早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏/一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN理事長 市川芳明氏
「デジタル競争は第二回戦に突入し、日本企業にも勝機がある」と喝破する早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏。それを可能にするインフラとして、一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN(ネクスチェーン)に大きな期待を寄せている。9月4日にEFOがイベント形式でオンライン配信した公開取材「ブロックチェーンを活用した企業間情報連携という新たな潮流」にて行われた、入山章栄氏とNEXCHAIN理事長・市川芳明氏による対談の最終回。

「第1回:儲けないプラットフォーマー」はこちら>
「第2回:オープンイノベーションに欠かせない『触媒』」はこちら>
「第3回:サイバー空間にこそ眠る、イノベーションの可能性」はこちら>
「第4回:情報連携で挑む、社会課題」はこちら>

めざすは「5年目500社」「情報連携の国際規格化」

入山
NEXCHAINの今後の取り組みについてお聞かせいただけますか。

市川
まずは会員企業を増やすこと、そしてその業種も広げることが、「ネットワーク外部性」的に言えば、「魅力の源泉」ですよね。会員企業の数と種類が増えるほど、生活者の皆さまにとってもきっと便益があるので。

入山
そうですね。

市川
今27社にご参画いただいていますが(2020年9月4日時点)、目標としては今年30社、来年60社、その後もほぼ倍、倍で増やしていって5年目には500社をめざしています。そして、各社とのディスカッションの中から具体的に事業を生み出していこうと。おそらく今年中に1つの実ビジネスが生まれると思います。ブロックチェーンの中で育ててインキュベートしたものが、きちんとビジネスとして走れるようになって、その際に情報連携などの部分でNEXCHAINが寄り添い、事業を支える役割を果たせればいいなと思っています。

もう1つ取り組みたいのは、情報連携のルールを形成することです。安全・安心な情報連携をどんな内部規約で担保すればよいか、NEXCHAINの知見を活かし、国際的な規格にできたらと考えています。そして、第三者機関に認証してもらえるようにしてはどうかと。NEXCHAINが最初に認証を受けられればベストですが、そういったISOみたいなものをうまく活用したルール形成活動も、業界団体としてやっていけたらと考えています。

「デジタル競争第二回戦」を勝ち抜くためのインフラへ

入山
近頃、ヤフー株式会社のチーフストラテジーオフィサー(CSO)を務めている安宅和人(あたかかずと)さんをはじめとする識者の方々がおっしゃっていて、わたしもなるほどなと思ったのが、デジタルの時代と言われるようになって、いわゆる第一回戦があったと。それはつまり、GAFAに代表されるようなプレーヤーたちが勝って、はっきり言うと日本の会社のほとんどは残念ながら負けてしまったというのがデジタル競争第一回戦の結果だと。

それはそれで仕方がないのですが、第二回戦は違う結果になる可能性があるのではないか。というのは、デジタル競争の第一回戦は、基本的にスマホ上で完結した勝負でした。スマホというまったくの更地に、規模の経済とネットワーク外部性を追求するGAFAがやってきて一気にマーケットを勝ち取った。そのスピード感と勢いが日本企業にはなかったので負けてしまったわけです。

画像: 左から入山章栄氏、市川芳明氏

左から入山章栄氏、市川芳明氏

ですが、もうデジタルは社会に実装されたので、これからは第二回戦が始まる。というのがわたしの理解で、そこには既存プレーヤーがいるんですよね。つまり先ほど話題に出た食品業界やヘルスケア、さらにはエネルギー、保険といった既存のプレーヤーがすでに顧客を持っていて、我々もすでにいろいろな商品を持っている。その状況から何かをデジタル化して新しいものをつくるのは、やはり簡単ではないですよね。

企業同士の「共生」や「意見交換」が大切だなどと口で言うのは簡単ですが、お互いの縄張り争いなどの要素も絡むので実際は非常に面倒なことですし、企業が変化するのは本当に難しい。しかし逆に言うと、そういった企業間の面倒なやりとりの1つひとつをスムーズにしてあげることで、すばらしい技術やサービスを持っている日本企業の現場の人たちがうまく活用できるようなデジタル連携ができれば、そこに大きな可能性が生じ、新しい産業が生まれるかもしれない。ただ、これまでは企業同士をつなぐものがなかった。NEXCHAINがその役割を果たす新たなインフラになろうとしているのではないかと、これまでの市川さんのお話から理解しました。

市川
まったくそのとおりですね。企業をつなぐための敷居を低くする、化学反応で言うところの触媒の役割を果たすことが、プラットフォームとしてのNEXCHAINのあり方だと思っています。ですので、NEXCHAIN自体が稼ぐ必要はないですし、日本企業の既存の強みをどんどんつなげていく役割さえ果たせれば、またGDPも増えていくと思いますし、日本の競争力も上がるのではないでしょうか。

入山
何と言ってもやはりNEXCHAINのすごいところは、その「儲けない」という理念ですね。プラットフォーマーと聞くとどうしても「すごく儲けている」というイメージが強いですが、NEXCHAINはもはやそこを放棄しているので。

あとは、NEXCHAINに既存のいろいろなプレーヤーが乗っかってくれれば、まさにサイバー空間上の民主化みたいなものが起きて、日本から新しい産業が生まれる可能性は大いにありますよね。

市川
十分あると思います。いわば、だれかが強いリーダーシップで引っ張っていく世界よりも、みんなが輪になって平等な立場で寄り添っていくとお互いにメリットがある、そんな世界ですね。これはわりと日本的発想だとわたしは思っています。さらに、NEXCHAINの活動を海外にも発信してたくさんの企業に加わっていただき、ゆくゆくは世界標準になっていくのを夢見ています。

入山
NEXCHAIN、めちゃめちゃ面白い取り組みです。今日初めてお話を伺って、お世辞じゃなく心底ものすごい可能性を感じました。ぜひ多くの企業に関心を持っていただいて、まずはちょっと参加してみてほしいですよね。

市川
そうですね。ぜひお気軽に、お声がけいただければと思います。入山先生、今日はありがとうございました。

入山
こちらこそ、ありがとうございました。

画像1: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第5回】デジタル競争は第二回戦へ

入山 章栄
早稲田大学ビジネススクール 教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。株式会社三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事し、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を務め、2013年から早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年より現職。経営戦略論および国際経営論を専門とし、Strategic Management Journalをはじめ国際的な主要経営学術誌に論文を数多く発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版,2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社,2015年)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社,2019年)など。

画像2: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第5回】デジタル競争は第二回戦へ

市川 芳明
一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN 理事長

多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授
東京都市大学環境学部客員教授
(一社)ウエルビーイング規格管理機構 代表理事
(一社)サステナブルビジネス研究所 代表理事
日立製作所入社後、原子力の保全技術およびロボティクス分野の研究に従事。環境管理、新規ビジネスの立ち上げ、国際標準化を主導。現在、多摩大学ルール形成戦略研究所において客員教授としてビジネスエコシステムとルール形成戦略を研究中。IEC(国際電気標準会議)TC111(環境規格)前議長、ACEA(環境諮問委員会)日本代表、ISOTC268/SC1(スマートコミュニティ・インフラ)議長、ISOTC323/WG2(サーキュラーエコノミー・ビジネスモデル)主査、CENELEC(欧州電気標準委員会)オブザーバー、工学博士、技術士(情報工学)。代表著書に『「ルール」徹底活用型ビジネスモデル入門』(第一法規,2018年)。

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