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2022年10月21日(金)、オンラインイベント『楠木建、一問一答』が開催された。人的資本経営や人材の獲得、ジョブ型雇用など「人材」に関する読者からの質問に楠木氏はどう答えたのか。

「第1回:GDPに代わる指標、など。」はこちら>
「第2回:人的資本経営、など。」
「第3回:自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。」はこちら>
「第4回:教養教育、日本人の英語力、など。」はこちら>

Q:「ジョブ型雇用」を日系企業に浸透させるには?

――IT関連の企業で中間管理職をしています。仕事を定義し人を割り当てていく「ジョブ型雇用」は日本企業に浸透していくでしょうか。そのために、経営者と社員はどのようなマインドで仕事に臨めばよいでしょうか。

楠木
先ほどのご質問でもお答えしたとおり、企業が仕事の組織である以上、ジョブ型雇用以外ないと僕は思っています。いわゆるメンバーシップ型雇用とは、日本の高度成長期以降の終身雇用に代表される、年功に基づく報酬体系を指しています。「それ、もはや仕事の組織じゃないのでは……」と僕は思うんです。

戦前の日本の企業の雇用を見ると、今でいう日本的経営とはまったく異なります。非常に労働市場の流動性が高く、ちょっと儲かる仕事があったらすぐそちらに移ってしまう個人が多い世の中でした。

デトロイトの自動車産業が生まれてきた1900年前後、日本では「アメリカの企業に並べ、学べ」という声が盛んに挙がっていました。アメリカの企業は長期雇用で、家族のように経営し、みんなが社宅に住んでいる。1つの会社に長くいて、そこで技能を形成して、組織に蓄積されていく。だから、あれだけものづくりが進み、さまざまな産業が生まれたんだと。

片や、日本はどうだと。一人ひとりが職人みたいに働いていて、ちょっといい仕事があったらすぐそちらに移ってしまう。短期的な金で動いている。こんなことではいつまで経っても、ものづくりは進まないぞ――日本の文化もへったくれもない話だったんです。こういった経緯から採り入れられた終身雇用と年功制が、たまたま戦後復興から高度成長の25年間において日本ではベリーベストの選択でした。

画像: Q:「ジョブ型雇用」を日系企業に浸透させるには?

これは、非常に特殊な経済環境のもとで高い有効性を発揮する、いわば戒厳令です。「HR戒厳令」と僕は呼んでいます。高度成長期が終わってしばらく経つのに、戒厳令出しっ放し。企業は仕事の組織であるにもかかわらず、いまだに終身雇用と年功制――論理を大きく超えています。それだけに、この制度を思いついた人は天才だったと思います。これが日本初の経営イノベーションですから。

――そういった経緯があったのですね。よくわかりました。楠木先生は、メンバーシップ型雇用の利点はどんなところにあると思われますか。

楠木
終身雇用と年功制のいいところは、ウルトラ・スーパー・トランスペアレント、ローコスト、オープンなしくみであることです。「君、何年入社?」という質問一発ですべてがわかる。こんなに透明性が高くて、評価コストをギリギリまで削減できるしくみはありません。

ただ、高度成長期という異常な時期がとっくに過ぎ去った今、世の中は普通の状態です。ならば、企業は普通の組織でないといけないので、ジョブ型雇用が当たり前。これを世の中に浸透させていくためには、「今までが変だったんだよね」というマインドで臨むのが一番です。

仕事を定義し、人を割り当てていくのがジョブ型雇用ですが、注意しなくてはいけないのは、仕事の定義が会社によって全然違うことです。どのように仕事を定義し、どうやって一人ひとりのやりたいことや能力を認識し、どんな仕事をしているのか。ジョブ型雇用になっても、仕事を定義できる機械的なフォーマットはありません。

――となると、やはり経営判断が必要になってくる。

楠木
ええ。その企業の経営力、特に人材に関する経営の力が、今以上に問われます。いよいよ経営力の勝負になってくる、一言で言えば当たり前の時代になってきたということです。(第3回へつづく)

「第3回:自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。」はこちら>

画像: 『楠木建、一問一答』第2弾―その2
人的資本経営、など。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
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ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

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