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北海道日本ハムファイターズ監督を経て、野球日本代表“侍ジャパン”の指揮を任された名将・栗山英樹氏。そして栗山氏の大ファンでスポーツをこよなく愛する日立製作所 執行役専務 阿部淳の対談。第3回のテーマはチーム力の向上について。

「第1回:一人ひとりに100%尽くせば、チームは必ず強くなる」はこちら>
「第2回:世界に挑む日本の強み」はこちら>
「第3回:これからのチーム力は、いかに早く失敗をするか」
「第4回:野球が可視化したデジタル社会」はこちら>
「第5回:子どもたちが安心して野球ができる社会」はこちら>

全員が自分事と考えているチームは強い

阿部
日立には創業者が決めた創業の精神、「和」「誠」「開拓者精神」があります。このうち「和」はチームワークを指しますが、単に仲良くやろう、というのとはずいぶん違って、「言うべきことはちゃんと言おう」とオープンな議論を是とする文化です。そして、最後に結論が出たら、全員が同じ方向を向いて取り組むというものです。

プロ野球チームを率いてこられたこれまでのご経験から、チーム力を高めるためにはどんなことが必要だとお考えですか。

栗山
そうですね、チーム力に関して言えば、選手一人ひとりが「ファイターズは自分のチームだ」と思えるようになるとチーム力が底上げされる。それは実感としてあります。そういう意識があるのとないのとでは当然意欲も熱意も違ってきますし、一人でも多くの選手がチームを自分事だと思えるようになると、チーム全体として同じ方向に向かっている感覚が生まれるのです。

阿部
チームスポーツということでは、私は学生時代に高校、大学とボート部の経験があります。野球に比べると極めてマイナーなスポーツです。

栗山
そうですか。ボートって確かとてつもなく体力を使うのですよね。

阿部
はい、通常の試合は2,000メートルなのですが、スタート地点ではいつも「ああ、またここに来ちゃったか……」と、後悔したものです(笑)。練習もきついのですが、それ以上に試合がきつい。先ほどの栗山さんの言葉ではありませんが、ボート競技は文字どおり「チームとして同じ方向に向かう」競技ですし、誰か一人でも手を抜くとボートはまっすぐ前に進んでくれないわけですから。

栗山
そういう意味で、ボート競技もかなり濃密なチーム力が問われますよね。

阿部
そうですね。個々人の体力や持久力が高くても、全員の体の動きやオールの出し入れがぴったり合わないと、船のバランスが崩れ、ブレーキになってボートが速く進まないのです。そこがこのスポーツの面白いところで、漕手8人いたら8人全員の気持ちが合わないといけませんが、それは日々の練習で積み重ねることでしか得られないものなのです。

栗山
やっぱりそうなのですね。チームというのは、何でも同じですね。

画像: 全員が自分事と考えているチームは強い

デジタル社会では、「早い失敗」を受け入れるチームが強い

阿部
私たちの事業について少しお話しさせていただくと、これまでのようにひとつのチーム、つまり鉄道事業は鉄道のチームだけ、電力事業は電力のチームだけでやっていた時代はもう過去のものになりました。社会情勢や事業環境、テクノロジーのめまぐるしい変化の中で、お客さまや社会全体に価値を提供していくためには、そこにデジタルの力が不可欠だからです。

つまりこれからは、鉄道とデジタルとか、エネルギーとデジタルとか、製造業とデジタルとか、そうした組み合わせが新しい価値を生み出す原動力になります。そしてそのためには、新しいチームワークが必要です。それは社内のみならず、お客さまとのチームワークに広がっています。私たちはこれを「協創」と呼んでいます。

栗山
日本の鉄道はいつも時間どおりに電車が来るし、もう十分すばらしいと思うのですが、デジタルが加わることでさらにどんな価値が生まれるのでしょうか。

阿部
例えば、定刻どおり5分おきに必ず電車が到着するのは便利には違いありませんが、乗客の多寡によらず同じことをやるのはエネルギーの無駄遣いですよね。そこにITやデジタルの力を用いることで、乗客が多ければ5分おき、反対に少なくなったら15分おきに自動的に間引く、といったことで利便性を大きく落とさずに省エネルギーにつなげるといった柔軟で効率的な運行ができるようになります。

日立は、長年にわたって家電から産業機器や電力設備などの社会インフラまで幅広いハードウェアプロダクト事業を手がけてきました。さらに制御技術やITがあり、そこにAIなど最新のデジタル技術の新しい組み合わせで、近年はお客さまと一緒に新しい価値を創出しています。その中で「日立らしさ」をつくっていきたいですし、そのための新しいチームワークがグローバルな舞台でいくつも動き始めているところです。

栗山
それで先ほどのような海外の会社が新たにグループに加わっているのですね。

阿部
おっしゃるとおりです。ちなみに先ほどお話ししたグローバルロジック社には「早く失敗しよう」という言葉があります。

栗山
え、失敗してもいいのですか。

画像: デジタル社会では、「早い失敗」を受け入れるチームが強い

阿部
はい。失敗しないこととAgility、つまり機敏性はトレードオフの関係にあると思っています。失敗しないことにこだわるとスピードが失われ、スピードを優先し過ぎると失敗を招くリスクがあります。もちろん、私たちの製品やサービスの品質に関わる部分は日立ブランドの根幹ですから慎重に進めなくてはいけません。一方で、新しいアイデアや事業、サービスを生み出すときに失敗は付きものです。

普通、人は失敗を避けようとしますよね。特に優秀な人ほど失敗を避けようとして、がむしゃらに進むより、いかに失敗しないかにとらわれてしまう。しかし正解が簡単には見つからない今の時代にあって、失敗を恐れていてはいつまでも前に進めないし、新しい価値を生み出すこともできません。反対に失敗と向き合うことで、だんだん正解に近づいていける。もちろんそのためには、組織にも失敗を許容する文化が求められるということなのです。

栗山
「早く失敗しよう」って、すごくいい表現ですね。ちょっと刺さりました。選手に「早く失敗しろ」と言ってあげられたら、すごくプラスになりそうです。自分のプレーや練習について方向性が合っているのか間違っているのか、迷っている選手も早く失敗してしまえば前に進めるわけですしね。(第4回へつづく)

「第4回:野球が可視化したデジタル社会」はこちら>

画像1: 野球が楽しめる安心・安全な社会を、デジタルの力で未来へ
【第3回】これからのチーム力は、いかに早く失敗をするか

栗山 英樹(Hideki Kuriyama)
1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、1984年にヤクルトスワローズに入団。1989年ゴールデングラブ賞を獲得。1990年に現役を引退した後は解説者として活躍するかたわら少年野球の普及に努め、2002年には名字と同じ町名の北海道栗山町に同町の町民らと協力して少年野球場「栗の樹ファーム」を開設。2004年からは白鷗大学でスポーツメディア論などの講義を担当した後、2012年からは北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを2度のリーグ優勝に導き、2016年には日本一に輝く。2021年、野球日本代表監督に就任。現在、北海道日本ハムファイターズプロフェッサー。

画像2: 野球が楽しめる安心・安全な社会を、デジタルの力で未来へ
【第3回】これからのチーム力は、いかに早く失敗をするか

阿部 淳(Jun Abe)
1984年、株式会社 日立製作所入社、2001年ソフトウェア事業部DB設計部長、2007年日立データシステムズ社シニアバイスプレジデント、2011年ソフトウェア事業部長、2013年社会イノベーション・プロジェクト本部・ソリューション推進本部長、2016年制御プラットフォーム統括本部長(大みか事業所長)、2018年執行役常務、産業・流通ビジネスユニットCEO、2021年執行役専務、サービス&プラットフォームビジネスユニットCEO、日立ヴァンタラ社取締役会長に就任。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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