「第1回:協創は課題の発見から始まる」
「第2回:スペシャリストがチームで課題解決に伴走する」はこちら>
「第3回:多様な視点が課題を解決に導く」はこちら>
「第4回:Lumada Innovation Hub Tokyoはお客さま同士もつなぐ場でありたい」はこちら>
「第5回:複雑な社会課題はオープンでフラットな協創のチームで解決する」はこちら>
次々に生まれる協創の事例
――開設から1年以上が経ちました。今、Lumada Innovation Hub Tokyoとはどのような場だと考えていますか。
笠井嘉(以下、笠井)
設計時のコンセプトと変わらず、空間や時間を超えてさまざまな知恵やアイデアをつなぐことで、1社だけでは対応できない経営課題や社会課題を解決するための協創の場だと捉えています。もともと日立にはLumadaという、さまざまな最新デジタル技術を組み合わせて素早くソリューションを得るための仕組みがありましたが、その実践のための具体的な場という認識です。開設当初は社内からも「Lumada Innovation Hub Tokyoって何なの?」「どうやって活用するの?」といった声が聞かれましたが、説明会やセミナーなどを通じて認知度が高まりました。また、Lumadaそのものへの理解もより深まったと感じています。
Lumadaの実践の場であるLumada Innovation Hub Tokyoは、東京駅と直結したビルの中にある協創空間であり、私たちが所属するLumada CoEという組織が運営しています。この組織には、データサイエンティストやデザイナー、ユーザーリサーチャーといったスペシャリストが多く在籍しており、そのスペシャリストとお客さまが、DXコーディネーターとともに協創活動に取り組んでいます。
――それぞれのスペシャリストは協創にどのように関わるのでしょうか。
笠井
一般的な例で説明しますと、まずはDXコーディネーターが、お客さまの課題はどのあたりにありそうなのか当たりを付け、データサイエンティストやデザイナー、ユーザーリサーチャーなどのスペシャリストとともに協創の進め方を設計します。協創では、課題の整理、仮説の構築、価値の検証などさまざまな活動を、持ち込まれるご相談に合わせて実施しています。プロジェクトごとに参加するスペシャリストはさまざまですが、DXコーディネーターは最初から最後までお客さまに伴走します。
なお、デザインシンキングやデータサイエンスなどの専門性だけでなく、業務やIT、OT(Operational Technology)、プロダクトといった多様な領域の知識を併せ持つスペシャリストたちが、お客さまとの協創活動に自在に入っていきます。そのアレンジもDXコーディネーターが他のスペシャリストと相談しつつ行います。
お客さまと同じ目線に立って、一緒に課題を解いていく。こうしたスペシャリストの在り方は、Lumada Innovation Hub Tokyo、そして日立の実践する協創の大きな特徴であると考えています。
――具体的にはどのような協創活動を進めてきましたか。
笠井
お客さま社内の業務プロセスを効率化するものから、新規事業の創生まで、さまざまなプロジェクトを進めています。特に昨年の後半くらいから、たとえば脱炭素にどう取り組むか、といったより大きな社会課題に向き合うテーマでのご相談が増えています。
こうしたプロジェクトでは、どのようにグリーンな社会をつくっていくのかといった将来社会像や、そこでお客さまの事業がどのような価値を提供しているかを一緒にデザインしています。このビジョンデザインの取り組みでは、日立オリジナルの未来洞察手法「きざし」や、これをLumada Innovation Hub Tokyo向けにカスタマイズしたツールを活用しています。
めざす将来像と解くべき課題の合意形成ができたら、次のステップに進みます。たとえば業務改革が必要なのであれば、どのような嬉しさを実現するか、そのためにどのようなデジタル技術が使えそうか、アイデアを創ります。具体的なプロトタイプを使い、嬉しさをお客さまと一緒に体験しながら進めるプロジェクトも複数、進んでいます。
Lumada Innovation Hub Tokyoには施設も人も揃っている
――課題を発見するところから協創するのですね。
笠井
「課題を明確にしてから来てください」というのは、いまの時代にはそぐわないと思っています。課題が見つかっていれば、それを解くのは簡単とまでは言いませんが、解決方法を考えることはできます。ただ現在は、「もはや何が課題なのかもわからない」ということが増えているように感じています。ですから、「課題は何ですか」とお尋ねするのではなく、課題を見つけることからご一緒したいと思うのです。もやもやした状態から解くべき課題をクリアにするプロセスは、さまざまです。たとえば経営層の方とは、グリーン化やDXにどう取り組むかといった抽象度の高いお話から入ることが多いですし、現場のマネージャーの方々に対しては、現場の具体的なソリューションをお見せすることから話が弾むこともあります。そのための設備もLumada Innovation Hub Tokyoには整っています。
Lumada Innovation Hub Tokyoの強みをもう一つ付け加えると、一人ひとりのスペシャリストが、複数の事業領域での経験があり、知見を持っていることです。たとえば金融事業を専門とされているお客さまと話をするにあたって、データサイエンスやデザインといった手法の専門家であるだけでなく、金融業界のことも理解できるスペシャリストが対応できます。もちろん、お客さまの事業領域でのオペレーションについては私たちよりもお客さまのほうがずっと詳しいわけですが、私たちにもその業界の知見があり、なおかつ別の領域も経験していることで、他の業界での事例やノウハウを活用しながら協創をすることができます。これが、お客さまが自社単独で課題解決に臨むのではなく、私たちとの協創を選んでいただく要因にもなっていると思います。
――お客さまを含め、多様性に富んだチームが協創するうえで欠かせないのはどのようなことでしょうか。
笠井
Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光(※1)が、よく「北極星を設ける」という言い方をしていますが、チームがめざす北極星をまず明確にし、そこをめざしていることを、ことあるごと確認し合うことだと思います。つまり、何が課題なのかをLumada Innovation Hub Tokyoで明確にし、その解決に向けて何をしていきたいかも明確に示し続けるということです。北極星を設けるまでには「いや、ちょっと違うな」と感じることもあるはずです。オープンかつカジュアルな議論を重ねて、全員がめざす北極星を設けることが重要だと考えています。
そして、お客さまを含め多様な考え方を持つスペシャリストが集まってワイワイガヤガヤする場も必要です。1社だけでは、1業界だけでは解決できない課題とは、ひとつの考え方だけでは解決できない課題です。いろいろな考え方をする人たちがつながることのできるLumada Innovation Hub Tokyoのような場があること。これも、大きく複雑になる一方の課題を見つけ、解決していく上で不可欠なものです。
また今年4月に発足したGlobalLogic Japan社(※2)のメンバーが、7月からLumada Innovation Hub Tokyoに在席しています。彼らの持つスペシャリティも含め、よりお客さまの課題解決に貢献していけるものと思っています。(第2回へつづく)
※1 加治慶光:日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 取締役会長、 鎌倉市スマートシティ推進参与。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。
※2 GlobalLogic Japan社:日立デジタル社の事業会社であり、2021年7月に買収したGlobalLogic社の日本法人。GlobalLogic社はデジタルエンジニアリング業界のリーディングカンパニーであり、米国・シリコンバレーに本社を置き、世界各地にデザインスタジオやエンジニアリングセンターを展開している。
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笠井 嘉(かさい・よしみ)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 Lumada CoE NEXPERIENCE推進部 LIHT Director。
日立製作所入社後、医療機器および情報機器のプロダクトデザインを担当。ユーザーリサーチを経て、デザインの技術を活かした顧客協創活動に従事。2016年にHitachi America User Experience Design Labのラボ長として、北米での顧客協創活動や協創方法論の手法化を推進。帰国後、サービス/ビジョンデザインの実践および手法開発をするデザイン部のマネジメントに従事。2021年より現職。
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