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株式会社 日立製作所 執行役常務 馬島知恵/バレエダンサー 二山治雄氏
2014年、17歳でローザンヌ国際バレエコンクールにおいて1位。同じ年にユース・アメリカ・グランプリのシニア部門で金賞。その後もワシントンバレエ団、パリ・オペラ座バレエ団を経験し、現在卓越した技術と端正な動きで知られ、国内外でフリーのバレエダンサーとして活躍する二山治雄(にやまはるお)氏27歳。日立のデジタルシステム&サービスセクターで社会イノベーション事業を取りまとめる、バレエファンの執行役常務 馬島知恵(ましまちえ)。バレエと社会イノベーション、そこに共通するものとは何かという興味深い展開となった対談を、5回に渡ってお届けする。第1回は、バレエの魅力について。

「第1回:バレエの魅力」
「第2回:共感という起点」はこちら>
「第3回:コロナ禍という転機」はこちら>
「第4回:Society 5.0 for SDGsとは?」はこちら>
「第5回:次世代の課題」はこちら>

日立再発見

馬島
尊敬するバレエダンサーであり、バレエスタジオのオープンクラスでは時々先生として教えていただいている二山さんとの対談、楽しみにしていました。本日はよろしくお願いいたします。まずは私の方から自己紹介させてください。私は日立という企業の中で大きく2つの役割を担っています。ひとつはデジタルシステム&サービスという部門のチーフ・マーケティング・オフィサーとして、お客さまとのより良い信頼関係を築き、お客さまの課題に答えながら事業やビジネスを拡大していく役割です。

もうひとつは、少子高齢化や環境問題と言った社会全体が抱えている課題を、デジタルを生かして解決をめざす「社会イノベーション事業」を進めています。この2つの役割を、短期・中長期という異なる時間軸を自分の中で融合させながら、日々の仕事をしています。

ちなみに二山さんは、日立と聞いてまず何をイメージされますか。

画像: 日立再発見

二山
CMの影響かもしれませんが、洗濯機や掃除機といった家電のイメージが強いです。

馬島
そうですよね。日々の生活の中で直接お客さまがお使いになる機会が多いのは家電分野なので、そういう方が多いと思います。でも日立は、例えば二山さんが利用される新幹線の鉄道車両も作っています。

二山
えっ、そうなんですか。

馬島
はい。車両だけではなく、列車を時間通り安全に走らせる運行制御システム、みどりの窓口のチケット発券システムも日立なんです。皆さんの目にはなかなか直接触れることがないですが、こうした鉄道やエネルギーなどの社会インフラを支えることを得意とする会社が、日立です。

二山
家電よりもっと身近なところでお世話になっているなんて、知りませんでした。

馬島
そうなんです。

二山
それでは僕の方も自己紹介させていただきます。フリーのバレエダンサーの二山治雄と申します。1996年長野県松本市生まれ、7歳からバレエを始めて、11歳から長野市にある白鳥バレエ学園の松本支部に入学し、塚田たまゑ・みほり先生の指導を受けるようになり、現在も長野と東京などを頻繁に行き来しています。小、中、高校と普通に学生生活を送りながらバレエに取り組んでいましたが、2014年のローザンヌ国際バレエコンクールに出場して1位を獲ったことがひとつの分岐点になりました。17歳の時でした。

そのあとスカラシップ(※)をいただいて、サンフランシスコのバレエスクールに1年間留学し、バレエ団の契約をいただいたのですが、自分の中でまだプロになるという意識や準備ができていなくて、日本に戻って休学していた高校に復学し卒業しました。

※ 入学金や学費などの免除・軽減を行う、成績優秀な学生を選抜する入試制度。

その後ワシントンバレエ団のスタジオカンパニーに入団し、同じ時期にパリ・オペラ座バレエ団の契約もいただいたので、翌年から3年間パリ・オペラ座で契約ダンサーとして活動しました。その後コロナ禍となり、一時帰国から現在まで国内外でフリーのダンサーとして活動しています。

バレエの魅力

馬島
私は小さい頃にバレエが題材の漫画やドラマがあって、バレエに対してすごく憧れを持っていました。学生時代は新体操や器械体操部に入っていたのでバレエを習う時間がなかったのですが、社会人になってしばらくして、自分でスケジュールの調整がある程度できるようになってきた頃、「やっぱりバレエがやりたい」と思い、バレエ団のオープンクラスに入り、そこから継続してレッスンを受けています。

二山
公演を見るよりも、自分でやられる方がお好きなのですか。

馬島
はい。もうずいぶん長くやっていますが、いつも上手くできない動きなどを抱えていて、毎回0.1ミリでも前進したいという思いがずっとあり、練習し続けています。バレエは単に体を動かすだけではなく、練習の積み重ねをしていくことが心の鍛錬にもなりますし、音楽と動きを合わせることも魅力です。また、たまに二山さんの踊りをオープンクラスで間近に拝見できることもとても勉強になっており、限られた時間をバレエにつぎ込んでいます。

二山
その気持ち、わかります。僕もバレエの魅力は何ですかとよく質問されるのですが、ひとことで答えるのがすごく難しいのです。でも子どもの時はもう本当に体を動かすのが大好きで、その欲求を満足させてくれるのがバレエだったし今も変わっていませんから、それはバレエの大きな魅力のひとつだと思います。

ダンサーとして観客の前で踊るようになって感じることは、バレエは総合芸術であるという魅力です。ひとつの公演を行うために、ダンサーはもちろんのこと、振り付けや演出、音楽、舞台セット、衣装などすべてが揃わないと作品にはなりません。そしてみんなが一体となってより良いものを作ろうとする。バレエには順位やゴールがありませんから、もっと上があるはずとさらに高みをめざし続ける。ここに大きな魅力を感じます。

画像: バレエの魅力

壁を突き破る日本人の強み

馬島
ローザンヌでは二山さんの後も多くの日本人が入賞し、今の若い人たちは世界で戦ってもすごく成績が良いですが、それはなぜだと思いますか。

二山
本当のところはわかりませんが、僕が先生からバレエに関して「日本人は真面目にコツコツと練習できることだけが取り柄だ」と言われ続けてきました。西洋文化で育っておらず、体格や言語のハンデがある日本人が世界の壁を乗り越えるためには、とにかく休まずひたすら練習をする以外にない。僕はそう教わってきましたし、自分でもそうしてきました。その熱量が日本人の強みなのかもしれません。

馬島
世界に挑戦する時の西洋文化とのギャップというのは、例えばパリ・オペラ座に入られた時などは身を持って感じましたか。

二山
はい。日本の伝統芸能でいう能や歌舞伎を海外の人がやっていたら、日本人はちょっと違和感を覚えますね。それと同じで、バレエという自分たちの伝統の世界に僕のようなアジアの人間がいるだけで、ヨーロッパの人は違和感があるのです。実際に人種差別的な扱いを受けたこともありますし、やはり壁はありました。

ただ、せっかく本場で学ぶ機会をもらった以上は、バレエ以上に西洋文化も吸収したいと思っていました。ルネッサンス期に最初はイタリアで生まれたバレエが、フランス王室に嫁いだメディチ家(※1)のカトリーヌ・ド・メディシス(※2)によってパリに入ってきた時、バレエだけではなくナイフやフォークなどの食文化やさまざまなものがイタリアからパリに渡った。そういった西洋の歴史や伝統も、せっかくパリにいるのだから目いっぱい体感しよう。パリはきつい経験という面もありましたが、感性は鍛えられました。

※1 メディチ家:ルネサンス期のイタリア フィレンツェにおいて銀行家、政治家として台頭し、フィレンツェの実質的な支配者として君臨、のちにトスカーナ大公国の君主となった一族。
※2 カトリーヌ・ド・メディシス:16世紀、イタリアからフランス王家に嫁ぎ、先進的なルネサンス文化をフランスに広めた王妃。現代のバレエの原型となる舞踏や、のちにフランス料理としてもてはやされる洗練された食文化は、彼女がもたらしたものと言われる。

馬島
私も今回改めてバレエの歴史を学んでみました。メディチ家の話もそうですし、バレエの歴史と西洋の歴史が連動していて、フランス革命の時にいろいろな演目が作られたとか、ストーリーをより深く理解できるようになり、公演を拝見するときに見方が変わると感じています。(第2回へつづく

撮影協力 JustCo DK Japan 株式会社

「第2回:共感という起点」はこちら>

画像1: バレエと社会イノベーション
【第1回】バレエの魅力

二山 治雄(Haruo Niyama)
1996年長野県松本市生まれ。7歳よりバレエをはじめ、小学校5年より白鳥バレエ学園にて塚田たまゑ・みほりに師事。2014年第42回ローザンヌ国際バレエコンクール第1位、ユースアメリカグランプリ シニア男性部門金賞。ローザンヌ国際バレエコンクールのスカラシップでサンフランシスコ・バレエスクールに留学。2016年ワシントンバレエ団スタジオカンパニーに入団。2017~2020年パリ・オペラ座バレエ団契約団員として入団する。アブダビ、シンガポール、上海ツアーにも参加。2020年、コロナ禍の中帰国。以降フリーのバレエダンサーとして、さまざまな舞台で活躍中。2023年に東京新聞制定で日本の洋舞界で活躍する若手ダンサーに送られる「第29回中川鋭之助賞」を受賞。来年には初めての写真集も出版予定。

画像2: バレエと社会イノベーション
【第1回】バレエの魅力

馬島 知恵(Chie Mashima)
1989年、日立製作所入社。2018年、社会ビジネスユニット 公共システム営業統括本部 営業統括本部長。2019年、理事/日立オーストラリア社 社長。2023年4月、執行役常務 営業統括本部副統括本部長 兼 デジタルシステム&サービス担当 CMO兼 社会イノベーション事業統括本部長。

画像3: バレエと社会イノベーション
【第1回】バレエの魅力

『HARUO NIYAMA』
(フォトグラファー:井上ユミコ/編集・ライター:富永明子,株式会社EDITORS)
表現者としてのバレエダンサーの魅力を、1人1冊の洗練された写真集で伝えるプロジェクト「ASSEMBLĒS(アッセンブレ)」。その第一弾を、二山治雄氏が飾ります。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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