株式会社 日立製作所 執行役副社長 德永俊昭/インタビュアー:久保純子氏(フリーアナウンサー)
今年の3月で54歳になられた德永さん。お若くて驚きましたが、まさにベンチャリング・スピリットやパイオニア・スピリットという言葉がフィットしている方だと感じました。そんな德永さんはこれまで、日立ヴァンタラ社(本社米国サンタクララ)の取締役会長も兼務されてきました。取り組まれてきた組織再編や立て直しについてお尋ねしました。また、アメリカのテーマパークのスマートシティ化をはじめとした、ITを組み合わせた「Lumada」(ルマーダ)のデジタルソリューションの事例や今後の展望についても語っていただきました。

※2021年4月1日に德永の役職を変更しています。

「第1回:父親の導き」はこちら>

日立の新しい“挑戦”

久保
現在のお仕事の話をお聞かせください。2019年に日立ヴァンタラ社の取締役会長になられてからは、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。

德永
元々、日立ヴァンタラ社は、ストレージやコンピューターの記憶装置を販売していましたが、着任1年前ぐらいから、ハードウェアだけでなく、「デジタルソリューション」といって、お客さまの課題を解決する事業にも取り組み始めました。しかし着任当初は、ストレージ事業は頭打ちで、デジタルソリューションも伸び悩む状況でした。元々2つの事業を回すだけの人財が足りていないということと、1つの組織で渾然一体となって取り組んでいたので、どこへ向かうべきか社員がよくわからない状態になっていたのが原因でした。

そこでまず、お客さまと接する人財の不足感をなくせるだろうということで、アメリカにある日立コンサルティングという会社と統合しました。そして、その統合に合わせて、デジタルインフラとデジタルソリューションという2つのビジネスユニットに分け、それぞれが独立して運営できるように整えました。これが2019年から1年かけてやったことです。

これによって、ストレージ事業を担うデジタルインフラ部門では、日本と連携して新製品を立て続けに出して上手く伸び始めています。デジタルソリューションについては、まだ事業規模はあまり大きくありませんが、少し目立つ事業として、昨年アメリカのインディカーレースに協力しました。新型コロナウイルスの感染が一時落ち着き、インディカーレースが開催された際に、温度センサーなどを会場の各所に設置して、体調が悪い人が入場していないかなどを確認できるようにしました。このインディカーレースで提供したソリューションを実際に社員に体験してもらう機会があり、その価値を理解してもらうことで、社員のモチベーションアップに繋がりました。このように両方の事業が上手く回り始めてきているというのが今の状況です。

久保
今後は、更にどのような新しい挑戦に取り組まれていくのでしょうか。

德永
これから先は、日立ヴァンタラ社だけでなく、日立全体の事業をデジタルで支えるということが非常に重要になってきます。例えば、すでにグローバルで事業展開をしている鉄道のビジネスを進めている人たちと一緒に、ITを組み合わせて新たなソリューションを生み出すという活動に取り組んでいます。また昨年夏、グローバルで事業展開するABB社のパワーグリッド(送配電)事業を買収して、日立ABBパワーグリッド社が発足しました。彼らと一緒に、デジタルを使い、環境に貢献できる新しいグリッドソリューションなども検討していきます。日立グループの他の会社と連携しながら新しい価値を見出すことに日立ヴァンタラ社も踏み出すことができつつあります。

「Lumada」とは

久保
アメリカのテーマパークのスマートシティのニュースを一消費者としてとても興味深く拝見しました。今後どういったものになっていくのでしょうか。

德永
日立から見たテーマパークとは、その全体が街だと考えています。当然、乗り物は日立からすれば、鉄道のビジネスと関連性がありますし、水や電気をいかに効率的に使うかというのも、重要なテーマになっています。さらには、インディカーレースの時のように、パークの中にいらっしゃる人々に危険が及ばないようにカメラを活用するソリューションもあります。テーマパークに提供できるソリューションは、当然、他のエンターテイメント施設はもちろん、最終的には街の中にも提供できます。そうした非常に大きな事業を生み出す先行事例になりうるとして、一生懸命に取り組んでいます。

画像: 「Lumada」とは

久保
まさに将来のビジョンとしておっしゃっていたベンチャリング・スピリットですとか、ITを活用してお客さまの役に立つということが体現されたプロジェクトなんですね。お客さまの役に立つ究極が、スマートシティ。そしてそれを可能にするのが、Lumada。私も今回勉強させていただいてわかるようになってきました。

德永
はい、おっしゃる通りです。Lumadaというのは、非常に単純化して言うと、お客さまに価値をご提供する、その課題解決に役立つソリューションのセットおよび、ソリューションを動かすプラットフォームです。

このLumadaのプラットフォーム上で動くソリューションは、当然テーマパークで作るものもあれば、他のユーザーさんが作ったものをテーマパークに提供する場合もあります。その組み合わせ、言い換えればエコシステムの活用により、応用は倍加するので、お客さまのメリットとしても相当なものです。例えば、他で実績のあるソリューションを手頃な対価で利用でき、自らすべてを開発しなくても済む。Lumadaエコシステムは、お客さまにも日立にも、非常に大きなメリットだと言えます。

久保
今後、Lumadaをどういった分野で活かしていきたいと考えていらっしゃいますか。

德永
まず、Lumadaを使っていただくことによって、我々が実現したいのは、企業のお客さまの経済的な価値の向上、それから人々のクオリティ・オブ・ライフの向上です。また、Lumadaの中身については、これだけは自社で作るというモノづくり領域は今後も発展させたいので、研究開発部門とも連携しながら、ビジネスチャンスを窺いながら技術革新の芽を育てています。

一方で、Lumadaのエコシステムはオープンであるというのが一つの特徴にもなっていまして、全部を1社でまかなうのではなく、仲間あるいはパートナーになってくださる方をどんどん募っていきたいと思っています。2020年11月にスタートした「Lumadaアライアンスプログラム」は、発表直後からお問合せをたくさんいただいています。

2021年3月末時点で35社の企業がLumadaアライアンスプログラムに賛同をいただいており、現在、各社と具体的なお話を始めています。今後2021年度には100社に増やしたいと考えています。Lumadaは、日本市場のみならずグローバルに認知されつつあると実感しますし、大きなチャンスだと思っています。

画像1: 〈インタビュー〉デジタルソリューションで社会に貢献したい
【第2回】日立のデジタルソリューションの可能性

久保純子(くぼ・じゅんこ)

1972年、東京都生まれ。小学校時代をイギリス、高校時代をアメリカで過ごす。大学卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局し、ニュース番組やスポーツ番組のキャスター、ナレーション、インタビューなど幅広く活躍。2004年からフリーアナウンサーとして、テレビやラジオに出演する傍ら、執筆活動や絵本の翻訳も手がける。日本ユネスコ協会連盟の世界寺子屋運動広報特使「まなびゲーター」を務め、2014年にはモンテッソーリ教育の資格を取得するなど、「子ども」と「言葉」、そして「教育」をキーワードに活動の場を広げている。現在は、家族とともにニューヨーク在住。

画像2: 〈インタビュー〉デジタルソリューションで社会に貢献したい
【第2回】日立のデジタルソリューションの可能性

德永俊昭(とくなが・としあき)

1990年、株式会社 日立製作所入社、 2021年4月より、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 社長補佐(システム&サービス事業、ディフェンス事業担当)、システム&サービスビジネス統括責任者兼システム&サービスビジネス統括本部長兼社会イノベーション事業統括責任者/日立グローバルデジタルホールディングス社取締役会長兼CEO。
2021年4月からは米国駐在から帰国し、国内拠点からグローバルビジネスを指揮している。

「第3回:シリコンバレーで日立のDNAは受け入れられるのか」はこちら>

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

This article is a sponsored article by
''.