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「オーラ」「カラフル」「圧」と話をしてきましたが、ようするにその人に感じる「凄み」です。第一印象の「オーラ」とは違って、何度お会いしても「凄み」を感じさせる人がいます。「畏怖」という方が近いのかもしれません。

僕の古い知り合いに、中竹竜二さんというラグビーの指導者がいます。彼はU-20の元代表監督で、現在は日本ラグビー協会のコーチングディレクターとして、日本代表チームの“コーチをコーチする”という仕事をされている人です。

中竹さんは早稲田大学ラグビー部の現役の時にはキャプテンでしたが、社会人になってからはラグビーを離れていました。その後、早稲田大学のラグビー部の監督になるのですが、その前任監督が清宮克幸というラグビー界のスーパースター。選手としても監督としてもものすごい実績です。中竹さんが後任の監督になって、「日本一オーラのない監督」と選手から言われたそうです。それほど「オーラ」とか「カラフル」とか「圧」を感じさせない人です。

彼は早稲田大学の監督を務めた4年の間に2回日本一になっています。実際の指導力は尋常ではありません。知れば知るほど、そのコーチングに「凄み」を感じます。「オーラ」はないのに、「凄み」が後から来る。こういう人を僕は何人か知っています。

元ライフネット生命保険の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明さんも、お会いすると普通過ぎるくらい普通の人で、まったく「オーラ」は感じません。ところが、少し話しているだけでその知性と教養が「凄み」としてあふれ出してきます。何か底なし沼を上からのぞいているようで、ある種の畏れを感じました。星野リゾートの星野佳路さんも「オーラ」を感じさせない人ですが、知れば知るほど「凄み」のある経営者です。

脱力系の「凄み」にはひときわ味わい深いものがあります。その代表がユナイテッドアローズ創業者の重松理さんです。相手に対する威圧感は皆無。肩に力が入っていないというのはこういうことなのかと思います。そこに「凄み」のある人です。

重松さんはシャンパンが大好きで、夜の食事でお目にかかるときはいつもシャンパンを飲んでいらっしゃいます。「お休みのときは何をなさっているのですか」と尋ねると、「何もせずにシャンパンを飲んでいます」。経営の第一線もお退きになったので、「昼間は何をされているのですか」と聞くと、「シャンパン飲むために体調を整えています」。この脱力感、抜け感がたまりません。

「凄み」は“目”に宿るものだと思います。脱力系の重松さんも、普通の人とは“目”が違います。「目は口ほどにものを言い」とはよく言ったもので、目に不思議な力があるんです。ちょっと言語化しにくいのですが、“目力(メジカラ)”という威圧的なものではなく、「まなざしが深い」のです。

この“目”の違いについてはっきりと意識させられたのは、約20年前のことです。僕は2000年に国立キャンパスから千代田キャンパスに異動しました。この年から新たにインターナショナルMBAプログラムを開講したのですが、1期生にスレイ・ブース(Srey Vuth)さんという人がいました。MBAの学生の多くは海外から来ています。スレイ君はカンボジアの人でした。

その時僕は35歳で、スレイ君も僕と同じくらいの年齢に見えました。「いま何歳なんですか」と聞くと、笑いながら「正確には僕もわからないのです」。なぜかというと、彼が子どもの頃にカンボジアのポル・ポト政権による大量虐殺があったからなんです。スレイ君も一族郎党が皆殺しにされている。妹と二人で田んぼの中を隠れて逃げるという、映画「キリング・フィールド」(※)そのままの世界を生き抜いてきた人です。その時代のカンボジアでは、公的な戸籍が一度全部破棄されてしまい、公式の年齢はポル・ポト政権が終わった後から起算されたそうで、スレイ君もパスポート上は23歳だったんです。

(※)キリング・フィールド:1984年制作の英国映画。ニューヨーク・タイムズ記者としてカンボジア内戦を取材し、後にピューリッツァー賞を受賞したシドニー・シャンバーグの体験に基づく実話を映画化。1984年のアカデミー賞において、助演男優賞・編集賞・撮影賞の3部門を受賞。

スレイ君は当時カンボジアの財務省の官僚で、政府から派遣されて一橋のMBAに来ていました。とても穏やかな人でしたが、スレイ君の“目”には、僕がこれまでに見たことのない「何か」がありました。後で生い立ちの話を聞いて、第一印象で強烈に残った彼の“目”は、ものすごい経験をした人だけが持つ「凄み」だということに気づかされました。

彼は単身で日本に来ていましたが、途中で奥さまが一度日本にいらっしゃるということで、せっかくだからディズニーランドに行ってもらうのがいいだろうと思いまして、ペアのチケットをプレゼントしました。奥さまが日本にいるうちに一度食事でもしようということになり、新宿のパークハイアットのレストランでスレイ君夫妻と食事をしました。

レストランに来ると、スレイ君夫妻は「ちょっとお手洗いに行ってきます」。なかなか帰ってこないので、どうしたのかなと思っていたら、二人はカンボジアの正式な衣装に着替えて現れたんです。それは見事なものでした。

その時、僕は、彼が国を背負って日本に来ているということに改めて気づかされました。いろいろなものを失って、それがうえに祖国に貢献しようと覚悟を決めた人間の “目”。これこそ、人のいちばん深い所にあるものなのではないか。おそらく明治維新を支えた日本人も、こういう“目”をしていたのではないかと想像します。僕は、スレイ君の“目”から、「凄み」の根源を教わりました。

お会いしたことはありませんが、僕にとってのディーペスト・インパクトである高峰秀子さんの書かれたものを読んでも、同じことを感じます。動じない、求めない、期待しない、振り返らないという彼女の生き方には、何かを捨て去った人だけが持つ「凄み」を感じます。きっと深いまなざしをしていらした方だったのだろうと思います。

反対に、一生懸命「オーラ」を自分から発しようとしている人をまれに見かけます。「俺は凄いんだ」と気張るのですが、これでは単に「オラオラ」の人。「凄み」のかけらも感じません。そんなものはすぐに見抜かれます。「オーラ」と「オラオラ」ほど似て非なるものはありません。両者はある次元での対極にあります。自分から「オーラ」を出そうとしている人ほど「オーラ」がないという皮肉なことになる。「凄み」がある人は、自分が他人からどう思われるかなんてことにはまったく興味がないものです。

画像: オーラの向こう側-その4
「オーラ」と「オラオラ」

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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