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国際色豊かなメンバーが集う
「OUIのメンバーは国際色が豊かで、全員合わせると15カ国語くらいを操れるんじゃないかと思います。ある意味で外国人のマインドの中で仕事をしているのは、とても面白いですね。若い人も多いので世代間ギャップも感じることがありますが……」
と清水さんは語る。
彼に負けず劣らず、OUIのメンバーも多士済々だ。
「医師と経営者の二足の草鞋を履いているので、『大変でしょう』と尋ねられる事も多いです。私自身としては体力的な限界があることと、時間はいくらあっても足りないと感じますが、そういう環境に生きているだけだと考えています。学生たちに話をする時には、『環境づくり』は大切だと伝えるようにしています。つまり、バイタリティを持って何でも取り組んでくれるメンバーを周りに集めることです。自分で限界をきめることなく、周りから受ける刺激が次の仕事への活力になるからです。
例えば、弊社のCOOの中山慎太郎は、一橋大学を出て、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、三菱商事などを経て加わってくれましたが、英語・スペイン語・フランス語に堪能です。彼は、経験をフルに活かしてSECの普及のために世界中を飛び回っていますが、去年1年間でアフリカを中心に17カ国を巡ってもらいました。そんな多忙の中でも、毎年宮古島の100キロマラソンに参加するくらいストイックな一面もあります。
ビジネス開発のマネジャーを勤めてもらっている濱島尚人は、アメリカのコーネル大学を出て株式会社セールスフォース・ジャパンなどに勤務していました。その傍で、35歳の時に『プロになるわ』と宣言して、現実にプロアイスホッケー選手になってしまいました。さらに、複業でスポーツコンサルティングの仕事もしています。
他にも、日本とロシアで育ったインド系の医師が押しかけるような形でOUIにジョインしてくれて、インドや他のアジア地域にSECを普及するための活動に従事してくれています。
こんなふうに、私自身が医師と兼業しているように、正社員であってもOUIだけの仕事をやっている人間はほとんどいません。むしろ、副業を推奨しているくらいです」

インドネシア・ジャカルタHarapan Kita病院の眼科と共同研究を行うなど、海外交流も盛ん。右端がCOOの中山慎太郎氏。
医学生インターンを積極的に離島に派遣
現在の社員数はIT系のエンジニアも含めて20人だが、慶應義塾大学医学部発のベンチャーだけに、医学部生のインターンが多いのも特徴だ。
「インターンに来てくれている学生には、日本の離島を訪れてもらう事も多いです。彼らには眼科の課題だけでなく、遠隔地医療の実態を知ってもらいたいという意図があります。そこで経験したことをもとに論文を積極的に書くように指導しています。会社としてエビデンスを積み上げるという側面もありますが、そこで得た知見が彼らの今後につながると思っているからです」(清水さん)
これからのOUIの目標について清水さんの見解を尋ねると、
「患者さんを救うことができれば、その手段は何でもいいと思っています。ローラー作戦で、可能性があればどんなこともやります。官公庁と組んで公的資金を活用してデバイスを支給することもやりますし、AIを搭載したソフトウエアも販売をする準備をしています」
特にいま力を入れているのが、モバイル型の眼科検診システム「Mobile Eye Scan」。これは眼科検査に特化した企業向け検診訪問サービスで、眼科医や、眼科検査のプロである視能訓練士が企業へ直接訪問し、忙しいビジネスパーソンが陥りやすい、老眼、ドライアイ、結膜炎などの疾患にいち早く対応することを目的としたサービスも提供している。
「受診した社員の方々からは、『手軽で受けやすい』『目の状態を知ることができて良かった』など、好意的なフィードバックを得ています。診断後には、個々の社員の方にレポートをお送りし、『ドライアイや、眼精疲労が放置されると、年間これだけの金額の損失が生まれます』。といったような労働生産性への影響も可視化した形でお伝えします。放置されがちな普段からの眼の健康についての気づきの機会を提供しています」(清水さん)
これも、世界の失明を半分にしたいという、OUIの壮大なミッションの一環としての活動だ。
世界の遠隔地医療の手助けをしたい
世界に目を向けると、ケニアとブータンで、SECの現地生産を準備している。実現すれば、現在の3分の1の価格で提供することも可能になり、より多くの人に届けることができるという。
「日本でも世界においても、まだまだ弊社ができることは限られています。優秀な人材を確保する事も重要です。AIを駆使した新しい眼科診療についても技術的な課題はクリアできそうな手応えを持っています。それによって眼科診療や、手術で起こる人的ミスを限りなく減らしていけると思います。ただ、医療機器として承認を受けること、そして誰がそれを使いこなせるのか?という点についてもクリアすべき壁は多いと思っています。
日本でも世界でも、眼科医の数は限りがあります。私は眼科医の診療領域を奪う事なく、離島や過疎地域でプライマリ・ケア(総合医療)を担っている医師たちの手助けができることを願っています。現地の医療課題を解決するためにできることを模索し、行動を続けることで最適解が見えて来ると思っています」
そう、清水さんは締めくくってくれた。
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清水映輔(しみず えいすけ)
1987年神奈川県生まれ。慶應義塾大学医学部卒。眼科専門医・医学博士。ドライアイや眼科AIが専門。医療法人慶眼会 理事長。慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師。自己免疫疾患関連の重症ドライアイに関して多数の臨床研究や基礎研究の実績を持つ。2016年にOUI Inc.を起業。2024年12月「Forttuna Global Excellence Awards 2024」において、「Healthcare Leader of the Year - Japan」を受賞。2023年日本弱視斜視学会国内学会若手支援プログラム賞、令和5年度全国発明表彰 未来創造発明賞、2022年第76回日本臨床眼科学会学術展示優秀賞・第5回ジャパンSDGsアワードSDGs推進副本部長(外務大臣)賞、2020年 国際失明予防協会 The Eye Health Heroes award、2020年 日本眼科アレルギー学会優秀賞・第十四回日本シェーグレン症候群学会奨励賞など、数々の実績を持つ。
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