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2022年10月21日(金)、オンラインイベント『楠木建、一問一答』が開催された。人的資本経営や人材の獲得、ジョブ型雇用など「人材」に関する読者からの質問に楠木氏はどう答えたのか。

「第1回:GDPに代わる指標、など。」はこちら>
「第2回:人的資本経営、など。」
「第3回:自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。」はこちら>
「第4回:教養教育、日本人の英語力、など。」はこちら>

Q:「人的資本経営」についてどう考える?

――小売業で人事や経営企画を担当しています。近年、ESGやSDGsに続いて「人的資本経営」という言葉をよく耳にするようになりました。経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0(※)」を読むと、一番のポイントは経営戦略と人材戦略を連動させることだと書かれており、そのファクターとしてダイバーシティ&インクルージョンやリスキル(学び直し)、従業員エンゲージメントといったさまざまなキーワードが挙がっています。つまるところ、経営戦略に基づいた人材戦略の中で何が一番重要になってくるのでしょうか。

※ 2022年5月に公表された、一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤邦雄氏を座長とした経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書の通称。

楠木
僕は「人的資本」の“資本”という言葉にすべての意味が込められていると思います。人間をコストではなく、将来において価値をつくるための原動力として考えようということだからです。

ここで重要なのは富と資本の違いです。ナポレオンが連戦連勝でフランスに戻ってきたとき、巨万の富を抱えていました。ところが、資本はゼロです。お金を持っているというのと資本があるというのはまったくの別物です。資本は将来の価値創造の手段です。いくらお金を持っていても、寝かせていたら資本でも何でもありません。

画像: Q:「人的資本経営」についてどう考える?

人間が資本であるという考えは、人間を人件費というコストではなく投資の対象として捉えたものです。投資とは、先にお金を払うことです。「これだけ働いてくれたらこれだけお金を払います」ではなく、「こういうふうに働いてもらいたいからお金を払います」。これが経営にとって大切です。

つまり時間軸が入っている。複利でどんどんアウトプットが大きくなっていくのが人的資本のあるべき姿です。決してコストではなく、将来に向けての投資だと経営者は考える。一人ひとりの従業員は、「自分は資本である」と考える。さまざまな仕事がありますけれども、自分で価値を提供できてこその人的資本です。あくまでもその仕事の成果で自分の価値を認識する。経営する側と働く側の双方に、「人は資本である」という考え方が必要です。

――これからの最高人事責任者はCHROではなくCHCOという理解でよろしいでしょうか。Human ResourceではなくHuman Capitalだと。

楠木
ええ。Capitalは将来に向けてのものです。そこは会計とファイナンスの考え方の一番違うところです。会計ではキャッシュが一番偉い。ところがファイナンス的な考え方によると、キャッシュが一番偉くない。これが典型的なCapitalの考え方です。

「第3回:自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。」はこちら>

画像: 『楠木建、一問一答』第2弾―その2
人的資本経営、など。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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