最終回。日立の社内勉強会「Team Sunrise」の活動が始まり、今年で15年。社員による自主的な活動でありながらこれほど長く続く秘訣とは何なのか、公私ともにイノベーション研究に邁進する代表の佐藤雅彦に聞いた。さらに、Team Sunriseの関係者が語るCASE STUDYにグループ会社の経営者が登場。日立が掲げる「協創」やグローバル人財育成の観点でTeam Sunriseが果たしてきた役割を、経営視点から語ってもらった。

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「挑戦」と「応援」の自主性

2021年で、Team Sunriseは発足15年目を迎える。浮き沈みはありながらも、なぜこれほど長く活動を続けることができたのか。その一因として、代表の佐藤雅彦は「自主性」をキーワードに挙げる。

「Team Sunriseの場合、自主性にも2種類あります。自身がアイデアを生み出して『挑戦する』自主性と、素晴らしいアイデアや才能を持っているだれかを『応援する』自主性です。挑戦と応援がともに自主的に行われることで、我々事務局にたくさんの相談が寄せられるようになり、Team Sunriseという社内ネットワークがうまく機能し続けています」

自主性という意味でもう1つ見られる特徴は、日立グループ内での活動にとどまらず、社外にもネットワークをつくるメンバーの存在だ。例えば、Team Sunriseのスピンアウト活動として、社外のイノベーターとともに街づくりをはじめとするさまざまなテーマを考える「SIGN(Social Innovators Global Network)」を立ち上げたメンバーがいる。自発的に外の世界に飛び出し、学識経験者や大企業、ベンチャー企業のビジネスパーソン、学生などとつながることで新たな刺激をもらい、さらにその知見をTeam Sunriseにフィードバックしている。

画像: 2020年2月に渋谷で開催されたSIGNのイベント「イノベーターズBUNKASAI」の様子。

2020年2月に渋谷で開催されたSIGNのイベント「イノベーターズBUNKASAI」の様子。

さらに佐藤は、Team Sunriseの活動継続の要因に「他人事→私事→仕事」というプロセスの存在を指摘する。

画像: Team Sunriseの活動をもとに佐藤が考案する、「他人事」から「仕事」化へのフロー。

Team Sunriseの活動をもとに佐藤が考案する、「他人事」から「仕事」化へのフロー。

「どんなに著名な方の講演を聞いても、聞き手にとっては、初めは他人事に過ぎません。でも憧れを持ち続けることで、その方が取り組んでいる活動をいつか私事として捉えるようになる。Team Sunriseでのイノベーションプロボノや個人のネットワークを通じてその『憧れ』を突き詰め、新しいアイデアを考えつくようになる。すると、『それ、ビジネスプランコンテストに応募してみたら?』『うちの部署と共同で顧客に提案してみない?』と応援してくれる人が現れ、やがて仕事になっていく。そんなケースが実際に生まれています」

部下をして有言実行たらしめる

第3回で触れたコミュニティ活動の思考停止に悩んだ頃、佐藤らは日立の企業文化をあらためて学び直す勉強会を開いた。その際に教材とした文献に書かれた一文に、当時佐藤は深く感銘を受けたと振り返る。

「“部下をして有言実行たらしめる”。要するに、部下が思わず有言実行してしまうような人間になりなさいというメッセージです。日立を創業した小平浪平が、そういう人物だったそうです。

他者を動機付ける手段の1つに、インセンティブがあります。当時注目されていた成果主義は、まさに給料を上げるというインセンティブによる動機づけを目的としたわけですが、逆にインセンティブがなければ行動しなくなるという面もあります。大事なことは、他者をどのよう動機づけるかではなく、どのようにすれば、他者が自らを動機づける条件を生み出せるか。これはモチベーション理論の大家であるエドワード・L. デシという心理学者の言葉です。

『部下をして有言実行たらしめる』という姿勢は、まさにそれと合致しています。そして、Team Sunriseの活動にも通じるものがある。挑戦と応援の自主性をサポートする文化が、実は日立では100年も前から大事にされてきた。そう考えると、Team Sunriseの活動は日立の価値観にぴったりはまります。だからこそ長く続いているのかもしれません」

画像: Team Sunrise代表の佐藤雅彦。

Team Sunrise代表の佐藤雅彦。

ゆるいネットワークを活用して「原石」を見つけ出す

企業がイノベーションを起こすうえで、Team Sunriseのような社内ネットワークはますます不可欠になると佐藤は説く。

「経営学の分野でも『ゆるいネットワークの活用』が注目されていますが、個人のコミュニティやネットワーク活動との関わり方にはIN/OUT型とON/OFF型の2つがあると思います。IN/OUT型は、先にも触れた、利害でつながる関係に近い。活動に深く関わる分、成果を生み出す力もつくのですが、コミュニティにおいて担うべき義務も生じます。もう片方のON/OFF型は、SNSで言うところのフォロワーに近い。つながりを保ちつつ、ONとして積極的に活動するときと、忙しいので少し距離を置いて活動をOFFにするときを、個人で選べるような関わり方です。

わたしはうまく行かないコミュニティやネットワーク活動もたくさん経験しましたが、活動に成果を求めすぎると義務のウェイトが重くなり、いつしか活動すること自体が目的となり、形骸化してしまうように思います。そうではなく、成果はあくまでも本業で生み出す。そして、共感をベースにしたON/OFF的な関わり方のネットワークと本業との間のハシゴを昇り降りするように、Team Sunriseのようなつながりと自分の所属部署とを上手に使い分けることが、企業におけるイノベーションのタネを探し育むことに役立つしくみとなって行くのではないでしょうか」

画像: アダム・スミス著『国富論』『道徳感情論』を参考に作成(再掲)。

アダム・スミス著『国富論』『道徳感情論』を参考に作成(再掲)。

もともとはSEとして日立に入社した佐藤だが、幾度かの異動を経て、2018年からは研究開発グループに所属。同時に東京工業大学大学院の博士課程でイノベーション科学を専攻している。15年にわたりTeam Sunriseが歩んできたプロセスを整理しながら、業務としても学業としても、企業がイノベーションを起こせるしくみを日夜研究している。

「Team Sunriseが取り組んでいるイノベーション活動を、まずは日立に、よいしくみとして定着させたい。そして、よき事例と呼ばれるように発展させて、世の中にモデルとして活用していただきたい。そうなれば、日本に限らず世界中で新しい事業が生まれ、人々がより幸せになる。そう信じています」

CASE STUDY

画像: ゆるいネットワークを活用して「原石」を見つけ出す

迫田雷蔵(日立アカデミー 取締役社長)

Team Sunriseに関わるようになったのは2017年頃です。部下がTeam Sunriseに参加している縁で代表の佐藤さんたちとお話しする機会があり、その活動に深く共感したのがきっかけです。社員研修事業を展開している当社は「人がつながり、学びが触発されるワールドクラスの知の拠点となる」をビジョンに掲げています。1つの組織に閉じず、外部の人たちとつながっていくという点で、Team Sunriseのめざす方向性に非常に近いと感じています。

日立グループはさまざまなステークホルダーとの「協創」による社会イノベーションを掲げていますが、もともとは自前主義の考え方が強い技術者集団ですから、必ずしも協創は得意とは言えません。だからこそ、Team Sunriseのように組織の壁を越えて人々がつながる、草の根的なネットワークが不可欠なのです。

日立グループのアイデアや知見がTeam Sunriseに集まり、そして世界へと広がっていく。ハブ空港のような存在として、Team Sunriseが機能していくのではないでしょうか。同時に、従業員一人ひとりのモチベーションに火をつける活動でもあると思うのです。日立グループ全体がジョブ型雇用にシフトする中で、自分のこれからのキャリアを自分の頭で考え、いろいろなことに一人称で自発的に取り組むことが求められる。それを可能にするのが、Team Sunriseという一種のインフラではないかと。

今、日立はグローバルで通用するリーダーの育成に取り組んでいます。そのコンセプトは「Purpose Driven Leadership」。ここで言う「Purpose」とは、「志」です。自分がやりたいこと、会社がやるべきこと、社会が求めること、この3つが重なる部分にこそ志の源泉がある。志を持つ人でないと、本物のリーダーにはなりえません。また、いろいろな経験を積み、かつ、経験からアジャイルに学ぶことができ、自分をつくり変えていくことをためらわないことも、リーダーに求められる資質です。Team Sunriseの活動の中から、そういう方がどんどん生まれてくることを期待しています。

画像: イノベーションを育てる社内ネットワーク「Team Sunrise」
【第5回】Team Sunriseはなぜ続くのか

佐藤 雅彦(さとう・まさひこ)

NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部などを経て、2018年より日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」(旧称:グローバル若手会)の代表を務める。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程に在学中。

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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