「第1回:レジェンドとの対面」
「第2回:ウェルビーイングという気づき」はこちら>
「第3回:Z世代のマネジメント」はこちら>
「第4回:VUCAの時代のデジタルの役割」はこちら>
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心の師であるラグビー界のレジェンドとの対面
谷口
本日は、お越しいただき心より感謝いたします。はじめに、自己紹介をさせていただきます。私は谷口潤と申します。現在は北米にある日立デジタル社のCEOと日立製作所サービス&プラットフォームビジネスユニットのCOOとして、日立のデジタル事業全体を見る立場でアメリカのシリコンバレーを拠点に仕事をしております。
1972年、京都市で生まれました。小学校1年生だったと思いますが、山口良治先生(※)が教えられていたラグビースクールに入り、はじめてラグビーに触れました。それから現在まで熱狂的なラグビーファンです。残念ながら中学と高校にはラグビー部がありませんでしたのでサッカーにいそしみました。ラグビーが大好きで、大学は早稲田大学に行き秩父宮ラグビー場でよく観戦していました。
※ 山口良治:1943年~ 日本のラグビー指導者、元日本代表。テレビドラマ『スクールウォーズ』(馬場信浩原作)の主人公滝沢賢治のモデルとなった。
1995年に日立製作所に入社し、システムエンジニアとしてキャリアを重ね、2019年より日立グローバルライフソリューションズという日立の家電事業を行っている組織のCEOを3年間務めました。2022年4月より、日立のデジタル事業の司令塔という役割を担うためにカリフォルニアのシリコンバレーで仕事をしております。
これまで岩出先生のご著書はすべて読ませていただき、その影響から人のパフォーマンスを最大化することが私の仕事だと考えるようになりました。お会いできただけでかなり興奮しておりますが、今日はチームビルディングや人財育成について、ぜひ先生のお話しをお聞きできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
岩出
ありがとうございます。僕は和歌山県出身で高校時代はラグビー部でしたが、本当にしっかりラグビーをやったのは教育実習の先生に声をかけていただいた高校2年生の1年間くらいなんです。そしてその先生とのご縁で日本体育大学に進学することになり、運よく大学でレギュラーになれたりキャプテンをやらせていただいたり、大学選手権でベスト4や優勝という経験ができました。社会人になるとき、電機関係や自動車関係の企業からお声がけいただきましたが、大学に入るもともとの動機が教員になることでしたので、初心を貫いて滋賀県で16年間、中学校の教師からはじまって教育委員会や工業高校に勤務しました。ラグビーのチームを受け持ったのは最後の7年間だけなのですが、その後高校の日本代表監督を務めることになり、そこから帝京大学のラグビー指導者・教員へとつながり、現在に至っています。
なぜ帝京大学ラグビー部監督を退任したのか
谷口
帝京大学では2009年度より全国大学ラグビーフットボール選手権大会9連覇を成し遂げ、3大会のブランクがありましたが2021年度、V10を達成されました。このタイミングで監督を退任されたのは、何か理由があったのですか。
岩出
10回目の優勝をして、あと3年、4年ぐらいは僕もまだできそうな気持ちはありましたが、今年はチーム事情も悪くないので、この先10年20年と新しい監督に頑張ってもらうためにはチームがいい状態のときにバトンを渡す方がいいと判断しました。私が帝京大学に来たときに1年生だった、OBでフォワードコーチをやっている元日本代表の相馬朋和という信頼できる人間がおりましたので、次の監督をお願いして私は退任することにしたのです。
大学からはラグビー部監督とスポーツ局局長という2つの依頼を同時に受けました。両方を引き受けることもできなくはないかもしれませんが、たぶんどちらかが中途半端になる。どちらの仕事も、仲間があって進むものです。学生、スタッフ、ラグビー部員、スポーツ局という新しい部門の人たち、すべて新しい出会いからお互いのことを理解していかなければなりません。そのためには、やっぱり目の前にいるということがとても大事なのです。ラグビーとスポーツ局をあっちに行きこっちに行きではどちらも良いチームはつくれないと思ったものですから、ラグビー部監督は思い切って退任する決断をしました。新監督も一番いいときのチームを預かるというのはある面でプレッシャーでしょうが、彼はそれも経験として今後に活かせる人だと思っています。
谷口
スポーツ局というのは、具体的にどういったことをする部門なのですか?
岩出
スポーツ局は、大学全体のスポーツの活性化をサポートしていく部門で、メインの業務は大学の中のスポーツ振興になります。帝京大学には、ラグビー部や野球部、駅伝部のように学校全体でサポートしているクラブもあれば、アカデミックな学術研究を行う学科もあり、他にも課外の学生たちが自由にやっているクラブまでさまざまなスポーツに関する組織が存在します。そういった活動をトータルにサポートするのがスポーツ局です。
それはどんどんお金を使って強化していくという意味ではなく、まずは安心・安全ないい状態をどうやってつくっていくのかを考えるのが私たちの役割です。学校生活を通してスポーツ選手を強くすることだけではなく、どうすれば安心・安全な学校生活を充実感を持って送れるのかが何より重要です。スポーツ局という組織自体も初年度ですし、まずはそういったことを手がけながら、最終的には地域の方たちと共に社会に貢献できるような活動につなげていきたいと思っています。(第2回へつづく)
岩出 雅之(Masayuki Iwade)
1958年、和歌山県新宮市生まれ。和歌山県立新宮高等学校卒業後、日本体育大学在学中に1978年全国大学ラグビーフットボール選手権大会優勝に貢献。4年時には主将を務める。卒業後、滋賀県教育委員会、滋賀県公立中学校、滋賀県立高等学校教員を務める。県立八幡工業高等学校教員時にラグビー部監督として、同校を7年連続花園出場に導く。ラグビー高校日本代表監督。1996年帝京大学ラグビー部監督就任。2009年度~2017年度全国大学ラグビーフットボール選手権大会において史上初の9連覇を達成。2015年第52回日本ラグビーフットボール選手権大会では、トップリーグチームに勝利を収めた。2022年1月全国大学ラグビーフットボール選手権大会において10度目の優勝を果たし、監督を退任。現在帝京大学スポーツ局局長、スポーツ医科学センター教授。
谷口 潤(Jun Taniguchi)
1995年、株式会社 日立製作所入社。2019年4月、日立グローバルライフソリューションズ社長。2022年4月、日立製作所 執行役常務 サービス&プラットフォーム ビジネスユニット COO /日立デジタル社CEO。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。