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2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われ、楠木建教授が22名の参加者一人ひとりからの質問に応じた。今回お届けするのは、「組織」に関する質疑応答。参加者がそれぞれの職場で抱える悩みや疑問に、楠木教授が明快な回答を示していく。

「第1回:経営について。」はこちら>

Q:ジョブ型雇用へのシフトは不可逆的な変化になりうるか?

――わたしは製造業で資材購買という仕事をしています。入社3年目です。ずばり、近年叫ばれているジョブ型雇用について質問です。日本ではこれまで人に仕事を割り当てるメンバーシップ型雇用だったわけですが、これからは仕事に人を割り当てるジョブ型雇用にシフトしていくというニュースが注目されています。

それで自分でも調べてみたのですが、30年前、いや50年前の時点ですでに「日本型雇用は限界だ」みたいな議論があったそうです。ただ一方で、昨今はコロナ禍の影響でテレワークの導入が進んだという事情もあって、ジョブ型へのシフトは不可逆的な変化につながるのかもしれないなとも思うのですが、楠木先生のお考えはいかがでしょうか。

楠木
これはよくある話なんですけど、ジョブ型雇用と言っても具体的に自分の会社では何を意味するのか、ここが大事だと思います。それをきちんと定義しないと、ジョブ型とかメンバーシップ型といった単なるカテゴリーの名称に惑わされてしまいます。

つまり、経営はいつも特殊解なんですよ。一般的な解はない。特殊解なので、ひと口にジョブ型と言っても会社によってその意味が全然違ったりするものです。ジョブ型なんて言葉は使わずに、「うちはこれからこういう雇用でいく」と言えばいいだけだと思うんですよね。

――わたしの会社の場合、仕事と個人のスキルを定義して、マッチングしやすくしましょうというやり方になるそうです。楠木先生はいろいろな会社を長年ご覧になっていると思いますが、こういう制度はよくあるものなんでしょうか。うまくいくのでしょうか。

楠木
それはジョブ型かメンバーシップ型かという問題ではなくて、単純に経営の上手い・下手です。ジョブ型雇用がアメリカでは多いと言われていますが、マッチングが全然うまくいっていなくて離職率がとんでもなく高い会社は山ほどあります。それは経営の質の問題だと思いますね。

実際、脱日本型雇用とか脱日本型経営とか、日本的経営は駄目だとか言われ続けて、もうすでに50年になります。50年も揺らぎ続けられる日本的経営って、どれだけ盤石なんですか。それもこれも、日本型経営なんてそもそもどこにもないのです。それぞれの会社の経営があるだけです。

画像: オンラインミーティング『楠木建の一問一答』
その2 組織について。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第3回:センスと発想について。」はこちら>

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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