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株式会社 日立製作所 執行役常務 馬島知恵/バレエダンサー 二山治雄氏
17歳でローザンヌ国際バレエコンクールにおいて1位を獲得し、パリ・オペラ座バレエ団を3年経験。現在国内外でフリーのバレエダンサーとして活躍する二山治雄(にやまはるお)氏27歳。そして日立の社会イノベーション事業を取りまとめる、バレエファンの執行役常務 馬島知恵(ましまちえ)。対談第4回は、Society 5.0 for SDGsについて。

「第1回:バレエの魅力」はこちら>
「第2回:共感という起点」はこちら>
「第3回:コロナ禍という転機」はこちら>
「第4回:Society 5.0 for SDGsとは?」
「第5回:次世代の課題」はこちら>

社会イノベーション事業のめざすもの

馬島
私たちはさまざまな社会課題を抱えているというお話をさせていただきましたが、それを一つひとつ解決してサステナブルな社会を実現していく。それが私たちの社会イノベーション事業の目標です。私たちがめざす社会を「Society 5.0」という言葉で表すことが多いのですが、いきなりSociety 5.0と言われても何のことかわかりませんよね。

二山
勉強不足ですいません、はじめて聞く言葉です。

画像1: 社会イノベーション事業のめざすもの

馬島
Society 5.0は、私たちや次世代に残していく未来社会を指す言葉です。5.0というからには、1.0という段階がありまして、それは人間が最初に作った社会である狩猟社会を意味します。2.0は人間が定住して暮らすようになった農耕社会、3.0は蒸気機関の発明からはじまった産業革命が作り出した工業社会、4.0はコンピュータやインターネットなどの技術が実現した情報化社会です。そして今私たちがめざしているSociety 5.0は、AIやロボットといった技術革新を取り入れながら、人や環境の調和をめざす社会という意味でSociety 5.0と呼びます。

二山
人間社会の段階を表している言葉だということですね。

馬島
はい、おっしゃる通りです。ChatGPT(※)に代表される新しいテクノロジーを生かすことで、健康・医療、農業・食料、環境・気候変動、安全や防災、人やジェンダーの平等など、地球環境と共存しながら今ある社会課題を解決していこう、それがSociety 5.0 for SDGsです。

もう少し具体的な例でお話ししますと、日本では都市に人口が集中して地方ではさまざまな問題が発生しています。私は、日立製作所発祥の地でもある茨城県日立市の方たちと会話させていただくことが多いのですが、地域の課題と一口に言ってもそこで起きている課題は地域の歴史や、人口や産業の構成、地形や気候などですべて条件が異なります。日立市と、二山さんが生まれ育った長野県松本市では、地域の課題は違います。

※ ChatGPT:OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボットであり、生成AIの一種。

二山
おっしゃる通りです。

馬島
私たちは、自分たちの持つ技術を組み合わせて解決策を押し付けるのではなく、その土地の歴史や地形、人口構成など根源的な状況を理解した上で日立市の方たちと課題を共有し、将来はこんな日立市になればいいと共感いただけるビジョンを一緒に描きます。

日立市でも他の地域と同様に高齢化は進んでいますが、大きな特徴は山側と海側の事情の違いです。日立市の場合、山側の急峻な土地に団地がたくさん建っていて、そこに住んでおられる高齢者の移動がウェルビーイング向上の課題であることがわかってきました。

それをデジタルの力を使い解決に導いていくのが、私たちの仕事です。Society 5.0 for SDGsというのは、こうした身近な課題を抽出し、デジタルを活用して解決していくことで持続可能な未来を作ろうというものです。

二山
ありがとうございます。少し理解できるようになりました。でもそれって、終わりがないですよね。

画像2: 社会イノベーション事業のめざすもの

馬島
おっしゃる通り、本当に終わりがないです。

二山
時代が進むにつれて世の中は変わっていきますから、それを予測しながら手を打つというのは、想像するだけでも大変なことだと思います。

馬島
例えば二山さんと同じぐらいの年代の方々と未来の買い物についてお話をした時、「今のお子さんは、すでにスマホでぽちっと押すことが買い物だと思っています」と言われたりします。

二山
えっ、そうなんですか。

馬島
はい、そういう方もおられるということです。私たちの身近なお買い物ひとつをとっても、その商品がどこの誰によってどういうふうに作られて、どうやって運ばれてきて、どれだけ環境に負荷を与えているかといった情報を知る手段があれば、消費者は欲しいということだけでなく、環境にも配慮した選択ができると思います。そんな選択ができる未来をデジタルの力を使って実現したいと考えています。

二山
僕たちはSDGsという言葉は知っていても、その中身は何ですかと聞かれると、はてっていう感じですから。

馬島
それを自分事にしてもらうために、私のチームでは若い人たちに「2050年、あなたはどんな世界に住んでいたいですか」と言うテーマで議論を繰り返し、そこから逆引きして今やるべきことをまとめてもらうということもしました。

感動や共感が生む、人とのつながり

馬島
私がバレエを続けている理由のひとつは、他の方を見て学ぶことができるという点です。先生だけではなく、まわりの皆さんの踊りを見て勉強しながら、少しでもうまくなろうとコツコツやるのが好きで、結果としてこれだけ長く続いています。二山さんのようなプロのダンサーは、普段は自分だけで練習することが多いのですか。

二山
僕は今バレエ団に所属していないので自習が多くなってしまうのですが、やっぱり自己満足で終わってしまうんです。それこそ需要と供給で、先生をやる場合でもやっぱりレッスンを受ける人がいるからしっかり見せなきゃいけないし、生徒さんも先生が見ているから真剣に学ぼうとします。一人でやることも大事ですが、人に見られている緊張感がないと僕は成長しないと思います。

馬島
そういうものなのですね。

二山
はい。やっぱり失敗すると恥ずかしいとか、そういう感覚や張り合いがあった方が向上します。

馬島
毎回のレッスンもライブだということですね。私も講演などでお客さまを前に話をさせていただく時には、事前のリハーサルやフィードバックなども参考にしながら少しでも良くしたいと思って話すのですが、毎回緊張しますし、オンラインとはまったく緊張感が違います。

二山
僕は舞台や踊りをライブ配信はしたことはないのですが、友人のライブ配信などを見せてもらうと、やっぱり伝わらないのです。オンラインはオンラインならではの特性がありますが、リアルでなければ伝わらないことはたくさんあると思います。

馬島
私もバレエファンとして、強くそう思います。

二山
馬島さんはバレエの舞台も多く見に行かれていると思いますが、そういう経験というのは仕事に生きたりするものですか。

馬島
私が舞台を見に行くのは、ダンサーの方や舞台を作ろうとされている皆さんの思いが伝わってくる、あの空間でしか味わえない感動があるからです。私たちの仕事も、多くの方と課題を共有してひとつになる必要があります。お互いの理解や共感なしに、決して一体にはなれません。協創する仲間になっていただくために、その人の立場を理解し、自分の言葉で思いを伝えないと共感や感動でつながることはできません。バレエの舞台など芸術に触れることで心を動かされる体験は、仕事に限らずあらゆることに生きてくるものだと私は思います。(第5回へつづく

撮影協力 JustCo DK Japan 株式会社

「第5回:次世代の課題」はこちら>

画像1: バレエと社会イノベーション
【第4回】Society 5.0 for SDGsとは?

二山 治雄(Haruo Niyama)
1996年長野県松本市生まれ。7歳よりバレエをはじめ、小学校5年より白鳥バレエ学園にて塚田たまゑ・みほりに師事。2014年第42回ローザンヌ国際バレエコンクール第1位、ユースアメリカグランプリ シニア男性部門金賞。ローザンヌ国際バレエコンクールのスカラシップでサンフランシスコ・バレエスクールに留学。2016年ワシントンバレエ団スタジオカンパニーに入団。2017~2020年パリ・オペラ座バレエ団契約団員として入団する。アブダビ、シンガポール、上海ツアーにも参加。2020年、コロナ禍の中帰国。以降フリーのバレエダンサーとして、さまざまな舞台で活躍中。2023年に東京新聞制定で日本の洋舞界で活躍する若手ダンサーに送られる「第29回中川鋭之助賞」を受賞。来年には初めての写真集も出版予定。

画像2: バレエと社会イノベーション
【第4回】Society 5.0 for SDGsとは?

馬島 知恵(Chie Mashima)
1989年、日立製作所入社。2018年、社会ビジネスユニット 公共システム営業統括本部 営業統括本部長。2019年、理事/日立オーストラリア社 社長。2023年4月、執行役常務 営業統括本部副統括本部長 兼 デジタルシステム&サービス担当 CMO兼 社会イノベーション事業統括本部長。

画像3: バレエと社会イノベーション
【第4回】Society 5.0 for SDGsとは?

『HARUO NIYAMA』
(フォトグラファー:井上ユミコ/編集・ライター:富永明子,株式会社EDITORS)
表現者としてのバレエダンサーの魅力を、1人1冊の洗練された写真集で伝えるプロジェクト「ASSEMBLĒS(アッセンブレ)」。その第一弾を、二山治雄氏が飾ります。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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