2019年度「ポーター賞」を受賞した、株式会社ワークマン。その成長を可能にしているのは、サプライチェーンの構築やマーケティングなど、社外に対するアクションだけではない。実は何より社員を大切にする社風であり、そのためには、他社では考えられないような取捨選択も辞さない。土屋氏が考える社員と会社との関係のあり方、小規模な会社だからこその商品開発スタイル、そしてこれからのビジネス展開について伺った。

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納期も残業もない会社

――企業経営という観点から伺います。土屋さんがワークマンの一員となられた2012年以降、御社はどんな経営方針のもと事業を進めてきましたか。

土屋
弊社の経営方針は「客層拡大」「データ経営」、この2つしかありません。

「客層拡大」はわたしの入社前からある方針で、わたしはこれを「同じ製品を違う客に売ること」と解釈しました。メインの顧客としてきた建設現場の職人さんだけでなく、一般客にも売っていく。「WORKMAN Plus」で、それを実現しようとしています。

もう1つの「データ経営」は、わたしが掲げました。アパレル業界という我々にとって未知の領域に打って出るとき、物事を把握するならデータを見るしかない。データで経営できる体制、そしてインフラをつくろうということで、BI(Business Intelligence)ソフトやデータ分析ツールを導入しました。導入の2年前からデータ分析研修を全社員に受けてもらい、社内試験で全員が90点を取れるまでやりました。もちろん役員も特別扱いしませんでした。

そもそも弊社には「期限」の概念がありません。だから、時間をかけて研修ができる。それに、特定のエクセレントな社員しかできない仕事は、他の社員に引き継げないから意味がないと思うのです。平均的な能力の社員が引き継げる仕事なら、20年でも30年でも優位性が続く。だから弊社は、データ分析の社内試験でも「全員90点」をめざすのです。

画像: 納期も残業もない会社

期限がないくらいですから、中期経営計画も弊社にはありません。3年や5年という期限を過ぎたら、計画が実現できなくても取り組みをやめてしまうからです。代わりに弊社が掲げているのが「中期業態変革ビジョン」です。もちろんそこには、何をいつまでに実現するという期限は書かれていません。できるまでやるからです。

象徴的な例として、決算発表日を1週間遅らせたことがあります。

――かなり思い切った決断ですね。

土屋
決算書類の作成を発表日に間に合わせるには、経理部の社員が相当残業しないといけないことがわかったのです。ところが、そのとき弊社はすでに働き方改革を掲げていました。社員の働き方と、株主に対するCFO(Chief Financial Officer)のメンツ、どちらが大事か。弊社は働き方改革のほうを選びました。要するに、CFOがメンツを捨てれば済む話なのです。実際、決算発表日を延期したからと言って株価が下がることもありませんでした。何より、そういう会社の姿勢を社員が見て「うちの会社は本気で働き方改革に取り組んでいるんだな」と感じてくれたのでしょう。それ以来、会社全体で残業時間が減りました。

そういう会社ですから、納期がありません。納期があると、そこに間に合わせようと残業するからです。店舗のオープン日も、現場の担当者が厳しいと判断して1週間遅らせることもあります。1週間遅れるくらいで、会社への影響なんてありません。300人足らずの会社ですから、社員が残業しすぎて体を壊してしまうほうがよっぽどダメージが大きい。

社員には、できる限り会社に長く定着してほしいと考えています。そこで弊社ではいま「社員1人の年収を4年間で100万円アップする」という目標を掲げています。実はすでに前期までの5年間でも100万円のベースアップを実現しました。会社の売り上げや利益ではなく、社員の賃上げにコミットする会社なのです。

ワークマンが「やらない」こと

土屋
弊社は本当に無駄なことをしない会社で。例えば、社内行事が一切ない。会社にいる時間はできるだけ短くして、家族や友人と過ごす時間を大切にしなさいという考え方です。

画像: ワークマンが「やらない」こと

それから、高付加価値販売をしない。短期的な利益は要らないので、とにかく低価格の商品をお客さまに提供する。ただし、値引き販売はしない。顧客管理もしません。マス・マーケティングでいい。不特定のお客さまから圧倒的な信頼を受けることが、弊社にとって大切だからです。あとは、「意見を変えない上司」もダメ。部下がデータを示してきて「その判断、間違ってますよ」と言ったら、素直に意見を変えるか、少なくとも検討はしなきゃいけない。弊社はデータ経営を標榜していますからね。あとは業態に関して言うと、海外出店をしない。

――気候が過酷な国に出店すれば、高機能かつ低価格なウェアはきっと売れるのではと思うのですが……。

土屋
海外、特に中国への出店はもはや時代遅れで、出店できるエリアがもうないのです。わたしは三井物産時代に中国で小売り事業をしたことがあるので、その難しさはよくわかります。海外に対しては、外国人のインフルエンサーの力を借りてインターネットで販売しようと考えています。

共同開発者はブロガー、ユーチューバー、インスタグラマー

――目下、絶好調の「WORKMAN Plus」については、どんなしかけを予定していますか。

土屋
時間帯によって売り場の見せ方を変える「二枚看板店舗」を計画しています。一般客がお越しになる昼間や夜間の時間帯は、アパレルっぽくスポットライトを多用した売り場にする。逆に、職人さんが多くいらっしゃる朝夕の時間帯は、ホームセンター風にちょっと無機質な照明にする。音楽や香り、ディスプレイ、ポスターも時間帯によって変える。そうすることで、「自分に関係のある商品の店なんだ」とお客さまが感じることができます。もちろん、商品自体はどの時間帯でも同じです。来年の夏物の商品発表会と併せて、首都圏の店舗で試験的に行う予定です。テレビ局やインフルエンサーも集めて大々的に行います。

――インフルエンサーはどういった方々ですか。

土屋
アウトドア専門のブロガー、ユーチューバー、インスタグラマーなど全員で50人くらいです。弊社のアンバサダーになっていただいている方もいて、例えば、登山が趣味のユーチューバーとは登山用シューズを、キャンプに詳しいブロガーとはバーベキューをしても燃えにくいキャンプ用上着を共同開発しています。ランニングやツーリング、釣りが趣味の方も多く、なかには弊社の980円の軽量ランニングシューズで42.195kmを走ってしまった猛者もいらっしゃいます。どんな靴底にしたらクッション性が保たれるか意見をいただいて、商品に反映しています。

画像: ランニングが趣味のブロガーがマラソンに使用した、ワークマンのシューズ「SG230 アスレシューズライト」。通気性がよく、片足約150gと超軽量の人気商品だ。

ランニングが趣味のブロガーがマラソンに使用した、ワークマンのシューズ「SG230 アスレシューズライト」。通気性がよく、片足約150gと超軽量の人気商品だ。

要するに、弊社の商品を愛用しているその道の専門家に、商品の機能設計をアウトソースするという考え方です。うちは少人数でやっている会社なので。10万人以上もの読者を持っている人気ブロガーと一緒に商品を開発して、しかもブログに書いていただく。これが、弊社にとって格好の宣伝になっています。

ネットショップに負けない作業服

土屋
作業服に関しては、Amazonをはじめとするネットショップに定価で負けないプライベートブランド商品をつくることにこだわっています。そのために、在庫過剰になってもいいので1アイテム50万着、シリーズで500万着つくると決めて、それまでの地味なデザインではなく思いっきりド派手な商品をつくりました。高機能で熱を逃がすためのメッシュ入りで、上下合わせて約3,000円。それだけ安いのに10年補償もつけました。その結果、低価格の作業服市場からは競合がほとんど撤退しました。

やっぱり、やる以上は徹底的にやらなきゃいけない。ネットショップで一番強いAmazonに10年間、100年負けない商品をつくらなきゃいけないと考えています。

――御社はネットショップも運営していますが、やはり店頭での販売がメインなのですね。

土屋
そうですね。Amazonと同じことをやっていたら、食われてしまいますから。いま、ネットで購入して店舗で受け取ることも可能です。店舗の在庫品を使うので、ネットで注文があれば最短1分で商品を渡せる。そうすると、受け渡しの速さでAmazonに勝てる。そして価格でも勝てる。さらに言うと、いま弊社は全国1,000店舗をめざしていますが、将来これが2,000店舗になったら、全国ほぼどこでも商品を受け取ることが可能になります。そのくらい徹底的に取り組まないと、Amazonには勝てません。

新しい業態づくりは、既存商品の「編集」

――今後のビジネス展開について教えてください。

土屋
つまるところ、「既存の商品のなかからどう切り出すか」だと思います。

弊社の路面店は、100坪で1700アイテムを扱っています。実はこれ、ニトリさんと同じくらいのアイテム数なのです。いわゆるロングテール商品です。というのは、本来のメイン顧客である職人さん一人ひとりに、例えば「安全帯はこの商品以外考えられない」といったこだわりがあるからです。ただ、一般客をターゲットとしたとき、さすがに1700は多すぎる。

そこで、1700のうちアウトドア向けの320アイテムを切り出した「WORKMAN Plus」をこのほど出店しました。販売する商品は全部プライベートブランドです。さらに、190アイテムにしぼった店舗もつくったところ、アイテム数を減らしても他の店舗と売り上げが変わらないことがわかりました。次は100アイテムくらいにしぼって、長靴専門、ブーツ専門、雨ガッパ専門といろいろな切り口の店舗を出すことで、客層を拡大していけると考えています。

繰り返しになりますが、同じ商品をいろいろな層のユーザーに売る。弊社はブルーオーシャン企業なので、全部このパターンでやっていきます。要するに、編集なんです。

――「WORKMAN Plus」に続く、新しい業態を始める予定はありますか。

土屋
実はもう、新業態用の商品ができています。ただ、いま新業態に手を着けると社員が疲弊してしまいますから、「WORKMAN Plus」のブームが去ってからですね。残業までして、ガツガツ稼がなくていい。自然体で、余裕を持って働いてほしい。そうすれば、短期的な利益はあとからついてきますから。ただ、長期的な利益を生むには、ちゃんと売れる構造をつくる必要がある。それは、時間をかけてやればいいのです。期限がない会社なので(笑)。

画像: 新しい業態づくりは、既存商品の「編集」

ワークマンが生み出す社会価値

――今日お話を伺って、サプライチェーン、マーケティング、そして社員の働き方、それぞれの面からワークマンという会社の強さが見えてきたように思います。最後に、CSVの観点からお聞きします。世の中をよくするために、御社はどんな価値を社会に提供しているのでしょうか。

土屋
一般客の可処分所得を増やしたいんですよ。

弊社はわたしが入社する前から「働く人に、便利さを」という経営理念を掲げていたのですが、そこに「機能と価格に新基準!」というコンセプトをわたしが加えました。高機能のウェアを低価格で提供する、これをスタンダードにするんだと。というのは、いまや弊社のお客さまは、従来からの職人さんと、そうでない一般客との半々だからです。

いま、モノ消費からコト消費の時代と言われて、自動車を持たないとか、ブランド品にこだわらないといった消費者が増えています。ということは、いま世の中の多くの人が求めているモノは、機能性さえしっかりしていればいいと。弊社のアウトドアウェアは、デザインはブランド品に比べたらもう一歩というところでしょう。でも、防寒性に優れていて真冬でもすごく暖かいとか、通気性がよくて真夏でもむしろ着ているほうが涼しいといった高度な機能性がある。しかも、ブランド品の1/4以下の値段で手に入るのです。

すると、残ったお金を家族や友人とのコミュニケーションに回すことができる。つまり、コト消費に回せる。そのための原資を、商品を低価格でご提供することによってつくれたらいいなと思っています。スポーツブランドなら1万円するウェアを、ワークマンで3,000円で買って、残った7,000円で家族や友だちとバーベキューをする――そのほうが、お金と時間を有意義に使えると思うのです。小売りがこんなことを言っちゃいけないんでしょうけどね(笑)。

J-CSV提唱者の視点

名和 高司 氏(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授)

飽和状態といわれる日本のアパレル市場で、ワークマンは快進撃を続けている。国内店舗数はすでにユニクロを上回り、さらに「WORKMAN Plus」で新風を巻き起こしている。絵に描いたような業態イノベーションの成功例である。

J-CSVという観点からも、同社は大変ユニークだ。3つのステークホールダーの視点から見てみよう。

第一に顧客視点。圧倒的な安さで活動的な服を売ることで、作業者にとっても一般の顧客にとっても、アクティブな生活を提供する。安さによって生活がより豊かになるという発想がデフレ時代にピッタリだ。

第二に各地域のプレーヤー視点。店舗や供給者と持続的な関係を築き、エコシステム全体で価値を創造し、分かち合う。特にフランチャイジー(加盟者)の夫婦を親身になって支援する姿勢は、契約を盾に取る一部の小売業本部とは一線を画している。

第三に社員視点。社員のやる気を最優先に考え、社員に負担をかけてまで(筆者が「ドーピング経営」と呼ぶ)急成長をしようとはしない。働き方改革の先にある「働き甲斐」をめざす経営だ。

これらの3つのステークホールダーに注力する結果、第四のステークホールダーである株主も報われる。事実、同社の株価はうなぎのぼり状態で、今やジャスダック市場で上位の時価総額を誇っている。

「三方よし」を実践することで、「株主よし」をもたらす。これこそ、J-CSVがめざすべき理想的な企業の姿と言えるだろう。

画像: 作り手よし、売り手よし、買い手よし、社員よし。
【第3回】売り上げより賃上げにコミットする会社

土屋哲雄(つちやてつお)

1952年、埼玉県深谷市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、三井物産株式会社に入社。1988年、社内ベンチャー制度を利用して三井物産デジタル株式会社を起業。その後、三井物産経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司董事兼総経理、三井情報開発株式会社(現・三井情報株式会社)取締役執行役員を歴任した。2012年に株式会社ワークマンに入社し、常務取締役として情報システム部・ロジスティクス部を担当。2017年から経営企画部も担当し、2018年出店の新業態「WORKMAN Plus」を仕掛けた。2019年からは専務取締役として開発本部と情報システム部、ロジスティクス部を担当している。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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