Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
株式会社 日立製作所 執行役常務 馬島知恵/バレエダンサー 二山治雄氏
17歳でローザンヌ国際バレエコンクールにおいて1位を獲得し、パリ・オペラ座バレエ団を3年経験。現在国内外でフリーのバレエダンサーとして活躍する二山治雄(にやまはるお)氏27歳。そして日立の社会イノベーション事業を取りまとめる、バレエファンの執行役常務 馬島知恵(ましまちえ)。対談第2回は、協創を動かす起点となる共感について。

「第1回:バレエの魅力」はこちら>
「第2回:共感という起点」
「第3回:コロナ禍という転機」はこちら>
「第4回:Society 5.0 for SDGsとは?」はこちら>
「第5回:次世代の課題」はこちら>

ムダな努力をたくさんしなさい

馬島
プロフェッショナルになるということは、あらゆることが学びの材料になり、自身の糧になるということだと思います。私たちの仕事でも、お客さまのビジネスの成長や課題、社会が抱える課題を解決していくためには、テクノロジーやスキルだけではなく、今は人間系についての勉強が必要です。

二山
おっしゃる通りだと思います。バレエも技術面はレッスンで学びますが、舞台のバレエダンサーは言葉を発さずにストーリーを身体で演じる役者です。その表現力を豊かにするためには、レッスンだけではなく日常生活の発見や学びを大切に吸収して、感性を磨いていく必要があると思います。

僕がアメリカから日本に戻って高校を卒業したかったのは、普通の学生生活を送りたかったからなのです。バレエに一日中浸ることも大事だと思いますが、友達とおしゃべりしたり、旅行に行ったり、家族と過ごしたり、その時にしかできない時間や経験を大切にしたいという思いがありました。

パリにいる時も、特に用事もなくふらっと散歩して、「ああ、今日は景色がきれいだな」とか、「この建物はこういうふうになっているんだ」とか、そういう小さな発見や感情の動きから踊りのインスピレーションをもらいました。

馬島
そういう何気ない日常からのインスピレーションは大切ですね。ただ、表現にはこれをすれば上達するといった教科書や正解がありません。そこが芸術の奥深いところだと思いますが、今の私たちのビジネスにもまったく同じことが言えます。従来のやり方を踏襲していればよかった時代から、正解がない時代になり、より自分たちの感性を磨く必要があると思っています。

二山
僕はバレエダンサーでやっていけるとは思っていなかったので、手に職を付けるという意味で調理師の免許が取れる高校に行きました。食物科という学科をとっていたのですが、そこで学んだ食文化が、パリ・オペラ座の団員になって知ったカトリーヌ・ド・メディシス(※)とイタリアの食文化の話につながり、高校で学んだ和・洋・中華の歴史や文化が思いがけず役に立ったこともありました。

※ カトリーヌ・ド・メディシス:16世紀、イタリアからフランス王家に嫁ぎ、先進的なルネサンス文化をフランスに広めた王妃。現代のバレエの原型となる舞踏や、のちにフランス料理としてもてはやされる洗練された食文化は、彼女がもたらしたものと言われる

馬島
とてもよくわかります。私もまったく関連するとは思っていなかった点と点が、何年もたってから急につながることがあります。以前ご指摘を頂いたことも、後になって問題の本質はここだったのかと気づくこともあります。

二山
昔僕のバレエの恩師に言われて、すごく心に残っている言葉があるんです。それは、「無駄な努力をたくさんしなさい」。当時はまったく理解できませんでしたが、この年になってみると、いろんな経験がすべて自分の財産になっていて、それが僕のバレエの血や肉になっているということがわかるようになりました。

馬島
本当にその通りです。無駄な努力や経験なんてなく、すべて自分の糧になりますね。

二山
近道ではなく、回り道をしたから得られるものってたくさんあると思います。

画像: ムダな努力をたくさんしなさい

開拓者精神

馬島
日立という会社は、100年以上前の創業時から「開拓者精神」というものを大切にしてきました。それは今も生きていて、新しいことに積極的にトライする文化があります。私自身の仕事でも「社会イノベーション事業」という領域で新事業の開拓を推進していますが、上手くいかないトライもあります。ですが、社会が必要としている分野で誰よりも早くその分野で旗を立てる、という気概を持って全員で取り組んでいます。

私は二山さんを見ていると、同じスピリットを感じます。伝統的なクラッシックバレエはもちろん素晴らしいのですが、ピアニストの角野隼斗(※)さんとモーリス・ラヴェルの『ボレロ』で共演されたり、いつも新しいことに積極的に挑戦されていて、その勇気と作品に私は感動し、力をもらってきました。二山さんの恐れずチャレンジする開拓者精神は、何がモチベーションになっているのでしょう。

※ 角野隼斗(すみのはやと):1995年~ 日本のピアニスト・作曲家・編曲家。

画像: 開拓者精神

二山
それは、もっと多くの方にバレエを知るきっかけを作ってもらいたいからです。今、日本人のバレエ公演を見に来てくださるお客さまは、クラッシックバレエをやっている方、あるいは昔やられていた方がほとんどで、バレエに関わっていない方の集客は本当に厳しい状況です。

ピアニストの角野さん以外でも、ギタリストの方とのコラボやファッションショーなどいろいろとやらせていただいているのは、違う業界や職種の方とコラボすることによって、そこからひとつでも新しいつながりやバレエに興味を持っていただく方が増えて欲しいからです。

はじめてやることというのは、すごく不安で緊張もするのですが、僕の大きな財産になっていることは確かなので、怖いけれども挑戦していこう。失敗したら失敗したで、それはその時に考えればいいと思っています。

共感を協創の力に

馬島
二山さんのバレエの話しを伺っていて、私は社会イノベーション事業ととても共通するものがあると感じました。今ある社会課題、例えば地球温暖化が問題なのは皆さんわかっていても、そこから一人ひとりのアクションへはなかなかつながりません。もっと具体的な問題であることを自分事として認識してもらえる伝え方が重要だと思っています。少し前に一緒に地域のグリーン関連のセッションをさせていただいた先生から、脱炭素を自分事として認識してもらうために、CO₂排出量を天気予報のように毎日住民の方々に伝えると理解できるのではないかという話しを伺いました。人の生活に近い内容で伝えることが、理解から共感につながる近道だと思います。

伝え方を工夫していくことで、社会課題の先にある未来への共感を広げていきたいと思っています。社会課題は、日立だけではとても解決できるものではありません。同じビジョンを共有した仲間が絶対に必要です。未来の社会への共感があれば、行政やアカデミア、地元の企業など、異なる世界の方たちとの協創、コラボレーションが可能になります。

バレエの舞台を作り上げるために、ダンサーや音楽や美術や衣装などそれぞれの役割の人たちがひとつになるのは、少しでも良い作品にしたいという思い、共感が全員のベースにあるからですね。それはお客さまを感動させるというビジョンが、しっかりと共有されているからだと思います。

社会イノベーション事業もまったく同じです。進むべきビジョンへの理解と共感がベースで、トライすることで見えてくる課題をまた次に向けて皆さんと力を合わせて解決していく。その繰り返しです。

二山
一緒ですね。ダンサーとお客さまとの関係も、見せて終わり、チケットを買ってもらって終わりではなく、真剣なお客さまの声をいただいて次はもっと良い舞台にしようというキャッチボールがあります。そういうサイクルから、より大きな感動が生まれるのだと思います。

馬島
そう、プラスのサイクルですね。何かを1回クリアすればそれで終わるものではなく、少しずつ少しずつ、より良くするにはどうしていくかをしっかり話し合って、お互いの共通点を見つけて信頼を高めていくことが重要なのです。そういう意味で、社会イノベーション事業とバレエは、本質的に共通するものがあると思います。(第3回へつづく

撮影協力 JustCo DK Japan 株式会社

「第3回:コロナ禍という転機」はこちら>

画像1: バレエと社会イノベーション
【第2回】共感という起点

二山 治雄(Haruo Niyama)
1996年長野県松本市生まれ。7歳よりバレエをはじめ、小学校5年より白鳥バレエ学園にて塚田たまゑ・みほりに師事。2014年第42回ローザンヌ国際バレエコンクール第1位、ユースアメリカグランプリ シニア男性部門金賞。ローザンヌ国際バレエコンクールのスカラシップでサンフランシスコ・バレエスクールに留学。2016年ワシントンバレエ団スタジオカンパニーに入団。2017~2020年パリ・オペラ座バレエ団契約団員として入団する。アブダビ、シンガポール、上海ツアーにも参加。2020年、コロナ禍の中帰国。以降フリーのバレエダンサーとして、さまざまな舞台で活躍中。2023年に東京新聞制定で日本の洋舞界で活躍する若手ダンサーに送られる「第29回中川鋭之助賞」を受賞。来年には初めての写真集も出版予定。

画像2: バレエと社会イノベーション
【第2回】共感という起点

馬島 知恵(Chie Mashima)
1989年、日立製作所入社。2018年、社会ビジネスユニット 公共システム営業統括本部 営業統括本部長。2019年、理事/日立オーストラリア社 社長。2023年4月、執行役常務 営業統括本部副統括本部長 兼 デジタルシステム&サービス担当 CMO兼 社会イノベーション事業統括本部長。

画像3: バレエと社会イノベーション
【第2回】共感という起点

『HARUO NIYAMA』
(フォトグラファー:井上ユミコ/編集・ライター:富永明子,株式会社EDITORS)
表現者としてのバレエダンサーの魅力を、1人1冊の洗練された写真集で伝えるプロジェクト「ASSEMBLĒS(アッセンブレ)」。その第一弾を、二山治雄氏が飾ります。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.