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株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
いまだ終息が見えないコロナ禍において新常態(ニューノーマル)が求められるなか、ビジネスは大きく変わらざるを得ない局面にある。はたして、どのように変わるべきなのか、いかにして変わるのか――。そのためには、自らの強みを知り、企業のミッションを再定義し、外部の力も借りながら臨む必要があるという。

「第1回:変革のカギは“バック・トゥ・ザ・ベーシック”」はこちら>
「第2回:加速するアジア・シフトをどう活かすか」はこちら>

好機を逃さないためにミッションの再定義を

――前回、海外投資家の目が日本に向いているというお話がありましたが、チャンスを活かすには何をすべきでしょうか。

八尋
一つには、日本が期待されているからと安心することなく、世の中のトレンドを見ながら、大きくやり方を変えたり、前回のダノンの例でもお話したように、会社のミッションの再定義を行ったりするくらいの取り組みが必要だと思っています。

例えば現在、コロナ禍でホテル業界は大打撃を受けていますね。インバウンド需要の激減と東京オリンピック・パラリンピックの延期で大きな痛手を負っています。そうしたなか、プリンスホテルでは、2020年10月に新しいブランド「プリンス スマート イン」を恵比寿に開業しました。これは、スマートフォンのアプリやAIを搭載したスマートスピーカーなどを活用して、人と接触することなくホテルを利用することが可能なホテルで、Withコロナ時代のビジネス需要などにも応えているようです。

もともとプリンスホテルではスマートチェックインという、カードを提示するだけでスピーディにチェックインできる仕組みがありましたが、この考え方を進化させ、ニューノーマル時代の価値変容を捉えたコンセプトを導入してきたところに、日本企業の逞しさを感じます。

日本郵便も今、大きく変わろうとしています。ほかの宅配企業にはない日本郵便の強みは何かと考えると、日本全国津々浦々に郵便局があり、ラストワンマイルを担うことができる、ということでしょう。そこを起点に、これまでの役割を根本から見直していくことで新しいビジネスモデルを生むことができると考えています。そこで現在、日立コンサルティングとともに、人口減少によって労働力確保が難しくなる環境下において、テレマティクスやドローンなども活用しながら、日々の郵便物の変動量に応じてフレキシブルに対応するための仕組みを構築しているのです。その結果として、SDGsも意識した国民のラストワンマイルをサステナブルに変革していこうとしています。

画像: 好機を逃さないためにミッションの再定義を

独自の強みを武器に時流をつかむ

――製造業はいかがでしょうか。

八尋
現在、モノづくりの現場でもDXが進められていますが、「スマートファクトリー」などという言葉に踊らされずに、独自の強みを活かしていくべきだと思います。スマートファクトリーというと、すべて無人化してAIやロボットだけで製造するSF的な世界を思い浮かべるかもしれませんが、単純に今のままの工場を維持しつつ、スマート化しただけでは飛躍は望めないでしょう。

標準品を大量生産するのであれば、すべてを自動化することも可能です。実際に中国の工場などではすでにそうなりつつあります。しかし日本のモノづくりの強みは、日本の実情に合わせて自動車や家電を小型化してきたように、目的に向かって高度な擦り合わせ製品や多品種・少量生産のカスタム製品をつくってきたところにあります。

実はコロナ禍で製造現場が止まることなく動いていたのは、世界中でも中国と日本くらいだったそうです。その中国と日本の大きな違いは、先述のように大量生産の標準品をつくるのか、多品種・少量生産のカスタム製品をつくるのかにある。後者である日本がそれを長年強みにしてこられたのは、他の追随を簡単には許さない高い技術力を備えているからでしょう。そしてその背景には、設計や製造の現場が一緒になってワイワイガヤガヤと議論するような、日本の企業独自の文化がありました。

MaaS(Mobility as a Service)の時代になると、一家に一台自動車をもつということがなくなり、自動車産業は衰退していくという話をメディアは伝えていますが、私は今こそチャンスだと捉えています。大きく世の中が変わりつつある今だからこそ、次に追いかけるべきビジネスの目標を定め、会社のミッションを再定義していくべきではないでしょうか。

外部の力を借りて、変革を促す

――とはいえ、従来のやり方や考え方を変えたり、ミッションを再定義したりするのは簡単ではありませんね。どうすればいいでしょう。

八尋
一つの方法は、外部の力を借りることです。海外の企業では、M&Aによって企業のカルチャーごと変えていくことが日常的に行われていますが、日本の場合は、ベンチャーに出資をして業務提携していくとか、社内に事業部を新設して新規に人財を採用するとか、外部の力も借りながら、部分を起点に全体を変えていく方が合っているように思います。

デジタル化の進展は、「〇〇業界」という括りを超えてサービスを欲するユーザを起点に革新が生じ、結果として企業ミッションの再定義につながることもあります。その際、新しい波を捉えて経営トップがリードしていく必要はありますが、具体的な戦略テーマについては、未来に対して鋭敏な感覚をもつ若手中堅に任せる方がよい時もあります。

例えばあるメーカーでは、30代の若手社員を中心に朝の勉強会を開催していて、大学の先生、官僚、あるいは私のような外部の人間を招き、朝8〜9時の1時間と決めて隔週でディスカッションをしていました。家電事業において、テレビからスマホへと家庭のハブが移ってきているという変化は、社内だけでは感じにくいものですが、外部の意見を聞いたり実際に見ることで目が開かれることもあります。私自身、前職で、クラウドを活用した新サービスに関して、先端のAI研究をしている中国・清華大学の研究室や、その周辺のベンチャー企業を、4人ほどのチームで見聞して回らせたことがありました。

そのほか、通信大手企業の外部講師に呼ばれた経験もありました。そこでは各役員が半年間、グループ各社の課長から塾生を集め、外部講師も交えた対話や懇親会を通して議論を深め、塾生には議論を踏まえたレポートの提出を求めていました。日頃の上司とのやりとりは縦でつながる世界ですが、それとは違った別次元で、新しい気づきを得ることができたのではないかと思います。

外部という意味では、コンサルティング会社のような専門組織を使うのも手です。外部専門組織が間に入り、KPIを明らかにすることなどにより、経営と現場が互いに問題点や目標を共有できるようになる。また、外部人財が入って緩衝材となることで、経営と現場、上長と部下の議論で軋轢を生むのを避けられる。敵はあくまでも外にあって、内部で揉めていても始まりません。

あるいはコンサルタントに限らず、その業界で尊敬を集める人やご意見番的な人など、今後、自社が目標とすべきことや未来について、幅広く長期的な視点で語れる人を招聘することも有効だと思います。

もちろん、外部の意見に対して、なぜ自分たちが変わらないといけないのかと、反発を感じる人はいます。一方で、外部の意見を面白がる人や、会社を変えていきたいと思っている若手はどこの企業にもいて、そういう人たちが外部の意見に背中を押されて発言することで、徐々に幹部の意見が変わっていく、ということはよくあります。

コロナ禍で時間のある今こそ、外部の力も借りながら、皆で知恵を出し合って議論を深める好機だと思います。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像: ポストコロナのDXと日本企業
【第3回】変革することでチャンスを活かす

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

「第4回:個人の考える力がビジネスエコシステムを強くする」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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