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日立製作所 研究開発グループ 影広達彦/株式会社インフォバーン 代表取締役会長 小林弘人氏
2021年10月26日に配信された、日立の研究開発グループによるウェビナー「問いからはじめるイノベーション―社会トランジションとAI」では、AIのガバナンスに着目。メディアの第一線に立ち、黎明期からAIを見てきた株式会社インフォバーンの小林弘人氏を招き、研究者としてAIの開発に長年携わってきた日立の影広(かげひろ)達彦との対談を行った。その様子を3回にわたってお送りする。

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「第1回:AIで社会システムはどう変わるのか?(前篇)」
「第2回:AIで社会システムはどう変わるのか?(後篇)」はこちら>
「第3回:サイバー空間と現実世界の非対称性をどう扱うのか?」はこちら>

AIとの最初の接点は、鉄腕アトムと郵便番号

丸山
対談のナビゲーターを務めさせていただく、日立製作所 研究開発グループの丸山幸伸です。本日のテーマは「AIはサイバー空間と現実世界をつなげられるのか」。ご登場いただくのは、先端テクノロジーと社会の関わりをメディアの最前線で捉え、論じてこられた株式会社インフォバーンの小林弘人さん。そして、研究者としてAIの開発に携わってきた日立の影広達彦です。

画像: 左から日立製作所の影広達彦、ナビゲーターの丸山幸伸、インフォバーンの小林弘人氏。対談はインフォバーン社のオフィスにて行われた。

左から日立製作所の影広達彦、ナビゲーターの丸山幸伸、インフォバーンの小林弘人氏。対談はインフォバーン社のオフィスにて行われた。

小林
インフォバーンの共同創業者で、現在代表取締役会長を務めている小林です。わたしはもともと、創業前の1994年にアメリカ発のテックカルチャー・メディア「WIRED」の日本版を立ち上げ、その編集長をしていました。いわばインターネットの黎明期、当時「デジタル革命」と呼ばれていた世の中の動きをレポートしていました。企業のデジタルコミュニケーションを支援するために起業したインフォバーンは現在、オンラインメディアとコマースを運営するグループ会社をもち、そこでは「ギズモード・ジャパン」や「Business Insider Japan」といったオンラインメディアに注力しています。一方、わたし自身はここ10年以上、企業や自治体のイノベーションのお手伝いをしています。その一環で、2016年からベルリンのテック・カンファレンスTOA(Tech Open Air)の日本公式パートナーも務めています。

影広
日立製作所 研究開発グループの先端AIイノベーションセンタ長を務めている影広です。わたしは1994年に日立に入社し、主に画像処理や画像認識、パターン認識、機械学習といった技術の研究開発に携わってきました。

丸山
お二人にとって、AIとの最初の関わりはどのようなものでしたか。

小林
「WIRED」の取材で、のちに「AIの父」と呼ばれるマービン・ミンスキー氏(※1)や、彼の後進で並列分散処理(※2)を研究していたダニエル・ヒリス氏といった方々に直接お話を伺う機会がありました。まさにAIの黎明期のことです。当時、ミンスキーさんに「鉄腕アトムみたいなロボットを実際に作れる時代が来るのでしょうか?」と質問したところ、「そんなものできるわけありません」と。「とにかく、AIに常識を教え込むのが大変なのです。“常識データベース”が必要です」と話されていたのをよく憶えています。

※1 Marvin Lee Minsky(1927―2016)。アメリカ合衆国のコンピューター科学者・認知科学者。
※2 コンピューターにおいて特定の処理をいくつかの独立した小さな処理に細分化し、複数の処理装置(プロセッサ)上でそれぞれの処理を同時に実行させること。

画像1: AIとの最初の接点は、鉄腕アトムと郵便番号

影広
日立に入社して間もない頃、郵便番号が5桁から7桁に増えることにともない、当時の郵政省が郵便区分機をOCR(Optical Character Recognition:光学文字認識)で郵便物の宛先を読み取る新型区分機と入れ替えることになり、そのプロジェクトで認識アルゴリズムを研究したのがわたしと企業におけるAIとの最初の接点でした。その後、印字されたURLをカメラで撮影して文字認識し、そのリンク先にアクセスするという技術を、当時インタフェース技術のコンセプト開発をしていたデザイナーの丸山と一緒に研究して、プロトタイプを作るところまで行きました。まだ、携帯電話の「写メール」もない時代に、カメラをセンサーにして文字の入力支援をする提案でした。

画像2: AIとの最初の接点は、鉄腕アトムと郵便番号

「AI対AI」という構図

丸山
そんなバックグラウンドをお持ちのお二人に、1つめの問いを投げかけたいと思います。「AIが人々の生活に入り込んでいる今、社会システムはどう変わるのか?」。社会システムと聞くと鉄道やエネルギーといったインフラの設備に目が行きがちですが、実際にはジャーナリズムや租税、法律といった要素も含めた大きな社会の営みとしての「系」を指すものだと思います。小林さん、いかがでしょうか。

小林
まずご紹介したいのが、Automated Insightsという会社が開発した、データから自動で記事を生成するライティングエンジン「Wordsmith」です。もともと想定されていた用途は、投資信託の運用会社が顧客一人ひとりに対し毎月送付していた収益・損益レポートを自動で作成・送信することでした。データを入力すれば、人間が書いたものにある程度近いクオリティの記事を自動で作成できるため、アメリカではスポーツの試合結果や企業の株価の推移といった簡単なWebニュースの記事作成に使われています。

このほか、記事だけでなく見出しのレコメンドや、Webサイトのコンセプトを記述してくれるものも出てきています。例えば、Wordflow AI Articles というWebサイトの記事は全部、Wordflow AIというライティングエンジンが書いたものなのですが、実はどれもフェイクニュースなのです。

こうしたライティングエンジンが登場する一方で、近年、AIが書いたニュース記事をフェイクなのか事実なのか分析するAIも生まれています。少なくともジャーナルの世界は、いずれ「AI対AI」の時代に突入していくのではないかと感じています。

影広
「AI対AI」の構図は画像認識の世界でも起きています。GAN(Generative Adversarial Networks)、つまり敵対的生成ネットワークといって、一方のAIには本物と同じような画像を作らせ、もう一方のAIにそれを見破らせるという学習を繰り返すアルゴリズムの登場です。すでにいろいろな分野で使われ出しており、AI対AIの構図はこれからどんどん広がっていくと思います。(第2回へつづく)

「第2回:AIで社会システムはどう変わるのか?(後篇)」はこちら>

画像1: 社会トランジションとAI-Vol.2 AIはサイバー空間と現実世界をつなげられるのか。
【その1】AIで社会システムはどう変わるのか?(前篇)

小林 弘人(こばやし ひろと)
株式会社インフォバーン 共同創業者・代表取締役 会長(CVO)。「ワイアード・ジャパン」「ギズモード・ジャパン」など、紙とWebの両分野で多くの媒体を創刊。1998年に企業のデジタル・コミュニケーションを支援する会社インフォバーンを起業し、コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として活動。現在、企業や自治体のDXやイノベーション推進を支援している。主な著書に『AFTER GAFA 分散化する世界の未来地図』(カドカワ)、『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、監修・解説書に『フリー』『シェア』『パブリック』(NHK出版)ほか多数。

画像2: 社会トランジションとAI-Vol.2 AIはサイバー空間と現実世界をつなげられるのか。
【その1】AIで社会システムはどう変わるのか?(前篇)

影広 達彦(かげひろ たつひこ)
日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ長。博士(工学)。
専門は画像処理認識、パターン認識、機械学習。日立製作所入社。2005年、University of Surrey にて客員研究員。その後、中央研究所にて映像監視システムや産業向けメディア処理技術の研究開発をとりまとめ、2015年から社会イノベーション協創統括本部にてヒューマノイドロボットEMIEWの事業化に携わる。2017年にメディア知能処理研究部長、2020年より現職。筑波大学大学院グローバル教育院エンパワーメント情報学客員准教授、情報処理学会会員、電子情報通信学会会員。

画像3: 社会トランジションとAI-Vol.2 AIはサイバー空間と現実世界をつなげられるのか。
【その1】AIで社会システムはどう変わるのか?(前篇)

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

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