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株式会社博報堂 根本かおり氏 / 経済産業省 梶川文博氏 / 日立製作所 鈴木朋子
気候変動問題の解決に向け、2050年までに脱炭素へのトランジション実現をめざした取り組みが主要各国で加速している。日本では2022年に経済産業省が「GXリーグ」を発足させ、多くの賛同企業とともに、日本が起こすべきGXのあり方についての議論をスタートさせた。日立製作所の研究開発グループが2023年6月16日に開催した協創の森ウェビナー「脱炭素へ導く環境関連ファイナンス」では、GXリーグのメンバーである経済産業省の梶川文博氏、株式会社博報堂の根本かおり氏を迎え、日立 研究開発グループの鈴木朋子を交えた鼎談を行った。その模様を3回にわたってお送りする。

「その1:GXリーグ発足からの1年」
「その2:2050年、GXの事業機会」はこちら>
「その3:GX投資を加速させる環境価値取引」はこちら>

生活者視点で描く未来社会

池ヶ谷
ナビゲーターの日立製作所 池ヶ谷和宏です。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、GX(グリーントランスフォーメーション※)の必要性が叫ばれています。そこで経済産業省は2022年、GXに積極的に取り組む企業群が一体となり、経済社会システム全体の変革に向けた議論と市場創造のための実践を行う場として「GXリーグ」を設立しました。今回はGXリーグを運営されている経済産業省の梶川文博さん、昨年度GXリーグに参画された株式会社博報堂の根本かおりさん、そして日立製作所 研究開発グループ技師長の鈴木朋子による鼎談をお送りします。

※ 化石燃料に頼らず、環境負荷の低いエネルギーの活用を進めることでCO2排出量を削減するとともに、そうした活動を経済成長の機会にするために経済社会システム全体を変革していこうという取り組み。

近年、YouTuberをはじめSNS上に多くの個人クリエイターが出現しています。このムーブメントは今後ますます加速し、将来的には政府主導でも企業主導でもなく、生活者個人が社会を引っ張る時代になるのではないでしょうか。2050年の脱炭素実現をめざす上で、まずは生活者の「ありたい未来」を想像することで、経済社会の成長の機会を探っていきたい。また、脱炭素を将来のビジネスチャンスと捉えていただきたい。そんな思いから、GXリーグで描かれた生活者視点の未来像と、環境関連ファイナンスの可能性について議論していきます。皆さん、よろしくお願いします。

画像: 左からナビゲーターの日立 池ヶ谷和宏、博報堂の根本かおり氏、経済産業省の梶川文博氏、日立 鈴木朋子

左からナビゲーターの日立 池ヶ谷和宏、博報堂の根本かおり氏、経済産業省の梶川文博氏、日立 鈴木朋子

梶川
経済産業省環境経済室長(ウェビナー開催当時)の梶川文博です。昨年提唱しましたGXリーグという枠組みを推進しています。そのほか、地球温暖化対策計画をはじめ、ESGファイナンスやカーボンプライシング(※)などの政策立案を担当してきました。

※炭素に価格を付け、CO2排出者の行動を変容させる政策手法。

根本
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の根本かおりです。「生活者発想での未来洞察」を専門領域としています。GXリーグでは昨年度、事務局をさせていただき、その中で、カーボンニュートラルが実現した2050年の社会の「未来像策定」の取り組みを賛同企業の皆さんと行いました。

鈴木
日立製作所 研究開発グループの鈴木朋子です。入社以来、環境関連システムの開発を担当してきました。2020年から、環境分野におけるイノベーション戦略の策定を取りまとめています。

「GXリーグ」とは

池ヶ谷
まずはGXリーグの基本構想と概要について教えていただけますか。

梶川
カーボンニュートラルの実現に向けて、国際ビジネスで勝てるような企業群に、大胆な挑戦をしていただく――そのための場がGXリーグです。

画像: 経済産業省 梶川文博氏

経済産業省 梶川文博氏

GXリーグの基本構想では、めざすべき姿として次の3つを柱に据えています。1つ目は、「企業が世界に貢献するためのリーダーシップのあり方を示す」。2つ目は、「GXとイノベーションを両立し、いち早く移行の挑戦・実践をした者が、生活者に選ばれ、適切に『儲ける』構造をつくる」。環境対策そのものがコストになってしまうと、なかなか投資が進みません。GXの取り組みと利益の創出を両立させることで、環境と経済の好循環をめざしてきましょう、という意図です。3つ目は「企業のGX投資が、金融市場、労働市場、市民社会から応援される仕組みをつくる」。企業努力だけでGXを進めるには限界があります。金融機関をはじめとするステークホルダーが企業の取り組みを後押しする仕組みが欠かせません。

鈴木
今のお話で一番印象的だったことは、日本がGXでリーダーシップをとることをめざしている点です。実は日立も環境領域で、グローバルのリーダーシップをとることをめざしています。具体的には鉄道などのインフラや、EVのモーターなどのプロダクトの提供を通じて世界をリードしようとしているのですが、ほかにも何かできることはないか――そのヒントを探るべく、GXリーグの取り組みに注目しています。

画像: 日立 鈴木朋子

日立 鈴木朋子

池ヶ谷
GXにおいて日系企業がとるべき「リーダーシップのあり方」について、梶川さんはどんな考えをお持ちですか。

梶川
気候変動の分野において、日系企業が持っている低炭素技術や脱炭素技術は世界的に見ても大きな強みと言えます。一方で、RE100(※1)にしてもCDP(※2)にしても、ルールメイキングのイニシアチブはヨーロッパの国々がとってきました。日系企業が持つ高度な技術を、例えば削減貢献量(※3)という形で世界に発信し、かつ、ルール化して国際的に広げていくことができれば、日本がリーダーシップを発揮できる可能性は充分にあるはずです。

※1 「Renewable Energy 100%」の略称。事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ。イギリスの国際環境NGOが2014年に創設した。
※2 Carbon Disclosure Project。イギリスの慈善団体が管理するNGOであり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営している。2000年発足。
※3 従来使用されていた製品・サービスを自社製品・サービスで代替することによる、サプライチェーン上の「削減量」を定量化する考え方。

バックキャストで気候変動問題に取り組む

池ヶ谷
GXリーグの活動がスタートして1年が経過しました。現時点での手応えはいかがですか。

梶川
日本のCO2排出量の4割以上に当たる多くの企業にご賛同いただき、先ほどお話に挙がった「日本がとるべきリーダーシップのあり方」に関してさまざまなご提案をいただきました。2022年度のGXリーグでは、主に3つの取り組みの場を設けました。まず、2050年カーボンニュートラルが実現した未来の経済社会システムをビジネス機会として描き、官民のルールメイキングや賛同企業の中長期の経営戦略などへの活用をめざした対話の場「GX FUTURE MAP(未来像策定ワーキンググループ)」。次に、将来のビジネス機会を踏まえ、新市場創造に向けて官と民でルール形成を行う「GX WORKING GROUP」。そして、GXリーグにおける自主的な排出量取引の設計を検討する「GX-ETS」です。それぞれのワーキンググループで、社会に対して異なるアウトプットの創出をめざしています。

画像: バックキャストで気候変動問題に取り組む

池ヶ谷
根本さんは昨年度、未来像策定ワーキンググループを担当されていました。活動を振り返ってみていかがですか。

根本
当初は小規模で活動する想定だったのですが、100社を超える企業が手を挙げてくださり、どうやって進行していこうか戸惑うという嬉しい悲鳴が出るほどでした。ありがたいことに、そのうち40社近くの方から「事務局の進行をサポートしたい」という声をいただきました。実際にワーキンググループが始まると、与えられた情報を受け取るだけでなく、自ら新しい切り口で問題を捉え直すことに積極的な方が多く、まさにリーダーシップの新しいあり方を垣間見ました。

画像: 博報堂 根本かおり氏

博報堂 根本かおり氏

池ヶ谷
未来像策定ワーキングの取り組みは、一種のバックキャストの手法という印象を受けました。

梶川
そうですね。わたし自身が普段携わっている政策策定の業務の多くは、目の前にある社会課題に対し、制度的な措置を講じながら解いていくフォアキャストの手法をとっています。一方で気候変動の問題に対しては、2050年のカーボンニュートラル実現という30年近く未来の課題を見据えて政策の策定に取り組めるわけですから、自ずとバックキャストの手法をとることになります。

2050年にどんなビジネス機会が生まれているかを、企業の皆さんとともに考える――これまでの政策策定ではあまりやってこなかったアプローチだからこそ、取り組む意義は大きいと感じています。(第2回へつづく)

「その2:2050年、GXの事業機会」はこちら>

画像1: GXリーグが描く将来像と、環境関連ファイナンス
【その1】GXリーグ発足からの1年

梶川文博(かじかわ ふみひろ)
経済産業省 産業技術環境局 環境経済室長(ウェビナー開催当時)
2002年、経済産業省に入省。中小企業金融、IT政策、デザイン政策、経済成長戦略の策定、産業競争力強化のための人材育成・雇用政策、省内の人事企画・組織開発、ヘルスケア産業育成、マクロ経済の調査分析などに携わる。一般社団法人Future Center Alliance Japanの理事を兼務。

画像2: GXリーグが描く将来像と、環境関連ファイナンス
【その1】GXリーグ発足からの1年

根本かおり(ねもと かおり)
株式会社 博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラニングディレクター
広告づくりの現場で自動車、化粧品、家庭用品など、多岐に渡る業界の広告マーケティングやブランディングにたずさわる。その経験を活かし、活動フィールドを生活者発想・未来発想に軸足を置いた事業・商品・人材開発、プラットフォームづくりなどにうつして活動中。東京工業大学「未来社会DESIGN機構」委員、日本科学技術振興機構「サイエンスアゴラ」委員、環境省「2050年を見据えた地域循環共生圏検討業務」委員。

画像3: GXリーグが描く将来像と、環境関連ファイナンス
【その1】GXリーグ発足からの1年

鈴木朋子(すずき ともこ)
日立製作所 研究開発グループ 技師長
1992年、日立製作所に入社。以来、水素製造システム、廃棄物発電システム、バラスト水浄化システムなど、一貫して脱炭素・高度循環・自然共生社会の実現に向けたシステム開発に従事。2018 年、顧客課題を起点とした協創型事業開発において事業拡大シナリオを描くビジネスエンジニアリング領域を立ち上げ、現在は社会課題を起点とした研究開発戦略の策定と事業化を推進する環境プロジェクトをリードしている。

画像4: GXリーグが描く将来像と、環境関連ファイナンス
【その1】GXリーグ発足からの1年

池ヶ谷和宏(いけがや かずひろ)
日立製作所 研究開発グループ サステナビリティ研究統括本部 主任デザイナー
日立製作所入社後、エネルギー、ヘルスケア、インダストリーなど多岐にわたる分野においてUI/UXデザイン・顧客協創・未来洞察に従事。日立ヨーロッパ出向後は、主に環境問題を中心としたサステナビリティに関わるビジョンや新たなデジタルサービスの研究を推進している。

Linking Society

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