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多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授 紺野 登氏/日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長 森 正勝
目的工学によるイノベーションを提唱している多摩大学大学院教授の紺野登氏をゲストに招き、日立の研究開発グループが2021年6月8日に配信した「協創の森ウェビナー 問いからはじめるイノベーション」。最終回では環境問題をテーマに、企業がとるべき行動について語っていただいた。

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「第1回:社会イノベーションとは何か?(前篇)」はこちら>
「第2回:社会イノベーションとは何か?(後篇)」はこちら>
「第3回:パーパスとは何か?」はこちら>

環境革命の時代に求められる、「トランジション」マネジメント

――我々が今向き合わなくてはいけない問題の1つに、環境問題があります。それは、世界の将来像を思い描ければよいというものではなく、問題解決に向けたさまざまなパスウェイ(道筋)があるのかもしれません。お二人から何か示唆をいただければと思います。

紺野
以前、日立さんが「トランジション(transition:転換)」というキーワードで環境問題に取り組まれているというお話を伺ったことがあります。トランジションは非常に大事です。ただ、環境革命を起こすには、システムを既存のAから新しいBにシフトさせるという単純なトランジションではなく、システムAを残しながら一方でBを新たに立ち上げるといったように、複雑な状況が世界で続くかもしれません。

となると、トランジションを促進するだけではなく、マネジメントすることが大事になります。システムを変える目的は何なのか、もしシステムに不具合が起きたらどうなるかなど、いわばシナリオを考えるように目的を設定することが、トランジションのマネジメントにつながるのではないかというイメージを持っています。

画像1: 環境革命の時代に求められる、「トランジション」マネジメント


おっしゃるとおりだと思います。2050年にカーボンゼロ(温暖化ガス排出を実質ゼロにすること)を達成するためには、2040年にはどういう状況でなくてはいけない、そのためには2030年には何をすべきかというようにバックキャスティングで考えていかなくてはいけないと近年言われています。その中で、確からしい未来をつくるにはどうすべきかを考えたとき、例えば、いろいろな経済予測と人々の価値観を組み合わせながらトランジションのシナリオを設定するというチャレンジに我々は取り組んでいます。

ただ、すべてがシナリオどおりにはいかないでしょうし、地域によって取り組み方も違ってくると思います。地域の状況に応じたソリューションを適用しつつ、カーボンゼロというゴールはブレないといった全体のマネジメントが、我々にとってのチャレンジかなと思っています。日立が生み出したトランジションのアイデアを叩き台にしていただいて、どんな大目的を設定すべきかステークホルダーの皆さんと一緒に考え、それに合わせて小目的や中目的を設定するといった取り組みを行っています。

画像2: 環境革命の時代に求められる、「トランジション」マネジメント

ストーリーからナラティブへ

紺野
最近、マーケティングの専門家の方々がおっしゃっていて面白いなと思ったのが、「ストーリーからナラティブへ」。narrativeには、話術や語り口という意味があります。つまり、既存の成功例を分析してエッセンスを過去のストーリーに当てはめようとしてもうまくいきません。個々別々の、時々刻々の状況に合わせてナラティブに、すなわち、「今ここで」語っていく力がこれからは必要だと。これも1つのデザイン力だと思うのです。

そして大事なのが、これまで何度も申し上げてきました大目的を意識しながら語り、実践していくことです。おそらく日立さんもそれをなさろうとしているのではと察します。


そのとおりです。わたしが所属している研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部には、デザイナーや研究者といった、ある意味、非常に思いの強い社員が多く在籍しています。そういう人たちが社会に対して問いを投げかけるということを、まさにナラティブな形で発信していけたらなと思っています。

紺野
日立さんの取り組みは日本の産業にとって1つのベンチマークです。ぜひ今後も注視させていただきます。

――先進の技術でソリューションをつくるだけでは駄目で、きれいなビジョンだけ描いて動かないモノをつくるだけでも駄目だと。どう社会を変えていくのかを皆さんと一緒に考え、問うて、実践していくことが大切だということを痛感しました。お二人ともたいへん興味深いお話、ありがとうございました。

画像1: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その4】企業は環境問題にどう取り組むべきか?

紺野 登(こんの のぼる)
多摩大学大学院 経営情報学研究科 教授。一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)Chairperson理事、一般社団法人フューチャーセンター・アライアンス・ジャパン(FCAJ)代表理事、エコシスラボ株式会社代表。早稲田大学理工学部建築学科卒業、博士(経営情報学)。デザイン経営や知識創造経営、目的工学、イノベーション経営などのコンセプトを広めたほか、組織や社会の知識生態学をテーマにリーダーシップ教育や組織変革、ワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。また、FCAJやトポス会議などを通じてイノベーションの場や世界の識者のネットワーキング活動を行っている。2004年〜2012年グッドデザイン賞審査員(デザインマネジメント領域)。著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、『知識デザイン企業』、『知識創造経営のプリンシプル』(野中郁次郎氏との共著)など多数。

画像2: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その4】企業は環境問題にどう取り組むべきか?

森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。

画像3: 問いからはじめるイノベーション-Vol.1 パーパスと社会イノベーション事業
【その4】企業は環境問題にどう取り組むべきか?

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

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