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「第3回:社会の果樹園の創造に向けてひた走る」
果樹園を循環させるのが日本的なビジネス
株式会社ACROVEのミッションは「社会の果樹園を創造する。」というものだ。果実と例えた素敵な事業や商品が育つ土壌、また一方で役目を果たした果実が肥料となって次の果実の成長の一助となる土壌、そういう循環する肥沃な土壌となることがACROVEの目指す企業体である。「社会の果樹園」に込めた思いを荒井さんは以下のように話す。
「キーワードは循環です。現在のアメリカを代表するGAMAM(Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)はプラットフォーム企業です。30年前の1990年代は、IBMやGEといった企業の株式時価総額が高かった。一方で日系企業は、トヨタさん、ソニーさん、リクルートさんなど、30年前と変わらずに優良企業として存在します。私の解釈では、アメリカの会社は果樹園にはなり得ない。つまり1ビジネスが1会社のまま存在している。GAMAMのように、プラットフォーマーなのです。一方で日本のビジネスはリクルートさんでも、ソフトバンクさん、あるいは総合商社も、たくさんのビジネスを包摂しています。それぞれのビジネスに賞味期限が来て、すなわち果実が落ちて土に還っても、そこからまた違うビジネスが芽を出してくる。これが日本の経営やビジネスの大きな特徴だと思っていますし、果樹園のメタファーです。果樹園となぞらえてより大きな会社を作り、時間とともに循環していき、あらゆる人のための存在になっていくことが我々の役目なのだと考えています」
直近30年を作ってきたメガベンチャーの方々を超える企業になりたい
そう語る荒井さんには、大きな目標がある。ソフトバンクの孫正義氏を超えるような企業になることだ。そう、「令和を代表するようなメガベンチャー」こそが、ACROVEの壮大なビジョンなのだ。
「日本企業として世界で戦うことも目標です。中国系や韓国の財閥系企業は、世界でも大きな影響力をもっています。ACROVEはまだ小さなスタートアップですが、いろいろな事業を展開してリソースを集めて、より大きな波が来たときに、リソースを大きく割くことを繰り返して、結果として先人たちが作ってきた日本のビジネスをリレー形式でより大きくしていきたいなと考えています」
そう考える理由は、海外の工場に視察に行って体感した、規模の大きさや、川上から川下までを1企業がカバーできているという現実だった。
「私は1-10兆円の売上げ規模の会社では戦えないのではと感じています。韓国のLGなどは参考になります。日本のほとんどの方にとっては、大型テレビを作っているメーカーというイメージかもしれません。ですが、テレビに使うプラスチックの原材料を供給するLGケミカルという会社もありますし、製品に加工する機械を製造する会社もグループ内にある。さらには、流通網を完備して、小売の店舗までを備えています。商流のすべてを押さえている会社が、LG以外にもたくさんあります。そういう規模にならないと、世界では戦えないと思っています」
企業の規模を大きくすることだけが正義ではない。小規模な店舗で美味しいパンケーキを毎日作り、地域の住民たちに笑顔を届けることの尊さも、荒井さんは十二分に理解している。それでも、ACROVEをスケールアップして、世界と戦うという選択肢を視野に入れている。
世界には日本版「中華街」のような面で進出することが重要
「家族など、身近な人に笑顔を届ける幸せもあります。ただ、純粋に私の場合は何万人、何十万人の力をまとめて大きく成長させることで、イノベーションを生み出したいと考えています。純粋に後者のほうが私は得意なのです。そして、世界で勝つための勝負が大きくなれば、日本のため、ひいては世界のためにもなると思っています。例えば日本の半導体投資はまだまだ少ないです。現状では新設工場を作るにも数兆円規模の投資しかできません。もし自分の会社が100兆円規模であれば、その10%である10兆円を投資し、政府などからも援助を受けて、20兆円のファンドを作って大きな投資ができると考えています」
荒井さんの構想は大きく深い。同じアジアの韓国や中国に伍して戦うためのビジョンはどんなものなのだろうか。
「日本も“中華街”のような面で世界に進出することが必要なのではないでしょうか。“中華街”は知られていますが、韓国も世界に進出する際には、点ではなく面で進出しているという現実があります。実際、彼らは進出した土地に街作りから関わっています。それが世界の各地にある中華街として存在している。韓国もベトナムにサムスンの工場を作ったら、その周辺に“韓国街”を作っています。日本の会社は、数人派遣して現地調査をし、事務所を開設することが多いです。ですが、単独の動きでは面で勝負している国とは渡り合えず、世界で戦えないだろうと強く感じています。スタートアップなどの枠組みではなく、将来的には何万人、何十万人の単位で現地に溶け込んで、ビジネスとして発展させていくことをやっていきたいのです」
荒井さんは、日本と世界のビジネスにおける優先順位の違いを認識しながら、日本企業らしさを失わずに成長することを目指している。
「会社の成り立ち、あるいは企業が大切にしなければいけない文化は世界では異なっています。ヨーロッパであればファミリービジネスという血筋であり、アメリカならば投資価値。日本は志だと思っています。ACROVEでは次代の社会に貢献する志を共にし『社会の果樹園を創造する。』というミッション実現のために日々事業を邁進しています」
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荒井 俊亮(あらい しゅんすけ)
1996年東京生まれ。学生時代にACROVEの前身となる株式会社アノマを創業。日本初のエンドウ豆由来のピープロテインブランド「anoma」を販売。2020年ACROVEに商号変更。2024年5月に、30歳以下の経営者に送られる「Forbes30 under 30 Asia」に選出される。
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