出演者
株式会社 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
左:サービスデザイン&エンジニアリング部 主任研究員 森木俊臣
左から2人目: ビジョンデザインプロジェクト デザイナー 田中久乃
右から2人目:ビジョンデザインプロジェクト主任デザイナー 柴田吉隆
右:ビジョンデザインプロジェクト デザイナー 曽我佑
「第1回:スタートは、地産地消のご当地メニュー開発。」はこちら>
「第2回:『こくベジ』が作り出すシナジー効果」はこちら>
「第3回:二人の野菜集配人の誕生。」はこちら>
「第4回:人とのつながりを貯金する。」はこちら>
「第5回:『こくベジ』と一緒に、地域の新しい価値を探す。」はこちら>
「全部自分でできる」
『つれてって、たべる。わたしの野菜』は、これまでの『こくベジ』のお客さまとは異なる人たちの参加を促進し、新しい可能性を広げることになった。そして、このイベントに参加した日立のデザイナーにも、良いインパクトを与えた。
柴田「今回のイベントの準備をしている時に、曽我くんがちょっと興奮気味に“全部自分でできる”って言っていたんです。彼らが普段やっている仕事は、インフラとか社会イノベーションといったスケールのものなので、『こくベジ』のような仕組み作りからポスターやパッケージ、アプリのデザインまで、全部自分でコントロールできるというのが新鮮だったのでしょう。これは、デザイナーとしてはとても重要な経験だし、こういう試みをどうやって社会へ広げていくのかを考えるいいきっかけにもなりました」
田中「自分たちで作った企画を、目の前で喜んでくれる人がいるという経験は、デザイナー冥利に尽きることを実感しました」
曽我「イベントが終わった後に、飲食店の方たちからも、もっと企画の段階から関わらせて欲しかったといった反響もありました。もっと『こくベジ』に深く関わりたい人がいる、それはまだまだこの活動には新しい可能性があるということだと感じました」
『つれてって、たべる。わたしの野菜』の経験をどう発展させていくのか、いまも日立と『こくベジ』のプロジェクトメンバーは議論を続けている。
決済を通じた、新しいコミュニケーションのかたちを作る
フューチャーリビングラボの次の活動として、日立では決済を通じた、新しいコミュニケーションのかたちを作るという新たな協創の実証が進められている。
森木「私たちは、国分寺での次の活動として、スマホで決済する際のインターフェースを地域ごとにデザインできるような、特定の地域専用の通貨を作りたいと考えました。私は20年国分寺に住んでいますので、2018年3月に、まず顔なじみのクリーニング店の店長に、“地域通貨というお金が回る仕組みを国分寺の商店街で実証したいので、誰か紹介してくれませんか”という話をしたんです。まもなく、青年会議所の会長から商工会の会長へと次々に紹介いただき、とんとん拍子で地域通貨の実現に向けた実証が動き始めました。
まず最初に、昨年国分寺で開かれた『ぶんじバル』という食べ歩きイベントで、電子チケットの実証を行いました。その特徴は、一般的なスマホ決済の電子マネーとは違い、会計の時にお店の人とお客さまがスマホに指を同時に乗せて対面する“間”を作ってあるところです。たとえば居酒屋さんでお客さんがスマホで会計をする時、お客さんと店員さんが一緒にスマホに指を乗せて決済が完了するまでの間、両者に不思議な時間が流れる。それを、お客さんも店員さんも面白がってやってくれるんです。これはお金を支払うという行為が、新しいコミュニケ―ションの機会を創出し、それが広がれば地域通貨を使うことが国分寺の新たな習慣になるかもしれません」
いかに素早く簡単に支払いを済ませるか。そんな電子マネーのトレンドに逆らうようなインターフェースのデザインで、地域通貨にコミュニケーションという個性を持たせ、地域でお金を回す力にする。これは『こくベジ』にも新しい展開をもたらすかもしれない。
日立の『こくべじ』に関する活動は、奥田氏・南部氏。地域通貨に関する活動は国分寺のクリーニング店の店長とのつながりがきっかけで始まっている。人と人がつながることで始まったこれらの取り組みは、これまでの日立のビジネスアプローチとはまったく異なる。しかもそれを、次の社会を描くという大きなテーマに挑んでいる『ビジョンデザイン』のメンバーがやっていることに意味がある。マクロとミクロを同時に追求することで、次の社会への仮説は、より血肉を持ったものになるはずだ。今年4月にオープンした『協創の森』は、そんな人と協創することで生まれる新しい価値を探求する場になる。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。