どうすれば組織をイノベーション体質に変えられるのか。多くの企業がこの命題に悩み、試行錯誤を繰り返しているはずだ。アプローチの1つに、社員が主体的に取り組む社内コミュニティや勉強会といった活動がある。しかし実際には、いっときは盛り上がったものの、いつしか下火になってしまうケースが多いのではないだろうか。本シリーズでは、日立グループで15年にわたり社内勉強会の活動を続け、実ビジネスへの貢献も果たしている社内ネットワーク「Team Sunrise」を取り上げる。幾度かの危機を乗り越えながら粘り強く継続してきた活動を支えるロジック、運営の工夫などを、関係者の声を交えながら5回にわたってご紹介する。

新事業をつくる社内勉強会

ある年のこと。日本のビジネスパーソン数名が外国政府を訪れ、通信事業の共同提案を行った。面々はいずれも日立グループの従業員だが、もともと業務上のつながりはなく、所属する会社も役職も世代もバラバラ。彼らは、プライベートの時間を使って活動する日立の社内ネットワーク活動「Team Sunrise」で出会った仲間だった――。このように、異なる組織の従業員同士がチームを組み、顧客への共同提案に臨むという光景が、日立では日常的に見られている。

2006年から活動が続くTeam Sunriseには、現在およそ2,000人が参加。「日立に新事業をつくる」を目的に、組織や役職、世代の違いを超えて従業員がつながり、イノベーションを起こそうと切磋琢磨している。平日の夜に各界のビジネスリーダーを講師に招いて勉強会を開いたり、ハッカソン(※1)やアイデアソン(※2)を開催したり、社内のビジネスプランコンテスト「Make a Difference!」に多くのメンバーが応募したりと、活動は多岐にわたる。特筆すべきは、机上の空論にとどまらず、冒頭のような顧客への共同提案をはじめ、グループ会社の経営幹部にビジネスアイデアをプレゼンし、しかもそれが事業化に向け検討に移されるなど、実際のビジネスに貢献している点だ。

画像: Team Sunriseの勉強会の様子。

Team Sunriseの勉強会の様子。

著名な人物の著書を読んで感銘を受けたメンバーが「ぜひこの感動を日立の仲間と共有したい」と事務局に相談すれば、講演依頼から会場の確保、メンバーへの周知、イベントの企画・運営、講演から得た学びの共有、次なるイベントの企画まで、すべて自主的に実行してしまうのがこのTeam Sunriseだ。これまで開催してきた勉強会には、人工知能や宇宙工学の研究者、ビジネスコミュニケーション術のエキスパート、映画監督やアニメーション監督、さまざまな業界の経営者やスタートアップ、NPOの代表など、実に多様な人々が講師として登壇している。

※1 Hackathon:ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。主にIT技術者でチームを組み、与えられたテーマに対して短期間に集中してソフトウェアを開発し、成果を競うイベント。
※2 Ideathon:アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。多様な分野のメンバーでチームを組み、与えられたテーマに対してアイデア創出やビジネスモデルの構築を短期間で行うイベント。

日立に不足していた「個人的なネットワーク」

「大企業はたくさんの従業員がいるから、いろいろな部署の人同士が熱く語り合いながら仕事に取り組んでいる。そんな光景を想像して日立に入社したのですが、いざ働いてみると、所属する部署の予算や利益といった枠に縛られ、閉じた世界でのコミュニケーションに終始してしまい、目の前の業務にしか目が行かない自分がいました」

そう入社当時を振り返るのは、Team Sunriseの代表で、現在は日立製作所の研究開発グループに所属する佐藤雅彦だ。

画像: Team Sunrise代表の佐藤雅彦。

Team Sunrise代表の佐藤雅彦。

佐藤はもともとSEとして2001年に、中途採用で日立に入社。その後、新会社設立やM&A、スタートアップとのアライアンスといったプロジェクトに携わる中で、新たな意識が芽生えていった。

「他社の価値観や文化に触れ、新事業を生み出せるプロセスやしくみに関心を持つようになりました。同時に、アライアンス先から日立と組むことの意義を問われることを経験し、日立自身が事業を拡大させられる自己成長のケイパビリティを持つことの必要性を強く感じていました。そのためにも、組織を超えたコミュニケーションが欠かせない。そんな思いが強まりました」

どうすれば組織を超えて従業員同士をつなげることができるのか。彼の目に留まったのは、身近で活躍する仕事仲間の姿だった。

「ある同僚は、同期入社のネットワークをうまく活用していました。業務でわからないことがあると、『ちょっとほかの部署の同期に聞いてみます』と言って軽々と組織の枠を超え、難局を乗り切ってしまうのです。また、パートナー企業で活躍する海外出身の方が、社外の個人的な人脈を活用して課題を解決する姿を何度も見てきました。それで気がついたのです。わたしは中途入社なので同期がいませんし、社外のビジネスパーソンとのつながりもない。でも、日立の中で彼らが持つような個人的なネットワークのしくみをつくることができたら、部署や役職や世代の枠を超えて、何か新しいものを生み出せる組織に変われるのではないかと」

佐藤は同じ課題意識を抱く同僚たちと語らい、2006年、Team Sunriseの前身となる社内勉強会の立ち上げに参画した。「日立をGEやシーメンスなどのようなグローバルトップ企業にしたい」「気持ちの若い人ならだれでも仲間」との思いから、「グローバル若手会」と命名。現在のTeam Sunriseの前身だ。業務外の時間を使って開いた勉強会に参加したのは、当初わずか10名ほどの有志だった。

グローバル若手会の発足にあたって佐藤は、組織経営に関するさまざまな文献を読み漁り、一つひとつのロジックを日立の状況に当てはめていった。なぜ日立のような大きな組織が、部署ごとの小さな世界の価値観を重視してしまうのか? このような状況が起こる要因は何なのか? 見えてきたのは、知らず知らずのうちに組織にのしかかっていた、2つの「重力」の存在だ。

画像: イノベーションを育てる社内ネットワーク「Team Sunrise」
【第1回】15年目を迎えた、日立の社内ネットワーク活動

佐藤 雅彦(さとう・まさひこ)

NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部などを経て、2018年より日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」(旧称:グローバル若手会)の代表を務める。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程に在学中。

「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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