2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われ、楠木建教授が22名の参加者一人ひとりからの質問に応じた。今回お届けするのは、「組織」に関する質疑応答。参加者がそれぞれの職場で抱える悩みや疑問に、楠木教授が明快な回答を示していく。

「第1回:経営について。」はこちら>

Q:リーダーの素質は生まれつきであり、育成できないのでは?

――入社3年目のSEです。以前、楠木先生がEFOで書かれていた『組織の中のチーム力』というお話を読んで、思ったことがあります。確かにチーム力を高めることによって強い組織が作り上げられていくのはなんとなく理解できるのですが、そもそも、そのチームのよさに気づける「組織のトップ」を決めるやり方が、これまでと同じではもう駄目なのではないかと感じています。

わたしの会社では、優秀なチームのリーダーの中から1人を選んで組織のトップにするケースが続いてきました。特定の事業で突出した成果を上げた社員が会社を引っ張っていくという感じで、これまではうまくいっていました。でも今の時代は、異なるチーム同士をつないで新しいものを生み出していくことが求められています。特定の分野に詳しい人ではなく、カリスマというか、人々を導くのが得意な人こそ組織のトップになるべきではないかと思います。

そこでわたしが内心思うのは、導くのが得意な人というのは生まれつき器が決まっているのではないか、と。企業の教育制度では凌駕できないセンスが、そういう人には備わっているのではないかと思います。中国の項羽(※1)と劉邦(※2)の逸話にある「兵の器」「兵の将たる器」「将の将たる器」のように、人間は元来器が決まっているはずです。もし、項羽にリーダー教育を施したとしても、国のトップに立つようなリーダーにはなれなかったとわたしは思うのですが、リーダーに求められる能力というかセンスを磨くことは可能なのでしょうか?

※1 中国の秦末期の楚の武将。秦を滅ぼしたのち劉邦と天下を争い、敗れた。
※2 中国・前漢の初代皇帝。

画像: Q:リーダーの素質は生まれつきであり、育成できないのでは?

楠木
おっしゃることはわかります。ただ1つの救いは、おっしゃるような意味でのリーダーはそんなにたくさん要りません。何十人か100人に、1人いればいい。それで、そういう人がなぜリーダーなのかというと、フォロワーがいるからです。フォロワーがそのリーダーの何をフォローしているのかというと、その人が持つ権限や人事権や予算の権限、あるいは人格といったことではなくて、「この人についていくと何かいいことありそうだな」と思わせられるからです。それが、質問者様がおっしゃる「器」だと思います。

――わたしは「よいチームを選べること」がリーダーの資質だと思っていたのですが、そうではなく、「よいチームが勝手にリーダーについてくる」という理解で合っていますか。

楠木
そうです。「俺はリーダーだ」と言っても、だれからもフォローされてなかったらリーダーとは呼べません。あくまで結果的に現れるのがリーダーです。

画像: オンラインミーティング『楠木建の一問一答』
その2 組織について。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第3回:センスと発想について。」はこちら>

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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