Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

多様性という言葉をよく耳にするようになりました。
さまざまな背景や特性を持つ人々が互いに認め合う社会をめざし、特にビジネスの世界では、これまで相対的に少数派となってきた女性の活躍を推進しようという意識が高まっています。

ただ、女性が働きやすい環境を整えているはずなのに、結果につながらないと悩む企業もあるようです。どうすれば女性が力を発揮できる組織をつくれるのかわからず、「日本は昔から男社会なんだから仕方ない」などと言ってはいないでしょうか。

仏教が日本に伝来した飛鳥時代には、日本史上最初の女性天皇である推古天皇をはじめ、皇極(斉明)天皇、持統天皇と、女性の天皇が活躍しました。大陸から律令制を取り入れ、国家としてのかたちが整いつつある中、行政の実務を担う役人の中にも女性が多くいたそうです。
当時、日本で初めて出家したのも善信尼という女性でした。伝来した当初は迫害された仏教が、日本社会に広く受け入れられていった背景には、その教えのすばらしさだけでなく女性の力がありました。
日本という国の礎を築く上で女性の活躍は欠かせなかったのです。昔から男性だけで社会を回してきたわけではありません。

翻って現代を見ると、飛鳥時代とは事情が違うとはいえ、リーダー層で活躍する女性は少数派です。家事や育児、介護などの家庭の仕事を主に担っているのが女性であるため、外で働く時間が制限されることがその主因だと言われています。
女性が家庭の仕事を担うのは、さまざまな理由によるのでしょう。しかし根底には、「家事は女性の仕事」という「思い込み」があるのではないでしょうか。

男性は外で働くもの。女性は理工系の勉強が不得意だ。男性のほうがリーダーに向いている。自分は女だから出世できない…等々。最近ではアンコンシャスバイアスと呼ばれる、男女の特性や役割に対する思い込みが世の中にはあふれています。

思い込みに縛られないことの大切さは、以前も書きました。

人間はなかなか思い込みを手放すことができません。なぜなら、思い込みや決めつけは脳を楽にするからです。「これはこういうものだ」と思ってしまえば余計なことを考えなくて済みます。
ところが、思い込みが昂ずると今度は苦しくなります。「こうでなければならない」という固定観念が生じてしまうからです。思い込みや固定観念、こだわりは自分自身を縛り、自由を奪ってしまいます。

画像: 禅宗の語録「碧巌録」にある禅語、臨済宗建長寺派管長 吉田正道老大師筆

禅宗の語録「碧巌録」にある禅語、臨済宗建長寺派管長 吉田正道老大師筆

「百雑砕(ひゃくざっさい)」とは、そのような諸々の余計な考えをこっぱみじんに打ち砕いてしまえ、と私たちを喝破する禅語です。

心や思考を縛るすべてのものを打ち砕き、最後に残る「ぶれない軸」を自覚せよ。思い込みに依存せず自分の足で立て。それによって初めて真の自由を手にできるという教えが込められています。

人とはそもそも多様なもの。性別という枠だけで特性を括ることはできません。仕事に生きがいを感じる人もいれば、出世がすべてではないと考える人もいます。社会進出だけが「活躍」ではないはず。家族との時間を大切にすることや、趣味に打ち込むことで活躍する人もいます。

性別にとらわれることなく自分自身、家族、仲間、同僚や部下と虚心坦懐に向き合えば、それぞれの特性、個性を生かす道が見えてくるのではないでしょうか。

自分の中のぶれない軸を自覚して自分の足で立つ人は、他者の軸を理解し、自由を尊重することができます。女性に限らず、すべての人が自分の望む生き方を選択できる社会のために、まずは自分を縛る思い込みを打ち砕くことをめざしてみませんか。

画像: 「百雑砕」

平井 正修(ひらい しょうしゅう)
臨済宗国泰寺派全生庵住職。1967年、東京生まれ。学習院大学法学部卒業後、1990年、静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。2001年、下山。2003年、全生庵第七世住職就任。2016年、日本大学危機管理学部客員教授、2018年、大学院大学至善館特任教授就任。現在、政界・財界人が多く参禅する全生庵にて、坐禅会や写経会など布教に努めている。『最後のサムライ山岡鐵舟』(教育評論社)、『坐禅のすすめ』(幻冬舎)、『忘れる力』(三笠書房)、『「安心」を得る』(徳間文庫)、『禅がすすめる力の抜き方』、『男の禅語』(ともに三笠書房・知的生きかた文庫)、『悩むことは生きること』(幻冬舎新書)など著書多数。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.