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一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏/株式会社PROSPER代表取締役社長 立花陽三氏
地方を元気にするファンドPROSPER(プロスパー)の代表取締役立花陽三氏を迎えて行われた新春対談。最終回となるその4は、PROSPERのこれから、そしてスポーツによる地方創生についてのディスカッション。

「第1回:日本を元気にするファンド『PROSPER』」はこちら>
「第2回:外資系証券マンから楽天野球団社長へ」はこちら>
「第3回:塩釜のマグロを世界へ」はこちら>
「第4回:スポーツ×地方創生」

※ 本記事は、2024年10月15日時点で書かれた内容となっています。

これからのPROSPER

楠木
立花さんは、現在は『廻鮮寿司塩釜港』とPROSPER、両方の社長をやられているのですか?

立花
そうなのですが、『廻鮮寿司塩釜港』の方は出店計画といったところ以外はほぼ社員に任せていますので、今はPROSPERがメインになります。

楠木
PROSPERの1号ファンドで集めた176億円は、ホテルや旅館を中心に着々と投資されているというお話でしたが、2号ファンドの計画はもう動いているのですか。

立花
まずは、今の1号ファンドでしっかり実績をあげていくことが一番。その上で、地方創生をこの1号だけでやり切れるわけではないので、2号ファンドの立ち上げにも取り組んでいきたいと思っています。

楠木
1号ファンドでの成果がその時に見えていれば、説得力も変わってきますね。

画像: これからのPROSPER

立花
確かに具体的な実績が説得力になることは間違いありません。しかし現在でも地方銀行様を回らせていただくと、私たちの地方創生への取り組みの本気度がしっかりと伝わっている実感はあります。

楠木
地方創生というテーマは、言うだけなら誰でも言えることですからね。

立花
おっしゃる通りです。

楠木
投資の目的が地方創生だということは、2号ファンド以降もずっと変わりませんか。

立花
変わりません。ただ、2号ファンドの規模が大きくなってしまうと、(ファンドの消化が優先されて)小さい案件に取り組みづらくなってしまう可能性が出てきます。残したい小さな旅館の再生をやりたくても、できなくなってしまっては意味がないので、それは次の課題のひとつです。

楠木
ファンドというのは、あまりたくさんの資金が集まってしまうと、小さい案件に投資できなくなってしまう難しさが出てきて、それが制約になる場合があるということですね。

立花
そうです。しかしそれは本末転倒で地方創生の目的が果たせなくなってしまうので、しっかりとバランスをとる必要があります。

投資先としての地方

楠木
今の日本やアメリカなどのある程度成熟した国では、とにかくお金が余っている。しかし投資の対象となるアイデアが足りないので、最近であればAIという分野にワッとお金が集中します。それはそれでいいのですが、競争になることは間違いありません。

しかし同じ投資の対象として地方創生を見ると、バリューアップの可能性が今そこにあるのにお金が回っていない。成熟した社会でこんなチャンスが放置されているというのは、考えてみれば不思議なことですよね。

立花
本当にそう思います。でも、そこに気づいている人も、なぜか本気で取り組もうとはしない。非常にもったいないことです。

楠木
それは、ソロモン・ブラザーズにいた時の立花さんだったら会社を辞めて取り組みましたか、ということでしょう。

立花
(笑)。確かにあの頃の私は、全く地方に興味がありませんでしたし、地方というのは大阪、名古屋、福岡のことでした。でも宝物が眠っているのは、そういう都市ではないということを発見しました。そこからは、毎日が発見の連続です。

スポーツを軸にした地方創生

立花
これからの地方創生の新しい切り口として、スポーツによるまちづくりというものがあります。これは、2023年に誕生したエスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコンフィールド)と北海道ボールパークFビレッジの成功が、大きなインパクトになって生まれた新しい流れです。

楠木
あれは本当に思い切った、地方創生のいい手本ですよね。

立花
素晴らしいです。エスコンフィールドは、今までなら大型ショッピングモールかアウトレットで集客するようなケースです。そこにボールパークというコンセプトで北海道の外からも人が集まる施設が立ち上がった、奇跡的な出来事だと思います。エスコンフィールドの初年度の売上は251億円で、そのうちの4割は試合のない日の売上だそうです。初年度の来場者が346万人で、115万人が試合のない日に野球以外の目的で集まって来る。札幌と千歳の間にある北広島に、これだけの集客力を持った施設が生まれたことに私は大きな可能性を感じています。

海外では、何もない街にプロスポーツのスタジアムや施設をまず作り、その周りを開発してまちづくりをするということは、30年ほど前から行われていたことです。それが日本でも、エスコンフィールドによってスポーツ×地方創生という新しい方向性が拓けました。楽天野球団の10年の経験がある私のところにも、いくつかお声掛けいただいていますので、これをぜひPROSPERの新しい軸に育てていきたいです。

画像1: スポーツを軸にした地方創生

楠木
エスコンフィールドのすごいところは、あれだけのリスクをちゃんと取ったということですよね。

立花
それに尽きると思います。

楠木
ファンドであればそういう思い切ったリスクが取れますから、さらにスポーツによる地方創生という可能性を広げられるのではないですか。

立花
おっしゃる通りです。

楠木
楽天野球団の社長の時立花さんが感じられたように、スポーツというのはファンのコミットメントが高いので、ショッピングに来る人たちとはつながり方のレベルが違います。それだけ人を引き付けるコンテンツだということですから、ポテンシャルが高いことは明らかです。

立花
楽天時代に学ばせていただいたスポーツによる地域との一体感、強いコミュニティというのは、地方を元気にする大きな力になると思います。

楠木
スポーツ×地方創生のタイミングとしては、2号ファンドからになりますか。

立花
1号ファンドで投資できる案件を、ぜひ作りたいと思っています。

楠木
小学生の時からラガーマンだった立花さんが、キラキラの外資系証券のソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、東北での楽天野球団、廻鮮寿司塩釜港と歩かれてきたこれまでの流れが、PROSPERという一本の大きな川になった感じですね。

立花
本当にそう思います。

楠木
それなら、もうこれが立花さんのライフワークですね。しかもそれは、日本の地方を元気にする。

立花
はい。本当にいい仕事をさせていただいています。

楠木
今日は貴重なお話を、どうもありがとうございました。

立花
こちらこそ、ありがとうございました。

画像2: スポーツを軸にした地方創生

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画像1: 2025年新春対談 立花陽三氏と考える地方創生―その4
スポーツ×地方創生

立花陽三(たちばなようぞう)
ソロモン・ブラザーズ証券にてキャリアをスタート。ゴールドマン・サックス証券 債券営業部および戦略投資部 マネージングディレクター、メリルリンチ日本証券 常務執行役員を歴任。その後、楽天野球団 代表取締役社長に就任。楽天ヴィッセル神戸 代表取締役社長も兼任。お客さまの声を第一にした経営スタイルで、スポーツビジネスの価値向上と収益力アップを手掛ける。2021年末に各職退任し、2022年4月 PROSPER を設立、代表取締役に就任。2022年には、事業承継として相談がきた廻鮮寿司 塩釜港(宮城県塩竈市)の会社社長に就任するなど、公私共に地域を盛り上げる取り組みを行っている。
著書に『リーダーは偉くない。』(2024年,ダイヤモンド社)

画像2: 2025年新春対談 立花陽三氏と考える地方創生―その4
スポーツ×地方創生

楠木 建 (くすのきけん)
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』(2024年,日本経済新聞出版)、『楠木建の頭の中 仕事と生活についての雑記』(2024年,日本経済新聞出版)、『経営読書記録 表』(2023年,日経BP)、『経営読書記録 裏』(2023年,日経BP)、『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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