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日立北大ラボと岩見沢市は、2016年の開設当初から、タッグを組んで、ヘルスケアやエネルギー需給の問題に果敢に取り組んできた。これら成果は、人口減少や少子高齢化、居住地の分散など、同様の悩みを抱えるさまざまな地域へ展開可能だ。今後はさらに、人口減少が加速するなかで、地域内のアセットをうまく活用し、シェアリングや助け合いなどを通じて、地域の持続可能性を探っていくという。

「第1回:課題解決に数学を活かす」はこちら>
「第2回:少子化問題から母子の健康、家族の健康へ」はこちら>
「第3回:地産地消のエネルギーシステム『自立型ナノグリッド』」はこちら>
「第4回:人口縮小都市のモデルとして」はこちら>
「第5回:岩見沢市での成果を他地域へ」

日立北大ラボの成果の横展開を模索

――日立北大ラボでは、主に岩見沢市を舞台に課題解決に取り組まれてきたわけですが、今後は他地域での横展開も視野に入れているのでしょうか?

竹本
はい、特にヘルスケアの取り組みについては、道内の他の自治体に働きかけて議論を始めています。既存の健康データのデジタル化をはじめ、低出生体重児のリスクのスクリーニングや、北大COI-NEXTに参画し、対象を母子から若者に広げ、子どもを産む以前の若者のライフプランの支援など、さまざまな展開を探っているところです。

ナノグリッドに関しても、自動車メーカーや農機メーカーなどとともに、バッテリーマネジメントについて議論を重ねています。例えばバッテリーに価値を付加できれば、災害対策をはじめ、車両に走ること以外の多様な機能を持たせることができます。農機も同様で、電動化するとどうしてもコスト高になってしまうため、再エネの発電状況や適切な作業タイミングなどを考慮した上で、複数のバッテリーの効率的なシェアリング計画を提供する数理技術を開発しており、今後、パートナーとともに投資回収できるしくみを具体化できたらと考えています。

岩見沢市の方に聞いたところによると、道内の温泉地域の自治体がわれわれの取り組みに興味を持ってくださっているようです。温泉地は自然が豊かな分、インフラの維持管理に困っているところも多いはずです。温泉ガスの成分にもよりますが、各地で展開が可能だと思います。

いずれにせよ、北海道には179もの市町村があり、岩見沢市規模(7〜8万人)で、人口減少が加速している都市も多くあります。それぞれ特色も違い、多様性はありますが、それくらいの規模であれば、何かを決める際の合意形成もしやすく、また、より小規模な自治体と比べて特有の課題解決に特化することなく、健康、産業、エネルギーといった、汎用性の高い総合的なトライアルに取り組むことができます。そういう意味でも、岩見沢市での取り組みは他自治体への横展開に向いていると思っています。

画像: 日立北大ラボの成果の横展開を模索

――道外はいかがでしょうか?

竹本
はい、もちろん展開できます。ナノグリッドの場合、通年の利用を考えると、むしろ暖かい地域のほうが向いているのではないでしょうか。雪の降る地域の場合、冬場は太陽光による発電量が減少するうえ、農作業のない時期のバッテリーの使途が課題です。暖かい地域で豊かな自然を生かして観光地化をめざしているような地域こそ、ナノグリッドの良さが生きてくる。機会があればぜひトライアルしてみたいですね。

さらには、アフリカやアジアなど、インフラ未整備の場所で農業を始めようという場合にも、まさにぴったりだと思います。

データを活用してシェアリングや助け合いを促す

――今後は別のテーマにも取り組まれるのでしょうか?

竹本
まだ、構想の段階ですが、人口が減少していくなかでのまちづくりを考えた際に、最終的にはその担い手はわれわれではなく地域の住民なので、住民の自立性を高めるための支援やコミュニティ形成のお手伝いができたらと思っています。人口が少なくなってくると増加・成長型から循環型の地域社会の構築が必要となり、例えば、農業にしろ介護にしろ子育てにしろ、シェアリングサービスや、助け合いを促すサービスが重要になってきます。そうしたなかでデータ基盤や数理技術もうまく使いながら、地域循環の促進や、コミュニティ内の住民同士の関係性を多様性のあるつながりに強化して、コミュニティ活動の活性化を支援できないかな、と。非常に難しいテーマですが、データ分析で得られた知見を実際のコミュニティや住民に返していく、そうしたヒューマンウエア(人間活動をより豊かにするためのシステム)をつくっていけないかと考えています。

すでに岩見沢市では、健康データ統合プラットフォームにソーシャルキャピタル(社会関係資本)分析を入れて解析を進めていますが、市街地から離れているからといって必ずしもソーシャルキャピタルが低いとは限らないんですね。農村地帯の方がむしろ助け合いの意識が進んでいるところもあります。このように、データをうまく活用しながら地域ごとの特色を可視化しつつ、個人と地域と両方に資する施策に役立てていけるといいですね。

また、地域内での循環だけでなく、デジタル技術を活用して遠く離れた地域ともつながりをつくっていけるようなしくみを考えていきたいと思います。

画像: データを活用してシェアリングや助け合いを促す

大学との協創の利点を活かして

――最後に、大学との協創という、日立北大ラボならではの特長についてお聞かせください。

竹本
構想から実践まで、小さな規模で、柔軟に取り組めるところでしょうか。もちろんビジネスのことは頭にありますが、自治体やパートナー企業側から見ると、われわれの存在は親しみやすいのだと思います。日立製作所の看板だと、大きいビジネスじゃないと一緒にできないでしょう?と敬遠されがちですが、われわれにはいい意味で親近感を持ってくださっているようです。

特に日立北大ラボの場合は地域密着でリアルな課題に向き合ってきたこともあるのでしょう。日立東大ラボはエネルギー政策やスマートシティなど、国の政策に関わる取り組みをしていますし、日立京大ラボは、哲学など人文系の先生方と、まだ誰も気づいていないような新しい課題を掘り起こすというユニークな取り組みをしています。それぞれ特色があるので、今後は互いに成果を持ち寄り、連携しながら社会課題の解決に取り組んでいけたらと思っています。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

画像: 日立北大ラボ編・地域密着で課題解決に挑む
【第5回】岩見沢市での成果を他地域へ

竹本享史(たけもと・たかし)
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 日立北大ラボ ラボ長代行、北海道大学客員教授。

2006年、日立製作所入社。情報処理装置向け高速有線通信技術の研究開発などを経て、現在、社会課題解決に向けた健康データ統合プラットフォームや地域エネルギーシステムの研究開発に従事。科学博士。

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