環境問題に取り組まれているというお話を伺ったことがあります。トランジションは非常に大事です。ただ、環境革命を起こすには、システムを既存のAから新しいBにシフトさせるという単純なトランジションではなく、システムAを残しながら一方でBを新たに立ち上げるといったように、複雑な状況が世界で続くかもしれません。
となると、トランジションを促進するだけではなく、マネジメントすることが大事になります。システムを変える目的は何なのか、もしシステムに不具合が起きたらどうなるかなど、いわばシナリオを考えるように目的を設定することが、トランジションのマネジメントにつながるのではないかというイメージを持っています。
森
おっしゃるとおりだと思います。2050年にカーボンゼロ(温暖化ガス排出を実質ゼロにすること)を達成するためには、2040年にはどういう状況でなくてはいけない、そのためには2030年には何をすべきかというようにバックキャスティングで考えていかなくてはいけないと近年言われています。その中で、確からしい未来をつくるにはどうすべきかを考えたとき、例えば、いろいろな経済予測と人々の価値観を組み合わせながらトランジションのシナリオを設定するというチャレンジに我々は取り組んでいます。
ただ、すべてがシナリオどおりにはいかないでしょうし、地域によって取り組み方も違ってくると思います。地域の状況に応じたソリューションを適用しつつ、カーボンゼロというゴールはブレないといった全体のマネジメントが、我々にとってのチャレンジかなと思っています。日立が生み出したトランジションのアイデアを叩き台にしていただいて、どんな大目的を設定すべきかステークホルダーの皆さんと一緒に考え、それに合わせて小目的や中目的を設定するといった取り組みを行っています。
ストーリーからナラティブへ
紺野
最近、マーケティングの専門家の方々がおっしゃっていて面白いなと思ったのが、「ストーリーからナラティブへ」。narrativeには、話術や語り口という意味があります。つまり、既存の成功例を分析してエッセンスを過去のストーリーに当てはめようとしてもうまくいきません。個々別々の、時々刻々の状況に合わせてナラティブに、すなわち、「今ここで」語っていく力がこれからは必要だと。これも1つのデザイン力だと思うのです。
そして大事なのが、これまで何度も申し上げてきました大目的を意識しながら語り、実践していくことです。おそらく日立さんもそれをなさろうとしているのではと察します。
森
そのとおりです。わたしが所属している研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部には、デザイナーや研究者といった、ある意味、非常に思いの強い社員が多く在籍しています。そういう人たちが社会に対して問いを投げかけるということを、まさにナラティブな形で発信していけたらなと思っています。
紺野
日立さんの取り組みは日本の産業にとって1つのベンチマークです。ぜひ今後も注視させていただきます。
――先進の技術でソリューションをつくるだけでは駄目で、きれいなビジョンだけ描いて動かないモノをつくるだけでも駄目だと。どう社会を変えていくのかを皆さんと一緒に考え、問うて、実践していくことが大切だということを痛感しました。お二人ともたいへん興味深いお話、ありがとうございました。
関連リンク Linking Society
■プログラム1
「なぜ私たちは問いからはじめるのか?」
■プログラム2
「目的工学の観点から社会イノベーションを紐解く」
■プログラム3
「サステナビリティのための問い」
紺野 登(こんの のぼる)
多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授。一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)Chairperson理事、一般社団法人フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン(FCAJ)代表理事、エコシスラボ株式会社代表。早稲田大学理工学部建築学科卒業、博士(経営情報学)。デザイン経営や知識創造経営、目的工学、イノベーション経営などのコンセプトを広めたほか、組織や社会の知識生態学をテーマにリーダーシップ教育や組織変革、ワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。また、FCAJやトポス会議などを通じてイノベーションの場や世界の識者のネットワーキング活動を行っている。2004年〜2012年グッドデザイン賞審査員(デザインマネジメント領域)。著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、『知識デザイン企業』、『知識創造経営のプリンシプル』(野中郁次郎氏との共著)など多数。
森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。
ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。
Linking Society
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。