デジタル化が進展し、さらにコロナ禍によるワークスタイルの変容が急速に進む中で、どのように変化を活かし成長につなげるか、山口氏からヒントを頂く。在宅勤務の拡大で増えた可処分時間=経営資源を、ビジョンをもって活用すること、そしてあふれる情報を選り分ける力が、アフターコロナ社会での差につながるという。

「第1回:非連続な変化に対応する『洞察力』が重要に」はこちら>
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多くの情報に触れる中で嗅覚を磨く

――話題は変わりますが、コロナ禍によってリモートワーク、在宅勤務が急速に拡大しました。以前からそうした働き方をされてきたお立場から、この環境変化を強みに変えていくためのヒントを頂けますか。

山口
オフィスへの出勤がなくなると、今まで移動に費やしていた時間が自由になりますから、それをどう活用するかが大きなポイントになりそうです。皆さんの平均的な一日の時間配分は、睡眠、食事、家事や入浴など生活に必要なことに10~12時間、残りが仕事や勉強にあてられている感じでしょうか。仮にそれを12時間とすると、通勤があればオフィスへの行き帰りで2時間前後、さらに業務中の細々した移動時間に都合1時間ぐらいとられるでしょうから、その中の少なくとも25%にあたる3時間を移動に要することになります。在宅勤務になり、それまで移動にかけていた時間がいかに多かったか実感されている方も多いことでしょう。

移動時間がなくなるということは、その分の可処分時間が増えることを意味します。また、自分の経営資源がその分だけ非連続に増えるという考え方もできます。もちろんこれまでにも移動の時間を勉強や考えごとに活用していた方は多いと思いますが、それが自宅で自由に使えるとなると、できることも違ってきます。非連続に増えた経営資源をどう活かすか、何にどう投資するかによって、アフターコロナ社会における大きな差がつくのではないかと思います。勉強するかリフレッシュするかは人それぞれだと思いますが、企業だけでなく個人でも、ビジョンを持った経営資源の活用ということが、ますます重要になるのではないでしょうか。

――コロナ禍でウェビナー、オンライン講演会なども定着して、学びの可能性も広がっていると思います。

山口
そうですね。可処分時間が増えるとともに、デジタル化が進んで情報にアクセスできる機会も飛躍的に増えています。一方で、それは情報のオーバーフロー状態とも言え、自分にとって有用な情報かそうでないかを選り分ける力、情報を編集する力が違いを生むポイントになります。

最近は移動すること自体が少なくなりましたが、私は電車での移動時間や空いた時間にはYouTubeやTED Talksでいろいろな人の講演やプレゼンテーションを見て勉強することが多いですね。本も読みますが、動画や音声は適度な集中で済むので、移動時間の活用法としては向いているかもしれません。そうやって多くの情報に触れていく中で、これは重要だとか、重要かどうかわからないけれど、なんとなく見ておいた方がいい気がするというような嗅覚を磨いていくことが、今後いっそう重要になっていくと思います。

画像: 山口周『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)

山口周『自由になるための技術 リベラルアーツ』(講談社)

注目度も重要性も高まるオウンドメディア

――デジタルということで言えば、山口さんはTwitterのフォロワー数もとても多いようですが、どのように活用されていますか。

山口
Twitterを使っている理由の一つは、文字数の制限があるため表現のトレーニングになることです。「面白いな、これ流そうかな」と思ってそのまま書いていると、たいてい文字数オーバーで削ぎ落とすことになります。そのときに別の言葉で言い換えられないか、もっと短くシャープに表現できないか考えることが、自分にとってはよいトレーニングになっています。

二つ目は、リトマス試験紙のように利用できることです。ある案件についてのレスポンスを追っていくと、世の中の人がどういうことに反応するのかしないのか、勘所がわかるようになってきます。自分が面白いと感じた話題にレスポンスが少ないと、なぜだろうと考えるきっかけになりますし、どのようなコンテンツならリアクションが大きいのかを先行的に測るものさしとしても有効です。

もちろん本やイベントの告知にも活用していますが、Twitterは私にとってある種の訓練場や実験場のような位置づけと言えるでしょうか。

――連載シリーズの講師として登場いただいている当サイトは、コンテンツマーケティングとは一線を画した「企業が運営するメディア」の可能性に挑戦しています。そうしたオウンドメディアのあり方についてはどのようにお考えでしょうか。

山口
企業にとって製品やサービス自体での差別化が難しくなってきている中では、その企業が発信している情報や実現しようとしているビジョンに対する共感というものが、ステークホルダーに評価されるポイントとして大きくなっていると思います。コストで差がないのであれば、やはり理念や考え方に共感できる企業を選びたいと考えるものですよね。

昨今は広告の信用度も低下し、広告を通じてその企業を好きになるということも少なくなっているように思います。これからは、実際の製品を通じたコミュニケーション、従業員を通じたコミュニケーション、オウンドメディアでの発信という、製品・人・情報の組み合わせによって、その企業のめざす方向を理解し、共感するという方向へ向かっていくのではないでしょうか。

そのため、オウンドメディアとしては価値ニュートラルであるよりも、どのような社会をつくっていきたいのかをベースに、その実現における問題を提起するなど、メッセージ性を強く打ち出すようになっていくかもしれません。資本主義や民主主義の綻びが見え始め、新たな社会のあり方が模索される中で、社会の発展において企業が果たす役割への期待も拡大しています。企業がオウンドメディアで情報を発信することやその内容について、注目度も重要性も高まっていくのではないでしょうか。

画像: 「自由になるための技術 リベラルアーツ」発刊記念 著者インタビュー
自分を縛る「呪い」から自由になるために
その5 非連続に増えた経営資源を活かすには

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)など。最新著は『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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