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株式会社 日立製作所 執行役副社長 德永俊昭/インタビュアー:久保純子氏(フリーアナウンサー)
シリコンバレーには自由闊達な独特の空気感があります。德永さんはそこに拠点を置くことで、新しいことに挑戦する意欲的な人財に出会え、一緒に働くことで、組織の変化を加速させることができるといいます。日立のDNAである「社会に貢献する」という理念が、人財の流動性が高いシリコンバレーにあって、人財獲得に大きな役割を果たしていることが、私にはひしひしと伝わってきました。

※2021年4月1日に德永の役職を変更しています。

「第1回:父親の導き」はこちら>
「第2回:日立のデジタルソリューションの可能性」はこちら>

シリコンバレーでの仕事

久保
シリコンバレーのお話も伺いたいと思います。私の友人が シリコンバレーに本社を置くGoogle に勤めていて、10年ほど前に本社キャンパスを訪れたのですが、社内にブランコがあったり、滑り台があったり、そして何よりも働いている方たちが皆さん若いということに驚きました。社員の平均年齢が20代後半だったかと記憶しています。シリコンバレーでトップに立つ仕事をすることの特別な難しさはありますでしょうか、逆にやりやすい部分もありますか。

德永
当然、両面あると思います。まず、シリコンバレーで経営するということ自体、大きなプラス面があります。新しいことがここから起きていて、新しいことをしてやろうという人財もたくさんいます。日立ヴァンタラ社も数年前からその業容を少しずつ変えてきて、新しい事業に取り組んでいるわけですけども、人財流動性が高い市場で、新しいこと、いろんなことを考えてる人がいるマーケットで採用活動ができる、あるいは一緒になってパートナーと仕事ができるということは、非常に全てを加速するという意味でポジティブな作用がすごくあるなと感じています。

一方で、若干ネガティブな話も、今ご説明した内容の反作用として当然あると思っています。やっぱりパーソナルアジェンダを持っていて、その中で新しい Job opportunity をどんどん追いかけたい、自己実現欲求の塊みたいな人に溢れていますので、決して日本人のように1箇所に留まって自己実現しようと思っている人が多いわけではない。そんな中で、日立っていう会社に来てもらい、日立の仲間と一緒に少し腰を据えて仕事をしてもらうためには、やっぱりその企業の理念に賛同してもらえるかどうかが結構ポイントなんだということが分かりました。腰を据えて長く一緒に仕事をしてくれる人が口を揃えて言うのは、「日立って日本の会社で古いかと思っていたけども、その企業理念を見ると“社会に貢献する”という理念が100年前から入っているんだよね。これってすごいことだよね」って言ってくれる人が意外に多いということもあったんです。ネガティブな部分を打ち消すだけのDNAというか特色が日立にはあるかなという感じがしています。

日系企業の成功事例?

久保
「社会に貢献する」という企業理念は、日本における日立同様、アメリカでも受け入れられていますでしょうか。

德永
そう思います。私もそんなことないんじゃないかと偏った考えを持っていたんですけども。

久保
外からの印象ではアメリカの人たちは日本人に比べて自分をより活かせるところへ、と前のめりになっている雰囲気があるようにも感じますが。

德永
はい、西海岸には資本主義の申し子のような、サラリーが上がるんだったらどんなことでもするというような人がいっぱいいるんだと思っていました。ところが、すごく若い人に「なんで日立を選んだの?」って私からこう聞くと、「日立の企業理念に“社会に貢献する”というのが入っているから」っていうふうに言ってくれるんです。実はこういう人は決して少なくないんです。中には Amazon とか Google とかから移ってくる人もいるので、そういった意味で決してお金のためだけに働いているわけでも、自分のステータスが上がっていくことだけを追い求める人ばかりでもないんだなということが新たな発見でした。

久保
お話を伺っていますと、確かにそうだなと感じます。私には19歳と13歳の娘がいるのですが、娘たちを通じてアメリカの学校教育を見ていますと、小さい頃から、環境、政治、経済、ジェンダー、ダイバーシティーなど、ありとあらゆる社会問題がテーマとしてカリキュラムに組み込まれています。社会の一員として自分は何ができるか、その答えを導くためには、あらゆる事柄に興味を持ち、自分で考え、発信することが大切だという教育を受けているようです。結果として我が家では毎日の食卓でも、先だっての大統領選挙について熱く議論したり、環境問題について語り合ったりしています。私が小さい頃には考えもしなかった事柄に関して娘たちはしっかりとした自分なりのビジョンを持っています。「自我」を大切にしながら、社会にお返ししていく。教育の賜物です。

德永
本来的に「利他の心」であるとか「三方よし」というのは、日本ならではのものと信じて疑いませんでしたが、もしかすると「社会に貢献する」ことを真剣に考えているのは、資本主義の荒波に揉まれてやっぱりそこなんだと気づけたアメリカ人のほうが強いのかもしれません。日本人にとっては当たり前すぎて、あらためてそのことに気づけていないのではないかと若干の危機感を持っています。

久保
日本に比べるとアメリカでは、自らの考えや意見を積極的に発言しますよね。日立の理念、DNAに共鳴してくれる人財を発掘するチャンスかもしれませんね。

德永
はい、おっしゃる通りだと思います。日立にとっても非常に大きなチャンスだと思いますし、本来的には日系の企業、あるいは日本的なものには、皆一定のチャンスがあると思います。

久保
日立ヴァンタラ社はシリコンバレーにおける日系企業の成功事例と言われていますが、「自社だけ、自分だけ良ければ、それで良し」とはしない企業風土が合っている、育ってきているということが理由なのでしょうね。

德永
そうですね、どこまで胸張って成功事例だと言えるかどうかはわかりませんが、「変えるべきところ」と「変えてはいけないこと」の峻別をしてきたところがポイントだと思っています。

変えるべき部分とは、日本発祥の会社ですが、アメリカに根を張って運営している会社なので、基本的な運営というのはナショナルスタッフの考えを尊重し、彼ら中心で回すということが大前提だと思います。私はチェアマンという立場ですが、日々のオペレーションや方針は、基本ナショナルスタッフ中心で会社を動かしているというかたちをとっています。一方で、変えてはいけない部分は、日立の持っているDNAの「社会に貢献する」ということです。久保さんも先ほどおっしゃったように、決して日本人だけのものではなく、アメリカ社会にも広く受け入れられる土壌があることがわかりました。今は2つの歯車が上手くかみ合っているので結果を残せていると思います。

画像: 日系企業の成功事例?

ワンオンワン(1on1)の大切さ

久保
「変えるべきこと」「変えてはいけないこと」について、德永さんはスタッフの皆さんと積極的にお話をされたりしますか。また、どのように意思疎通を図っていらっしゃいますか。

德永
そうですね、そのナショナルスタッフ中心で回すというのは、メッセージで発信するというよりは、見える形で人事や意思決定のプロセスを体現していくことだと思っています。日本の会社だからといって、こちらにいない日本人が経営メンバーに入っていては、会社として全く機能しないですし、それはナショナルスタッフからすれば、見た瞬間に自分がいくら頑張っても最後は日本人が会社を運営することになって、チャンスがないように見えてしまいます。これでは決してモチベートされない状態になるので、これは人事とか組織運営の仕方で、多様化された会社なんですよということを見せていかなければならないというふうに思います。

一方で、日立が大切にしている価値やお客さまに提供したい価値というのは、これはもう発信し続けるしかないと思っていまして、社内の意思疎通を図るために、タウンホールミーティングを定期的にやっていますし、毎週経営会議メンバーとのミーティングも実施しています。1on1ミーティングの要望も多いので数を増やしています。

久保
1on1というのは日本の組織では、あまり考えられない方法ですか。

德永
日本でも一定の頻度でやってはいましたが、コロナ禍以前までは、コミュニケーションの中心的手段として積極的にできていたかというと、そんなことはないと思います。ただ、こちらの現地スタッフにとっては、「心が通じている」とか「俺はあいつとこんなに話している」というのが非常に重要な要素となるので、1on1ミーティングはどんなに忙しくても都合をつけて続けています。

久保
德永さんがコミュニケーションをとても大事にされていることがよく分かりました。

画像1: 〈インタビュー〉デジタルソリューションで社会に貢献したい
【第3回】シリコンバレーで日立のDNAは受け入れられるのか

久保純子(くぼ・じゅんこ)

1972年、東京都生まれ。小学校時代をイギリス、高校時代をアメリカで過ごす。大学卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局し、ニュース番組やスポーツ番組のキャスター、ナレーション、インタビューなど幅広く活躍。2004年からフリーアナウンサーとして、テレビやラジオに出演する傍ら、執筆活動や絵本の翻訳も手がける。日本ユネスコ協会連盟の世界寺子屋運動広報特使「まなびゲーター」を務め、2014年にはモンテッソーリ教育の資格を取得するなど、「子ども」と「言葉」、そして「教育」をキーワードに活動の場を広げている。現在は、家族とともにニューヨーク在住。

画像2: 〈インタビュー〉デジタルソリューションで社会に貢献したい
【第3回】シリコンバレーで日立のDNAは受け入れられるのか

德永俊昭(とくなが・としあき)

1990年、株式会社 日立製作所入社、 2021年4月より、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 社長補佐(システム&サービス事業、ディフェンス事業担当)、システム&サービスビジネス統括責任者兼システム&サービスビジネス統括本部長兼社会イノベーション事業統括責任者/日立グローバルデジタルホールディングス社取締役会長兼CEO。
2021年4月からは米国駐在から帰国し、国内拠点からグローバルビジネスを指揮している。

「第4回:“協調”が未来を拓く」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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