Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
2021年3月に5回にわたって紹介した、日立グループの社内ネットワーク活動「Team Sunrise」。コロナ禍の真っただ中にあった当時はオンラインに限定した活動を続けていたが、2022年4月、ついにリアルでの活動を再開した。その真骨頂が発揮されたイベントが、今年6月にSHIBUYA QWSにて実現した、ベストセラー『「変化を嫌う人」を動かす』の著者、デイヴィッド・ションタル氏による講演会だ。今回はTeam Sunriseの活動の実践編として、イベントの開催に深く関わった日立グループの従業員に焦点を当てる。まずは、前回も登場したTeam Sunrise代表の佐藤雅彦に話を聞いた。

English

「第1回:15年目を迎えた、日立の社内ネットワーク活動」はこちら>
「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>
「第3回:思考停止からの再起動」はこちら>
「第4回:コロナ禍で挑む『イノベーションのDX」」はこちら>
「第5回:Team Sunriseはなぜ続くのか」はこちら>
「第6回:イノベーションの原動力」

3年ぶりのリアルは「エール交換」から

2006年に発足した日立グループの社内勉強会「Team Sunrise」。イノベーションの創出をめざし、従業員が自由な発想で勉強会や講演会を開き、アイデアや知識を共有する自主活動の場だ。その人脈と活動の幅広さは、“社内ネットワーク活動”と呼んだほうが実態に合っている。コロナ禍でオンラインでの活動を余儀なくされていたが、この2年間で登録者は約2,000人から約2,500人に増え、むしろ活動の幅は広がっている。そして2022年4月、ついにリアルでの活動を再開。発足から代表を務める日立製作所の佐藤雅彦はこう語る。

「約3年ぶりに実現したリアルイベントは、大手企業の新規事業開発部門との間で開催された『エール交換会』でした。“応援からはじまるイノベーション”をコンセプトに、社会課題の解決に向けた取り組みを発表し合い、互いを応援し合おうという趣旨です。その後も、企業や地方自治体とのエール交換会を2カ月に一度のペースで開催しています」

画像: 日立製作所 佐藤雅彦

日立製作所 佐藤雅彦

イノベーションの原動力は「3つの輪」

“応援からはじまるイノベーション”は、Team Sunriseの取り組みそのものとも言える。社内外の各関係者が発揮する「3つの輪」がその原動力となり、さまざまなイベントの実現につながっている。このイベントを実現するプロセスこそが、従業員が身近で新しいことにチャレンジし、実現していくプロセスを体感するプロデューサー育成のよい機会になっていると佐藤は語る。

「まずは、自身の“志”に基づき、未来の事業=自身の仕事を思い描いてイベントを企画する“プロデューサーシップ”。それを、運営の裏方や登壇者といった形で応援する“サポーターシップ”。さらに、会場や資金といったリソースの面で支援する“スポンサーシップ”。この3つの輪が重なり合って初めて、イベントが実現するのです。特筆すべきは、普段自らイベントを企画している“プロデューサー”でも、ほかのメンバーが素晴らしい企画を提案すれば、その実現に向けて“サポーター”に回ろうとする点です。『まずは、だれかの取り組みを応援することから始めてみませんか』――これが、Team Sunriseの重要なスタンスです。志は高くとも敷居を低くすることで、だれもが参加しやすくなっているのです」

画像: イノベーションの原動力は「3つの輪」

3つの輪が重なり、1人のメンバーのアイデアが実現する――その象徴となったイベントが、今年6月23日に開催された「デイヴィッド・ションタル教授講演会」だ。初めにプロデューサーシップを発揮したのは、日立製作所 イノベーション成長戦略本部の船木謙一だ。

「イノベーション創出の盲点」という“プロデューサー”視点

画像: 今年6月23日にSHIBUYA QWSで開催された「デイヴィッド・ションタル教授講演会」

今年6月23日にSHIBUYA QWSで開催された「デイヴィッド・ションタル教授講演会」

今年4月、船木が佐藤のもとにある企画を持ち込んだ。――今年2月、『「変化を嫌う人」を動かす』(原題:『The Human Element』)というビジネス書が出版された。イノベーション創出に取り組むすべてのビジネスパーソンが読むべき名著で、実は自分が日本語版を監訳した。ちょうど今年の6月に、著者のデイヴィッド・ションタル氏(※)が来日する。ぜひ講演イベントを開催し、より多くの日本人に氏の考えを伝えたい――。

※ David Schonthal:ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授。イノベーション&アントレプレナーシップを専門とし、デザインやイノベーション・コンサルティング、ベンチャー・キャピタルの分野でも活動。2021年に同僚のロレン・ノードグレン氏との共著で『The Human Element』を上梓した。

画像: デイヴィッド・ションタル氏

デイヴィッド・ションタル氏

世に出ているイノベーション関連書籍の多くが「いかに優れたアイデアを生み出すか」に着目しているのに対し、ションタル氏の問題提起は「新しいアイデアを受け入れようとしない人々を変えるにはどうすればよいか」。同書では、ステークホルダーからの「抵抗」を「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の4要素に分解し、それぞれをいかに抑えるべきか、企業における具体的な事例を交えながら解説している。

画像1: 「イノベーション創出の盲点」という“プロデューサー”視点

自身も本を読み感銘を受けた佐藤は、すぐにイベント化へ向け動き出した。

「当初は社内イベントとして計画する案もありましたが、ションタル先生の来日まであと2カ月。社内の承認プロセスを考えると到底間に合いません。ならばと、Team Sunriseが関わっている任意団体SIGN(Social Innovators Global Network)主催のイベントとして計画し、6月の開催に漕ぎつけました。Team Sunriseならではのスピード感でした」

画像2: 「イノベーション創出の盲点」という“プロデューサー”視点

イベントを支えた“サポーター”と“スポンサー”

船木の企画を具現化すべく、3人のTeam Sunriseメンバーがサポーターシップを発揮した。佐藤がイベントの運営と司会を、グループ会社の日立マネジメントパートナーに勤める郷家達也が通訳を、日立製作所 社会システム事業部の草間隆人がプレゼンターを担当。いずれも、普段から自主的に勉強会を企画・運営する“プロデューサー”だ。

さらに社外からも、佐藤の呼びかけに応じて2人の“サポーター”が駆け付けた。1人は、SIGNのメンターとして佐藤たちを日頃から支援している東急株式会社常務執行役員の東浦亮典氏。もう1人は、数々の企業の取締役を経験し、近年は「人的資本」を専門にコメンテーターとしても活躍する、日清食品ホールディングス株式会社取締役の中川有紀子氏だ。ションタル氏の本を読んで感銘を受けた2人は、有識者としてイベントに登壇し、同書の考察を披露した。

画像: イベントに登壇した東急の東浦亮典氏(左)と日清食品ホールディングスの中川有紀子氏

イベントに登壇した東急の東浦亮典氏(左)と日清食品ホールディングスの中川有紀子氏

一方で“スポンサー”役を担ったのが、『「変化を嫌う人」を動かす』を出版した草思社だ。イベントの運営資金を支援する形で協力した。また、会場を提供したSHIBUYA QWSやIDEOも周知活動などでスポンサーシップを発揮した。

ションタル氏を渋谷に迎えて

6月23日、SHIBUYA QWSにて実現した「デイヴィッド・ションタル教授講演会」。60名近くの聴講者が出席し、同時配信されたオンラインでは外国人を含む約200名が視聴した。船木の企画提案から実現に至った2カ月間を、佐藤はこう振り返る。

「船木さんのプロデューサーシップが起点となり、彼のアイデアを応援しようと、社内外の皆さんがサポーターシップとスポンサーシップを発揮してくれた――これに尽きます。普段はプロデューサーとして活躍しているメンバーが船木さんを応援している姿を目にして、自らも行動を起こそうとするメンバーがどんどん出てくることを願っています」

画像: ションタル氏を渋谷に迎えて

「デイヴィッド・ションタル教授講演会」実現の陰で、“プロデューサー”や“サポーター”たちのどんな活躍があったのか。次回は、イベントの仕掛け人としてプロデューサーシップを発揮した、Team Sunriseの船木に話を聞く。

「第7回:米国ベストセラー『The Human Element』を、日本に。」はこちら>

画像: イノベーションを育てる社内ネットワーク「Team Sunrise」
【第6回】イノベーションの原動力

佐藤雅彦(さとう まさひこ)

株式会社日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 イノベーションプロジェクト統括センタ オープンイノベーション推進室 チーフストラテジスト
NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部、研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員などを経て、2023年より現職。研究開発戦略の立案やオープンイノベーションの推進を担っている。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」(旧称:グローバル若手会)代表。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.