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株式会社 日立製作所 執行役常務 谷口潤/帝京大学スポーツ局局長 岩出雅之氏
2021年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会で10度目の優勝を果たし、26年間の帝京大学での監督生活に区切りをつけた、現・帝京大学スポーツ局局長 岩出雅之氏。そしてラグビーを愛し、岩出氏を敬愛し続けてきた日立製作所 執行役常務 谷口潤との対談。第4回は、デジタルによる協創について。

「第1回:レジェンドとの対面」はこちら>
「第2回:ウェルビーイングという気づき」はこちら>
「第3回:Z世代のマネジメント」はこちら>
「第4回:VUCAの時代のデジタルの役割」
「第5回:アウトローの自己改革」はこちら>

VUCAの時代のリーダーシップ

谷口
先生のお話の中でもVUCAの時代というキーワードが出てきましたが、半年先、1年先のビジネス環境がどうなるのかというのは、私が入社した27年前と比較してもはるかに読みづらくなっています。ですから、やるべき準備やつくるべきオプションが明らかに以前より増えている。そのためには、いろいろな得意技を持っている人財が重要になってきていて、ある得意技だけを磨いたら勝負に勝てるという時代ではなくってきたのではないか。それぞれ得意技を持っている人たちがお互いを認め合い、チームを組むことで新しいものが生まれる。リーダーの最大の役割は、その環境づくりだと思います。

日本でもアメリカでも、私のモットーは「尊敬と感謝」ですが、2021年に日立の仲間になったアメリカのグローバルロジック社という企業でも「ミューチュアル・リスペクト(相互尊敬)」という言葉が使われていて、そこは世界共通なのだと思いました。

画像: VUCAの時代のリーダーシップ

岩出
谷口さんの言われた「相互尊敬」は、組織に新しいものを受け入れる柔軟性があり、安心して挑戦できる土台があって生まれるカルチャーだと思います。学生はまだ成熟していませんし、親とも学校の先生とも友達のようにフラットな関係の中で育ってきていて、上からモノを言われたり自律性を壊されたりするような関係が苦手ですから、「相互尊敬」のためにはまず「心理的安全性」を持った組織やチームビルディングが重要です。

今の学生は、良いものを持っているのに決められない子が多い。ラグビーで言うと、ボールを受け取ったらパスかキックかランか当たるしか選択肢はないのに、これを決められない子が多いのです。昨日も試合がありましたが、キックがうまい、人に強くて倒れない、しかし足が遅いという選手がいて、自分で決められないからすぐに蹴ってしまう。人に強いからどんどん行けば立っていられるのに、もったいない。ただし自分だけで勝手にプレーしてまわりが傍観してしまったらすぐにピンチになるので、ハーフタイムに「みんなが絶対にサポートするから、後半は蹴らずにどんどん行け」と少しだけアドバイスしたのです。Bチームの公式戦で成長のためにある大会でしたし、行かなければ失敗にもならないので。そうしたら後半、大活躍です。

チームに失敗を受け入れる空気感があって、潜在している力を引き出すきっかけがあれば、こういうことは起きるのです。たとえキャプテンがいなくても、重要なポジションの選手がケガで出られなくなっても、みんながカバーし合うという発想をチームが持っていることが、VUCAの時代には大事なことです。

谷口
説得力のあるお話です。Z世代と呼ばれる若い人たちの力を引き出すために、そしてVUCAの時代の組織やチームのあり方について、とても重要なことを教わりました。

デジタルによる協創

岩出
僕も谷口さんに、ひとつ質問させていただいてもいいですか。

谷口
はい、お願いします。

岩出
先日私鉄でトラブルが起きて、僕はたまたま渋谷にいたのですが、タクシーも大行列で家に帰るのに大変な思いをしました。先ほど、必要なときに必要な本数を走らせるという鉄道の運行の話がありましたが、突然のアクシデントへの対応というのは今だとどこまで可能なのでしょうか。

画像: デジタルによる協創

谷口
まず、今できていることからお話ししますと、東京の電車は相互乗り入れでスパゲッティのように複雑にからみ合っています。トラブルが起きたときにはつながりを一度分断して局所に分け、自律分散といいまして、安全に運行できるところは局所内で自律的に運行させることでダメージを小さくして、復旧を早くするということはもうやられています。

今後の対策の一例として日立が検証を進めているのは、何かトラブルが起きたときに人の流れがどうなっているのかを可視化・分析し、それを鉄道周辺の移動手段と連携して移動全体をスムーズに行えるようにするというものです。いわば、ダイナミック・コントロールの実験がはじまっていると言えます。

岩出
それは期待が持てるお話ですが、首都圏での大震災のような大きな災害を想定した場合の対応だとどうなのでしょう。

谷口
そのレベルになると、まだまだ越えなければいけない壁がたくさんあります。東日本大震災のときもそうでしたが、交通の問題は交通だけの問題ではなくなります。電気が来ない、電話やネットはつながらない、道路は分断されてしまう。これらの複合的なインフラのトラブルを一気に解決する方法は、残念ながらまだありません。

しかし、その解決の糸口は見えていまして、それがデジタルです。交通機関や電気、通信、道路などのインフラに今何が起きているのかは、デジタルによって先ほどの人流のようにリアルタイムでデータを収集・解析し可視化できるようになってきています。この情報を広く共有し活用することで、解決できることを増やし、災害への対応レベルを段階的に上げていくことは可能です。

岩出
同じ業界の競合となる企業同士が、そういった大きな課題解決のために一緒に取り組もうといった動きというのは、実際にあるのですか?

谷口
あります。例えば異なる電力会社様同士でも、緊急事態のときには電力を融通し合おうといった議論やルール決めをする機関がありますし、そういった動きはさまざまな業界で共通しています。災害のときには利害抜きで最大限できることを考える。それは企業や組織、国を超えて成立する議題だと思います。

今年度日立は、「プラネタリーバウンダリー(地球規模の環境課題)」と「ウェルビーイング(心身ともに健やかな暮らしに基づく一人ひとりの幸せ)」という2つを中期経営計画の柱としました。どちらも地球スケールの問題であり、日立だけで解決できるものではありません。それは企業、国、宗教といった壁を乗り越えてともに取り組むべき世界共通の課題であり、デジタルによる協創であればその解決が可能になるはずです。日立デジタル社は、こういった協創の拠点という役割を担っています。(第5回へつづく)

「第5回:アウトローの自己改革」はこちら>

画像1: 人を育てるウェルビーイングの力
【第4回】VUCAの時代のデジタルの役割

岩出 雅之(Masayuki Iwade)
1958年、和歌山県新宮市生まれ。和歌山県立新宮高等学校卒業後、日本体育大学在学中に1978年全国大学ラグビーフットボール選手権大会優勝に貢献。4年時には主将を務める。卒業後、滋賀県教育委員会、滋賀県公立中学校、滋賀県立高等学校教員を務める。県立八幡工業高等学校教員時にラグビー部監督として、同校を7年連続花園出場に導く。ラグビー高校日本代表監督。1996年帝京大学ラグビー部監督就任。2009年度~2017年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会において史上初の9連覇を達成。2015年第52回日本ラグビーフットボール選手権大会では、トップリーグチームに勝利を収めた。2022年1月全国大学ラグビーフットボール選手権大会において10度目の優勝を果たし、監督を退任。現在帝京大学スポーツ局局長、スポーツ医科学センター教授。

画像2: 人を育てるウェルビーイングの力
【第4回】VUCAの時代のデジタルの役割

谷口 潤(Jun Taniguchi)
1995年、株式会社 日立製作所入社。2019年4月、日立グローバルライフソリューションズ社長。2022年4月、日立製作所 執行役常務 サービス&プラットフォーム ビジネスユニット COO /日立デジタル社CEO。

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