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「第5回:子どもたちが安心して野球ができる社会」
育ててくれた野球への恩返し
阿部
ところで栗山さんは、お名前と同じ北海道の栗山町に「栗の樹ファーム」という少年野球場を造られましたが、これはどんなきっかけだったのでしょうか。
栗山
大好きな『フィールド・オブ・ドリームス』(※)というアメリカ映画の舞台になったアイオワ州の野球場に足を運んだときに、そこでアメリカや日本、台湾の少年たちが、お互い言葉も通じないのに試合を始めたのです。「野球ってすごい、スポーツってすごい」ととても感動してしまいまして、単純に日本にもこんな場所があったら幸せだなと思ったのです。
もしかすると、あの野球場を造ったことが、日本ハムの監督就任につながったというか、野球に対してそれほどの思いがあるのなら……と球団側が受け止めてくれたのではないかと個人的には感じています。
※ フィールド・オブ・ドリームス:1989年公開のアメリカ映画。ウイリアム・パトリック・キンセラの小説『シューレス・ジョー』が原作。野球を題材に60年代のアメリカを描いたファンタジー作品。
阿部
日立にも野球、バドミントンやソフトボールなどの実業団チームがありますが、女子ソフトボール部の選手は小学校や中学校に出向いて子どもたちを指導しています。それに競技の応援を通じて、職場や地域の連帯感が育まれたりもする。そういう意味で、スポーツが社会に果たしている貢献はとても大きいのではないでしょうか。
東日本大震災の後でプロ野球全12球団の選手がそれぞれ直接被災地を訪問したボランティア活動や、早期にリーグを再開して被災者に熱戦を見せていたのが印象的でした。選手たちは懸命なプレーで、肩を落としていた地元の人たちを元気づけてくれた。スポーツのありがたさを改めて実感した出来事でした。
栗山
今のお話しの震災のときも、それから今回のコロナ禍でもそうですが、「世の中がこんな大変なときに本当に野球をやっていいのか。野球をすることが本当に世の中にとってプラスになっているんだろうか」ということを真剣に考えました。大変な困難に直面して日々苦しい思いをしている人たちに何もしてあげられない、という気持ちが強かったのですが、今のように言っていただくと、むしろ僕らのほうが元気づけられるというか、こんなときだからこそ野球を一生懸命やっていいのだと思えてきます。
思えば、2018年に亡くなられた星野仙一監督からことあるごとに「お前ら、野球に恩返ししてんのか」と何度も言われました。生きる糧を与えてくれて、自分を成長させてくれた野球に対して何ができるのだろうかと自分なりに考えた答えが、栗の樹ファームだったのかもしれません。
野球ができる安心で安全な社会を、次の世代へ
阿部
野球を通じて、子どもたちはその可能性を広げ、チームワークを学び、豊かな感性を育むことができる。そういう機会を与えてくれる少年野球場は、子どもたちへの最高の贈りものですね。
私たち日立グループでも、未来を担う子どもたちにぜひテクノロジーを志向してほしいと、理工系の社員やOBが各地の小学校を訪問して出張授業を行うプログラムを展開しています。
もとより日立グループには「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念があります。事業を通じた社会貢献はもちろん、それ以外のところでも事業活動の根底を支えてくれている社会に対して、できることをやっていこうという考え方があるのです。
例えば今回のウクライナ危機においても、社員からの寄付と同じ額を会社が寄付するマッチングファンド制度を作ったり、隣国ポーランドのグループ会社がボランティアで活動したりと、さまざまな支援を行っています。そういうことを積極的に奨励して、個人として、企業として、グループとして、社会に対してできることをやっていくことが企業活動のベースにあります。
栗山
個人的なことですが、僕が現役を引退してからずっとマネジメントしてくれているご高齢の女性がいて、実は彼女、もともと日立さんに勤めていた方なのです。
阿部
そうですか。
栗山
だから日立さんにはご縁も感じるし、親近感も覚えます。今、阿部さんも言われたとおり、ちゃんとした社会があるからこそ生活できるし、野球もできるのですよね。それを許してくれている社会に少しでも恩返しができればと思うのです。
先日、脚本家の倉本聰さんが栗の樹ファームに100本の栗の苗木を持ってきてくれました。「次の世代のためにこの栗を絶対に残すんだ」とおっしゃって、私たちが次の世代のために何ができるのか、何をしなくちゃならないか、という話を一生懸命されていました。
そして今日も、阿部さんとのお話しを通じて、社会に対して野球に何ができるのか、改めて考えさせられました。こうした交流を通じて感じたこと、考えたことをしっかり発信して、行動に移していけるようにこれからも頑張っていこうと思います。
阿部
野球をはじめとするスポーツは人々を勇気づけてくれます。私たち企業人も栗山さんのようなスポーツに関わられている皆さんに負けないように、社会が直面するさまざまな困難や課題を克服できるように、そして、安心・安全な社会を次の世代に手渡せるように頑張ります。
来年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、期待しています。今日は貴重なお話しをどうもありがとうございました。
栗山
私も日立さんのこれからに期待しています。こちらこそありがとうございました。
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栗山 英樹(Hideki Kuriyama)
1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、1984年にヤクルトスワローズに入団。1989年ゴールデングラブ賞を獲得。1990年に現役を引退した後は解説者として活躍するかたわら少年野球の普及に努め、2002年には名字と同じ町名の北海道栗山町に同町の町民らと協力して少年野球場「栗の樹ファーム」を開設。2004年からは白鷗大学でスポーツメディア論などの講義を担当した後、2012年からは北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを2度のリーグ優勝に導き、2016年には日本一に輝く。2021年、野球日本代表監督に就任。現在、北海道日本ハムファイターズプロフェッサー。
阿部 淳(Jun Abe)
1984年、株式会社 日立製作所入社、2001年ソフトウェア事業部DB設計部長、2007年日立データシステムズ社シニアバイスプレジデント、2011年ソフトウェア事業部長、2013年社会イノベーション・プロジェクト本部・ソリューション推進本部長、2016年制御プラットフォーム統括本部長(大みか事業所長)、2018年執行役常務、産業・流通ビジネスユニットCEO、2021年執行役専務、サービス&プラットフォームビジネスユニットCEO、日立ヴァンタラ社取締役会長に就任。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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