出口 治明氏 立命館アジア太平洋大学(APU)学長 / 山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー
課題を見つけ出す力、新しいサービスにつながる独創的なアイデアを生み出す力を磨いていくために、「人・本・旅を通じて勉強してほしい」と語る出口氏。ここではそれらから上手に学ぶためのヒントについて聞く。そして、リーダーが学び続けることの重要性へと話題は展開していく。

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若いときに身につけた学ぶ習慣は一生のもの

画像1: 若いときに身につけた学ぶ習慣は一生のもの

山口
辺境は異なる世界との接点でもあり、そこから大きな変化が起こるというのは、本当におっしゃるとおりです。出口先生は学びを得るものとして「人・本・旅」を挙げておられますが、旅も異なる世界と接点を持つ機会として大切にすべきということですね。

出口
そうなのですが、近年、日本から海外への旅行者数は増えているのに、留学という形での交流が衰退していることは大問題だと考えています。象徴的なのは、米国への日本人留学生の数が、1998年には約4万6,000人だったのが、2017年現在、2万人を切るまでに減少していることです。留学生全体の総数も2004年の約8万3,000人をピークに2016年には約5万6,000人まで減少しています。こうしたこともあり、APUでは今後5年間で日本人学生全員に海外経験をしてもらうプランを立て、実行しているところです。

最新の脳科学の研究成果によると、知的好奇心や向学心は18~19歳でピークを迎えると報告されています。その時期に学ぶ習慣を身につけ、「知ることは楽しい」と思えるようになると、学習習慣や学習意欲を一生持ち続けることができます。そのような時期だからこそ、旅だけでなく留学という異文化を深く学ぶ機会を得て、異文化を理解する習慣を身につけることが大事なのです。

画像2: 若いときに身につけた学ぶ習慣は一生のもの

山口
学ぶことは一種の習慣なのだということも大切なポイントですね。

出口
何かを学ぶということは人生の選択肢を増やすことにつながります。18~19歳がピークと言いましたが、もちろん社会人になってからでも遅くはありません。意識することで習慣は身につけられるはずで、一生学び続ける人は生涯所得も高くなります。

山口
そうなると、学び直しも大事になってきますね。

出口
そのとおりです。過去のできごとを対象とする歴史研究でも、技術の進歩や新たな文献の発見などによって、新しい知見が得られることが多々あります。例えば、すでに研究され尽くされたように思える『日本書紀』も、森博達氏の著作『日本書紀の謎を解く 述作者は誰か』では、漢字の音韻や語法の分析によって渡来中国人が書いた部分と日本人が書き継いだ部分を明らかにすることで、各巻の成立順序や記述内容の虚実についての新しい論考がなされています。歴史も科学の一つですから、最新の知見を積み重ねることで真実に近づくことが可能です。一度学んだから終わりではなく、知識も更新する必要があるのです。

人・本・旅を通じて学ぶヒント

画像1: 人・本・旅を通じて学ぶヒント

山口
人・本・旅を通じて学び続けることが必要なのですね。では、その学びのあり方について、どうすればうまく学べるのかヒントを頂けますか。

出口
まず人については、賢い人や優れた人に学ぶほうがいいわけですから、「人から学ぶ」ということは、「どうしたらいい人に出会えるか」という問題に置き換えることができます。ただ、人には好き嫌いや相性がありますから、「そんなこと分かったら苦労せえへんで」と言われるでしょう。ではどうすればいいか。とにかく誘われたら行ってみることです。何も得るところなく退屈だったら帰ればいいだけですから。積極的に外に出ていかなければ人とは会えませんから、機会があれば足を運んでみるという前向きな気持ちが人から学ぶことの第一歩でしょう。

本は人に比べれば簡単に良書が選べますね。古典はまず間違いない。何百年も読まれてきたものが悪いはずがありません。それから、日本には新聞という、数百万部も発行されているクオリティペーパーがあります。それだけ多数の人に読まれている新聞に、超一流の先生方が記名で書いている書評はまず信頼できると考えられます。その中からおもしろいと思うものを選ぶとよいでしょう。

書店で実際に手に取って選ぶときには、本文の最初の10ページを読めばおもしろいかどうかが分かります。よく前書き、後書きと目次を見たらだいたい分かるという人もいます。でも僕は自分が本を書いているから言えるのですが、前書きと後書きは本が完成してやれやれと気が緩んでから書くものなので、おもしろさを判断する上で役に立つかどうかは分かりません。それより、どんな本でも筆者がいちばん本気で書いた本文の最初にこそ真価が出ていると思うのです。

旅は言うまでもなく、五感で学べることに価値があります。情報というのは五感で入手するものですから、実際に現場に行くことで、映像で見るよりもはるかに多くの情報が得られます。あのデカルトも、大学の本を読みつくした後、世の中の人々の考え方を知るべく旅に出たように、たくさんの人に会い、たくさんの本を読み、たくさんの場所に行くこと以外に学ぶ道はありませんし、その学びは一生続くものです。

山口
特にリーダーとなる人は学び続けなければならない。

出口
リーダーは、判断を誤れば組織の多くの人を死なせかねないという責任ある立場にいるのですから、当然、人以上に勉強しなければなりません。オットー・ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と述べましたが、これは時間軸の問題で、愚者はごく短い自分の経験からしか学ばないが、賢者は時間軸を伸ばして先人や他人の経験からも学ぶことで失敗を防ぐという意味です。例えば、東日本大震災のことを学んだ人と学ばなかった人がいたとして、次に大震災が起きたときに助かる可能性が高いのはどちらでしょう。

山口
もちろん学んだ人のほうです。

画像2: 人・本・旅を通じて学ぶヒント

出口
ええ。それがすべてなのです。人間が自分の経験に学べるのは、せいぜい数十年の間に起きたことだけです。そんな短い間に大災害が起き、それを自分が当事者として経験できる確率は低いでしょう。これに対して、何千年も続いてきた過去の歴史には大災害の記録をはじめ、学べることが山のようにあるのです。

将来、何が起きるかは誰にも分からない。その時にリーダーが判断を誤ったら自分だけではなく多くの人に死活的な影響が出ます。だからこそ、リーダーは過去の歴史を教材としてしっかり学んでおかなければならないのです。さらに言えば、過去だけではありません。今の時代は技術の進むスピードも速いので、世の中に遅れないためにも学び続ける必要があるのです。

画像1: 「さまざまな知識×論理的に考える力」が問われる時代に
その3 経験に学び、歴史に学ぶリーダーの条件

出口 治明(でぐち はるあき)

立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年三重県美杉村生まれ。1972年京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年に上場。10年間にわたって社長、会長を務める。2018年1月より現職。著書は『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『全世界史上・下』(新潮社)、『人類5000年史Ⅰ、II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。

画像2: 「さまざまな知識×論理的に考える力」が問われる時代に
その3 経験に学び、歴史に学ぶリーダーの条件

山口 周(やまぐち しゅう)

1970年東京都生まれ。独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

「第4回:学ぶことを阻害する日本の社会システム」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

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