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2022年10月21日(金)、オンラインイベント『楠木建、一問一答』が開催され、読者からの質問に楠木氏が答えた。今回は、組織改革や社内プロジェクト、部門の目標設定など組織に関する質疑応答の様子をお届けする。

「第1回:GDPに代わる指標、など。」はこちら>
「第2回:人的資本経営、など。」はこちら>
「第3回:自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。」
「第4回:教養教育、日本人の英語力、など。」はこちら>

Q:上下関係の強い組織を改革するには?

――医療機関向けに業務改善のコンサルティングをしています。たいていの病院は医師を頂点としたピラミッド型の組織になっています。医療サービスそのものは多くの職種の連携のもとに成り立っていますが、自他ともに「医師が一番偉い」という認識があり、「医師に意見を言うものではない」という意識が根強く、それが組織改善のボトルネックになることが非常に多いです。

こういう組織に対して「医療はチームプレーであって、1人で仕事をしているのではない」「多様な意見を受け入れることが組織の成長につながる」などと正論を吐いてもあまり効果はありません。トップが交代して組織の空気を変えていくか、年月が経って次第に人員が入れ替わっていくことに期待するしかないのが実情です。医療に限らず、専門的な資格や学歴が序列に影響する組織で、上下関係なく自由闊達に意見が交わせるようになるためにはどうすればよいでしょうか。

楠木
仕事の場での上下関係や権威の有無ではなく、「役割が違うだけ」だと組織の全員にわかってもらう必要があります。大切なのは、仕事を通じて達成すべき目的の共有です。幸いにして医療機関は、人々の健康を維持する、病気を治すといった非常にシリアスな目的を持っています。その意義や価値を、改めて口にするまでもなくだれもがわかっている仕事です。

より効果的なのは、何がその組織の目的なのかを、定量的にも定性的にもハッキリとさせることです。その組織にとっての成果なり成功なりを、定性的に言うのは簡単です。何とか工夫して、みんなが納得できる定量的な、シンプルな成果指標も設定する。その数値が向上すれば、みんなハッピーです。

画像: Q:上下関係の強い組織を改革するには?

成果を上げるためには一人ひとりが役割を発揮しなければなりません。自由闊達にやったほうがいい成果を出せるのなら、「やっぱり自由闊達に意見を交わしたほうがいいよね」。医師にものを言えない状態が成果にとってマイナスなのであれば、「やっぱり言ったほうがいいよね」となる。共通の目的の前に、組織のみんなが平等になれる。目的が明確でないから、その手前にある資格や学歴といった権威勾配が問題になるんです。

――確かにご指摘のとおりです。

楠木
目的を明確に定めて、その達成のために一番効果があるものがいいことなんだ――そういう共通認識を初めにセッティングすることが大切だと思います。組織にとっての勝利条件がぼやけている組織は、何をやっても駄目だと思います。

――とても腑に落ちました。ありがとうございます。

「第4回:教養教育、日本人の英語力、など。」はこちら>

画像: 『楠木建、一問一答』第2弾―その3
自由闊達に意見交換できる組織への改革、など。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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