SFプロトタイピングの研究で知られる筑波大学の大澤博隆助教と、日立 研究開発グループのデジタル技術研究を牽引する西澤格による対談。最終回では、社会システムとAIの関係の今後の行方や、その中でSFプロトタイピングのように皆で未来への思索を深める手法が果たす役割について語られた。

「第1回:AIが人間の暮らしにもたらす問題とは?」はこちら>
「第2回:『SFプロトタイピング』をイノベーションにつなげるには?」はこちら>
「第3回:社会システムとAIのこれからの関係は?」

SFが、人々の想像力をつなげるキーになる

丸山
本日の対談、最後のトピックは「社会システムとAIの関係は今後どうなっていくのか」。いわゆるVUCA(※)な未来に向けて我々人類がAIと付き合っていく上で、大澤さんが提唱されているSFプロトタイピングがおそらく大きな役割を担うのではと思います。いかがですか。

※ Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧模糊)の頭文字を取った、先行きの見えない社会情勢を示すビジネス用語。1990年代に軍事用語としてアメリカで生まれた。

大澤
ええ。やはり、未来とは予測するものではなく、みんなで創るものだと思います。「未来はこうなるだろうな」ではなく「こんな未来にしたい」という発想に切り替わることがとても大事で、それを考える材料としてSFは最適です。もちろんSFにはポジティブな未来だけではなく反面教師的な未来が描かれていることもありますが、それを1つのメタファーと捉えれば、新たな発想のヒントにできるのではないでしょうか。

画像: SFが、人々の想像力をつなげるキーになる

社会システムの中にAIが入ってくると、人間の思考を補佐する形で自動化が行われるでしょうし、社会が予測不能になってくるという側面は間違いなくあるでしょう。そのときに必要なのは、我々自身がどうしたいのかを、コミュニティや社会といった単位で考えることです。企業もそれと同じで、社内だけでなく顧客も含めて、AIをどう社会に活かしていくかを考える必要があります。そのコミュニケーションの手段として、SFを人々の想像力をつなげるキーにしていけたらと考えています。

日本はそれができる国だと思いますし、とても優れたフィクションがたくさんあります。ぜひその力をうまく使って、より望ましい未来を創るための思考の材料にしていただきたいと思います。

怖い存在としてのAI、良き存在としてのAI

西澤
今日のお話で「シナリオ」というワードが何度か出てきました。それで思い起こしたのが、一橋ビジネススクール教授の楠木建氏の著書『ストーリーとしての競争戦略』です。優れた戦略とは、思わず人に話したくなってしまうくらい、まずは自分自身が面白いと思えるストーリーだと。いろいろな人を巻き込んで大きなプロジェクトを動かすには、みんなが共感できる魅力的なストーリーが必要です。SFプロトタイピングで未来像を考える際に、一人ひとりが独創的なシナリオを持ち寄って意見をぶつけ合うことで、より良い未来の実現に少しでも近づけるのではないかと、お話を伺って思いました。

画像: 怖い存在としてのAI、良き存在としてのAI

今、AIは実社会のいろいろな場面にようやく入り始めた段階です。一方で、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が著書『ホモ・デウス』で指摘しているように、AIは人間にとって非常に怖い存在であり、いずれ人間に災いをもたらす可能性もあるのではないかという懸念も一方ではあります。しかし、そこにとらわれすぎると、AIを活用してイノベーションを起こすにもおそるおそる取り組むことになるでしょう。冒頭で大澤さんがご指摘されたAIの公平性を、いかに保つか。今後、それがますます重要になるのではないでしょうか。

わたしが最近読んだカズオ・イシグロ氏の小説『クララとお日さま』に、裕福な家庭で子どもの相手をするAIロボットが登場します。非常に人間観察を得意としている上、その子をいかにして幸せにするか、健康にするかをとてもよく考えているのです。このAIが、人間を超越した高潔な魂を持った存在のようにわたしには映りました。良き存在としてのAIを実現できる未来がフィクションの中で示されていることに、とても勇気づけられたのです。人類がAIを活用し、良き方向に向かっていけるような研究開発のあり方を我々も模索していきたいと思います。

丸山
ブレイクスルーを起こす1つの手段として、SFプロトタイピングを我々日立の研究開発にも取り入れていきたいですし、最後に西澤が触れたように、ディストピアを考慮しながらもユートピアに近づけるよう進んでいく。そういったプロトタイピングを続けていければと思います。お二人とも、本日はありがとうございました。

画像1: 社会トランジションとAI-Vol.1 未来を思索するための「SFプロトタイピング」
【その3】社会システムとAIのこれからの関係は?

大澤 博隆(おおさわ ひろたか)
1982年生まれ。筑波大学システム情報系助教・HAI(Human-Agent Interaction)研究室主宰者、日本SF作家クラブ理事、工学博士(慶應義塾大学)。専門はヒューマンエージェントインタラクションおよび社会的知能。JST RISTEX HITEプログラム「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」リーダー。共著に『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』『人狼知能──だます・見破る・説得する人工知能』『人とロボットの〈間〉をデザインする』『AIと人類は共存できるか?』『信頼を考える──リヴァイアサンから人工知能まで』、監修に『SF思考:ビジネスと自分の未来を考えるスキル』など。

画像2: 社会トランジションとAI-Vol.1 未来を思索するための「SFプロトタイピング」
【その3】社会システムとAIのこれからの関係は?

西澤 格(にしざわ いたる)
日立製作所 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 副統括本部長。工学博士(東京大学)、技術士(情報工学部門)。日立製作所に入社後、中央研究所にてミドルウェアシステムの研究開発に従事。金融分野の顧客協創プロジェクト、AIやデータサイエンスなどの研究を牽引し、2020年より現職。2002~2003年、スタンフォード大学コンピューターサイエンス専攻 客員研究員。2018年、ハーバードビジネススクールAdvanced Management Program修了。ACM、情報処理学会、電子情報通信学会各会員。

画像3: 社会トランジションとAI-Vol.1 未来を思索するための「SFプロトタイピング」
【その3】社会システムとAIのこれからの関係は?

ナビゲーター 丸山 幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

Linking Society

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※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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