放送作家 小山薫堂氏/株式会社日立製作所 フェロー兼未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダ 矢野和男
大人気放送作家で、「くまモン」の生みの親でもある小山薫堂氏と、日立製作所フェローの矢野和男との「ハピネス」をめぐる対談の2回目。矢野の研究が、「ポジティブサイコロジー」という新しいジャンルをベースにしていること。さらにUAEではハピネス省というものが存在することなど、初耳づくしのエピソードばかりで驚いたという小山氏。ご本人も、中国に講演で呼ばれた時に実感したという、「幸せ追求」のトレンドはどこに行くのかを語り合った。

『第1回:「ハピネス」見える化のプロセス』はこちら>

UAEは国を挙げて「ハピネス」を追求

矢野
2018年には、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイに2回呼ばれて講演をしています。UAEは「政府は、国民のハピネスのためのもの」と首相自ら宣言しているんです。徹底しているのは、2年前にハピネス省(Ministry of State for Happiness)を作って、ハピネス大臣(Minister of State for Happiness)を任命していることです。あらゆる法律はハピネス大臣による定量的な国民のハピネスに対するアセスメント(評価)を通らないと承認されません。それはもう非常にエネルギッシュです。

画像: UAEは国を挙げて「ハピネス」を追求

小山
えー、それはすごいですね! その事実、日本ではまだまだ知られていませんよね。

矢野
そうですね。SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標。17のグローバル目標と169のターゲットからなる。2015年9月の国連総会で採択された)というワードは最近いろいろなところで話題になっていますが、UAEではこの上位に常にハピネスがあると位置づけていて、このような考え方は先進的だと思います。

小山
ハピネスの追求が、世界的なトレンドになっているんでしょうか?

矢野
若い人に顕著に出ていると思います。2018年1月に「ニューヨークタイムズ」で報じられましたが、イェール大学でハピネスの講義を作ったら、全学生の4分の1に相当する、1,200人が申し込んできた。登録5日間で殺到したというのは、前代未聞です。彼らのようないわゆる「ミレニアル世代」は、自分の人生をどうしたらいいんだということに、極めて感度が上がっている状況だと私は思っているんです。

ポジティブサイコロジーの延長にハピネス研究は生まれた

小山
アメリカの学生たちにそういう意識が高まっていることも証明されている。それにしてもUAEにハピネス大臣がいるという事実にショックを受けました。その国と、矢野さんがきっちりと関係を築いていらっしゃるということに日立製作所の未来を感じます。

画像: ポジティブサイコロジーの延長にハピネス研究は生まれた

矢野
ハピネスの研究は今世紀に入る直前の、今から20年弱前にスタートしています。アメリカ心理学会の会長になられた、マーティン・セリグマンという方がたまたま来日され、日本の文化や宗教に触れた時に、これからは「幸せ」じゃないかと思ったらしいんです。それを宗教ではなく科学的にやろうということで。ちょうどそれが、心理学会の会長になるタイミングで、今まで心理学では、不安やうつ病などのマイナスを解決していくための研究を専ら進めてきたが、今後は人をよりポジティブにする部分にも目を向けよう、という主旨の宣言をしたんです。これが「ポジティブサイコロジー」という分野です。

小山
「ポジティブサイコロジー」という言葉は初めて知りました。21世紀の新しい価値観を作ろうという目論見を感じます。その延長線上に矢野さんの研究も位置付けられるのですね。

矢野
はい。私は34年間日立製作所にいますが、入社後20年にわたり半導体の研究をしていました。それが14年前に半導体事業からの撤退が決まり、仕事を変えなければいけませんでした。そこで注目したのがデータです。データを事業にできないかということを調べている時に、「ポジティブサイコロジー」というものを発見したんです。

これが、大きな動きになっていて、私が興味を持ち始めたタイミングと一致していたんです。先ほど申し上げたセリグマン博士や、ソニア・リュボミアスキー博士といった、学会をリードする人たちの本や文献がどんどん出始めた頃でした。まだ分野としても黎明期でしたが、フローで有名なミハイ・チクセントミハイ教授や、著書が評判になっていたソニア・リュボミアスキー博士などに、思い切ってメールを送って話を聞きたいと依頼したところ、割と気軽に会ってくれたんです。そういう積み重ねの中で、彼らがUAEの大臣に「矢野を講演に呼べばいい」というようなことを紹介してくれたわけです。

幸せに関する講演は中国でも大盛況に

小山
なるほど、先見の明があったんですね。イェール大学の4分の1の学生が5日で集まったというのはすごいなと思ったのですが、最近確かに僕のところにも中国からの講演依頼が急激に増えています。
僕はいつも「幸せの企画術」というタイトルで講演をすることが多いんです。本音では講演は得意じゃないのであまりやりたくないんですけれども。それでも、中国から来てくれという声があり、上海、北京、そして今年は台北で講演をしました。すると先方は「今だかつてないくらい人が集まった」とおっしゃるわけです。比較するのは失礼かもしれませんが、世界的な建築家や芸術家の方々が講演した時よりも多く集まったそうです。どうして、それほど有名でもない僕のほうに人が集まるのかがわからなかったんです。でも、矢野さんのお話を聞いて納得しました。おそらく中国圏でも、幸せに対する興味・関心が高まっているということなんですね。

矢野
潜在的だった「ハピネス」に対するニーズが、だんだん顕在化し始めているのではないでしょうか。

小山
今、世の中では「働き方改革」が叫ばれていて、僕は非常に危険だと思うんですよ。どうも、働くことが「悪」で、働かないことが「善」という風潮を感じるんです。時間通りにきっちり仕事をさせたり、社員がしっかり休みを取れたりするのがいい会社であるということになっています。これはこれでとても重要なことですが、一方でそれぞれが結果を出しやすいペースで働けなくなっているという弊害も出ているような気がします。夜働きたくても電気が消えてしまい、朝方無理やり出社して働いている人もいます。結果的に、前よりも仕事が辛くなり、生産性が下がってしまったという例もあるのではないでしょうか。

働き方改革をハピネス省が検閲すれば、きっと今の日本の風潮のようにはならないような気がするんですよね。幸せということを軸にいろいろなことが組織の中に入っていくことは、素晴らしい発想だなと思いました。

矢野
今までは、標準化されたルールを決めて、みんなが同じように守るのがいいことだという価値観でした。実際にみんなが標準化されたものを日本中に行き渡らせる、ということをやった20世紀には大事な手法だったと思うのですが、今はだいぶ変わっているのではないでしょうか。

小山
おっしゃる通りだと思います。

画像1: 対談 データのハピネス、感性のハピネス
【第2回】幸福の最大化は世界のトレンド

小山薫堂
1964年、熊本県生まれ。日本大学芸術学部在学中から放送作家のアルバイトを始める。「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「トリセツ」など、テレビ史に残る番組の企画構成を担当する。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回アメリカアカデミー賞外国語映画賞を受賞する。放送作家集団N35とブランドのプロデュースやデザインを担当するオレンジ・アンド・パートナーズの2社を経営する。また京都造形芸術大学副学長も務めている。「小山薫堂の幸せの仕事術」ほか著書多数。

画像2: 対談 データのハピネス、感性のハピネス
【第2回】幸福の最大化は世界のトレンド

矢野和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は2,500件にのぼり、特許出願は350件超。東京工業大学大学院連携教授。文部科学省情報科学技術委員。

「第3回:『ハピネス』を日本中に行き渡らせる方法」はこちら>

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新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

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