放送作家 小山薫堂氏/株式会社日立製作所 フェロー兼未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダ 矢野和男
「料理の鉄人」「世界遺産」など、数々のヒット番組の構成を手がけてきた放送作家の小山薫堂氏。「くまモン」の生みの親としても知られ、その活動の源泉にあるのは常に「その仕事は人を幸せにするか?」ということだという。目に見えない「ハピネス」の実現を思い描いてきた小山氏と、そのハピネスの見える化に挑んだ矢野和男による対談が、東京・国分寺の日立製作所中央研究所で実現した。

「幸せ」が数値化できるとは想定外でした

矢野
今日は国分寺までお越しいただきありがとうございます。

小山
いえいえ。しかし、すごい緑あふれる場所ですね。連れてきてくれた運転手さんも驚いていましたが、僕もエントランスをくぐってびっくりしました。

矢野
小山さんは、ホイチョイ・プロダクションズ※の馬場康夫さんとお親しいんですよね。馬場さんも弊社の宣伝部に10年ほど在籍されたのはご存知だと思うんですが、この中央研究所は、康夫さんの祖父にあたる馬場粂夫(ばばくめお)という日立製作所の創業メンバーが初代の所長を務めていました。そして、この森をそのまま残すように言い残した場所なんです。

※ホイチョイ・プロダクションズ:映画監督・著述家の馬場康夫氏が代表の制作会社。映画「私をスキーに連れてって」「彼女が水着にきがえたら」「波の数ほどだきしめて」、書籍「気まぐれコンセプト」「見え講座」「極楽スキー」「東京いい店やれる店」など。

小山
はい。僕が世の中に知られるようになったきっかけでもある「カノッサの屈辱」という番組は、馬場康夫さんのスキーに関するうんちく話がきっかけで企画されたものなんです。その意味でも、今日は楽しみにやってきました。

矢野
馬場粂夫は、東京帝国大学を出て、すぐに当時ベンチャー企業だった日立に入社し、研究開発部門のトップとして長く活躍しました。馬場が作ったのが博士号を取得した人だけが加入できる「変人会」という組織でした。研究開発は変人にしかできないという意味が込められています。今は「返仁会」と改称しましたが、私が現在の副会長をやらせていただいていています。創設者の馬場はいまも「大変人」という名称で尊敬されていて、私も会のメンバーからは「矢野変人」と呼ばれているんです。

画像: 馬場粂夫

馬場粂夫

小山
それは、なんとも素敵な企業文化ですね。

僕は以前、「世界ふしぎ発見!」の構成を一度だけやらせていただいたことがあるんですが、今日は矢野さんの研究の「ミステリー」を解かせていただければと思っています。僕も仕事を通じて「幸せ」を追求してきたつもりですが、矢野さんの研究に比べると薄っぺらなことしかやっていなくて、足元にも及ばず、恥ずかしい感じではあるんですが。そもそも「幸せ」が数値で測れるなんて思いもしませんでした。

幸せな人は小刻みに動いていることを発見

矢野
いいえ、恥ずかしいなんてとんでもありません。小山さんの活動や著書を拝見すると、その楽しさが伝わってきます。

幸せというのは、昔から社会全体の目的でした。宗教なども古代から扱ってきたテーマであることは間違いありません。でも小山さんもおっしゃる通り、測れないので、ストーリーにすることくらいしかできませんでした。ITの時代になって、新しい可能性を生んだのが、「いいね」「レーティング」「クリック」などです。ただ、これらのデータは、恣意的で主観的で、操作可能という制約があるにもかかわらず、大きな影響力を持っています。もしも無意識で操作不能なハピネスが測れて、客観的なデータができたら、社会全体の一種の信用情報になっていくのではないかと考えました。それは、企業にとっても政治にとっても、個人にとっても重要なものになる。人材市場でも、保険から融資でも幅広く活用できるのではないか? 

こんなことを15年前から妄想し始めまして、本当に測ってみようとスタートしたのが、きっかけです。具体的には2006年から自分の左腕にセンサーをつけて、以来12年半、24時間継続的に私の動きがコンピュータに蓄積されています。例えば、2009年の私の動きを分析すると、赤いところは活発に動いていて、青いところは止まっているところです。夜中は寝ているので青いんですが、乱れているところは昼夜が逆転しています。これは海外出張でサンフランシスコに行った時です。1日中動いている日がありますが、これは家を新築して引越しの作業をやっていたことを表しています。1日中ダンボール箱と格闘していたことが記録として残っているんです。

画像: 幸せな人は小刻みに動いていることを発見

小山
すごい、15年ですか。筋金入りですね。寝ている間もつけているんですね。

矢野
データの一個一個はゴミのように見えても、集めてみると高次の意味に変わってくるんです。自分をきっかけに、何万人もミリセカンドレベルの加速度センサーで体の動きを測り続けています。その蓄積で発見したのが、幸せが数値化できるということでした。その仕組みをかいつまんで説明しましょう。人は座っていても無意識に体を動かしたり止めたりしています。その動いたり止まったりの長さが、幸せな人は短かったり長かったり伸縮性があります。つまり弾力的です。

一方でアンハッピーな人は動きが固まっていて、一様で伸縮性がないというのが数値に出ているんです。アンケートも取って、自身が幸せと感じているかという実感と照らし合わせた結果、相関係数が0.94とものすごく高かったので、これは間違いないだろうと。そうはいっても幸せとは多様なものです。文化や人によって違うという指摘も、当然ありますし。ただ、幸せになった時に人間はどうなるのかは、数値化できるんです。

笑い=幸せではないけれど・・・

小山
お話を聞いて改めてすごいというか、まさにこういうものを求めていたんだと思いました。何年か前に、熊本県の蒲島郁夫知事(2008年から現職)が県民の総幸福量最大化というのをテーマに掲げて、県民からアンケートを取りました。彼らが何を尋ねたかというと、「1日何回笑っていますか、1日何回泣いてますか?」というものでした。だから、そのデータを持ってきたチームに「これではダメじゃないですか」と申し上げました。「笑い=幸せ」「涙=不幸せ」という部分が違うのではないか? と疑問に思ったんです。ただ、どうやって幸せを測るんだろうなというのが、僕の中にも答えがなくて、もやもやしていました。でも矢野さんの研究は、それが数値として表せるというじゃないですか。

画像1: 笑い=幸せではないけれど・・・

矢野
研究の成果を誰にでも使えるようにスマートフォンのアプリにしたのが「ハピネスプラネット」です。人間にとって大切な目的であり、リソースである「幸せ」という数値をスマホで測れる仕組みを入れ込んでいます。アプリの開発に先立ち、まずは日立の研究開発グループ内の11チームを対象に「ハピネス運動会」と称した実証実験を行いました。

競技スポーツの世界では無限に記録が更新されていきますよね。ああいう形で世界中のハピネスを測って、どうやったらその日その場所その地域、一人ひとりが幸せになれるんだろうかと。11チームには3週間の中で1週間は普通に働いてもらい、2、3週目は秘密の作戦で職場を盛り上げてもらう。その作戦でどれだけ職場が活性化したかを競ったのですが、かなり盛り上がりました。「ハピネスプラネット」はこの実証実験の結果を踏まえて開発したもので、今年8月にリリースしました。9月には実証実験と同様のイベントを実施し、社外の100組織から1,623名・175チームにご参加いただきました。

画像2: 笑い=幸せではないけれど・・・

小山
いやあ、感動しました。もっと早く出会いたかったですね。幸せをデータ化することは不可能だと思っていたんです。数値化とか、過去のデータの蓄積とか、アンケートを組み合わせて、しかも巻き込み型のアプリまで作られたのはすごいです。

画像1: 対談 データのハピネス、感性のハピネス
【第1回】「ハピネス」見える化のプロセス

小山薫堂
1964年、熊本県生まれ。日本大学芸術学部在学中から放送作家のアルバイトを始める。「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「トリセツ」など、テレビ史に残る番組の企画構成を担当する。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回アメリカアカデミー賞外国語映画賞を受賞する。放送作家集団N35とブランドのプロデュースやデザインを担当するオレンジ・アンド・パートナーズの2社を経営する。また京都造形芸術大学副学長も務めている。「小山薫堂の幸せの仕事術」ほか著書多数。

画像2: 対談 データのハピネス、感性のハピネス
【第1回】「ハピネス」見える化のプロセス

矢野和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は2,500件にのぼり、特許出願は350件超。東京工業大学大学院連携教授。文部科学省情報科学技術委員。

「第2回:幸福の最大化は世界のトレンド」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

This article is a sponsored article by
''.