「第1回:企業の連鎖で、未解決の社会課題に立ち向かう」はこちら>
「第2回:ブロックチェーンで解決する、引っ越し・相続・基地局の困りごと」はこちら>
「第3回:NEXCHAIN参画企業の『危機感』」はこちら>
自社単独でのイノベーションに感じた限界
齊藤(日立)
では、なぜ今オープンイノベーションを必要としているのか、あるいはオープンイノベーションに向け各社でどんな取り組みがなされてきたのか、引き続き皆さまにお聞きしていきたいと思います。
市川(損保ジャパン)
損保ジャパンでは4年ほど前にデジタル戦略部を設立し、インシュアテック(※1)をはじめとする新しい技術の積極活用を進めてまいりました。この取り組みの中でわかってきたのは、やはり当社単独で新しいビジネスを始めようとしても、オリジナリティがなかなか出せないことです。お客さまが「お金を払ってでも欲しい」と思ってくださるような魅力的なサービスを、当社だけではなかなか創れないことに気づいてきたというのが正直なところです。
※1 保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。経済産業省が2017年5月に公開した「FinTech ビジョン」では「保険分野における FinTech」と定義されている。
大森(東京ガス)
弊社では、ご契約いただいている各家庭がどんなガス機器をお持ちなのか、データで管理しています。ただ、このデータだけを活用しても新しいサービスのご提供に結びつかないのが実情です。そこで、株式会社トライグルさまが提供されている「トリセツ」というスマホアプリと、弊社が持つガス機器のデータを連携させていただいています。どこのご家庭にも家電や設備の取扱説明書がたくさんあると思いますが、紙なのでかさばりますし、いざ必要となったときになかなか見つからないといったことがよくありますよね。この「トリセツ」なら、お持ちの家電の型番を登録するだけで、取扱説明書のPDFをメーカーのサイトからダウンロードしてアプリに保存してくれるので、必要なときに手軽に説明書を閲覧することができます。今のところは手入力での登録がこのアプリの通常の使用方法なのですが、ガス機器については各家庭の型番を弊社が把握しているので、東京ガスのアカウントとトリセツのアカウントを連携していただけば手入力の必要がありません。
というように、東京ガスだけでは活用できないデータやアセットを活かせる場が広がることを、オープンイノベーションに期待しています。
橋本(ゆうちょ銀行)
弊行でも、やはり銀行業という限られた範囲の中で新たなサービスを生み出すのが難しくなってきたと感じています。日本においては今やどなたでも金融サービスを受けられる状況にあり、「新しいサービスのおかげで利便性がすごく上がった!」とお客さまに喜ばれる機会をなかなか生み出せておらず、閉塞感を覚えております。
それを打破するために、弊行とは違う業種の方に会うことで、「お客さまの生活全般をもっと広い目で見たい」という思いがあります。口座をつくったり、送金や支払いをしたりといった銀行業の分野の前後で、お客さまの生活にどんなことが起こっているのか。そこに目を向けて、お客さまのお困りごとや、価値を感じていただけそうなことを発見する。それがまさしく皆さまとオープンイノベーションに取り組んでいくことの意味合いかなと考えていますし、市川さまと大森さまのお話を聞いてその可能性を感じたところでございます。
煩雑な引っ越し手続きからの脱却
齊藤(日立)
ユーザーの利便性の向上については、どの参画企業さまからも「NEXCHAINで重点的に検討させてほしい」という声をいただいています。ユーザーフレンドリーなサービスをどうやって創っていくのかを議論する場として、NEXCHAINでは今、検討テーマごとにワーキンググループが立ち上がっております。ここからは、本日ご登壇いただいている企業さまが関心を持たれている検討テーマについてお話しいただき、議論を深めていきたいと思います。
市川(損保ジャパン)
今、当社が手を挙げさせていただいている検討テーマに「引っ越し手続きのワンストップ化」があります。保険プロバイダーという立場でもある当社にとって、このテーマはまさにUX(※2)やCX(※3)向上の中心です。
※2 UX:User Experience。製品やサービスを通じて顧客が得られる体験の総称。
※3 CX:Customer Experience。顧客体験。
新しい住居の賃貸契約を結ぶと、次に必ず家財道具に対して火災保険を掛けますよね。そこに大家さま向けの賠償保険もセットになっていて、それぞれ紙書類で契約をしていただく。そうすると、賃貸の契約で何回もサインして、同じ住所、名前を書いて、さらに保険の書類も書かなくてはいけない。この煩雑な慣習から脱却したいという思いが当社にはあります。同じ手続きを何度も何度もやらされるのは、お客さまにとって負担でしかありません。この一連の手間をワンストップ化することに、当社としてご協力できる可能性があるのではなかろうかと考えています。
大森(東京ガス)
弊社も「引っ越し手続きのワンストップ化」分科会に参加させていただきたいなと思っております。わたし自身も今年の2月に引っ越したのですが、電気・ガス・水道・通信・郵便局、いろいろな機関に対して手続きを行うのはやはり面倒だと感じました。
これが解決できれば社会的にも価値のあることですし、東京ガスとしても参加のメリットは大きいです。通常、お客さまがどのエネルギー会社を契約するかを決めるのは引っ越し先が決まった後です。しかし、引っ越し手続きのワンストップ化が実現すると、お客さまが内見でどこの物件に引っ越そうか探す段階から、お客さまと接点が持てる可能性があります。
市川(損保ジャパン)
当社がもう1つ手を挙げている検討テーマに「相互利用型オフィスシェア」があります(詳しくは第6回で解説)。
齊藤(日立)
コロナ禍で、多くの方が出社できない日々が続いています。コロナ禍以前は都心にあるオフィスに通勤していたけれども、今は自宅に近い郊外に仕事の拠点が欲しい。そんなニーズが高まっているのではないかという仮説から立ち上がったワーキンググループですね。
市川(損保ジャパン)
これは少し視座の高いテーマだと考えていまして、ウィズコロナ・アフターコロナといった現在の社会情勢も踏まえ、世の中の働き方改革はどうあるべきか、損保会社の枠を超えて真剣に社内で議論しました。結論としては、働き方改革は将来的には地方創生につながっていくのではないか、と。要するに、東京の会社に勤めているからといって、東京で仕事をする必要がなくなってくるかもしれません。そうなると、例えば地方にたくさんある遊休の不動産を使ってテレワークができる環境を提供するといった、新しい付加価値を生み出せるのではないでしょうか。
次回は、各社が持つデータやアセットを活かす場としてのNEXCHAINの可能性について語っていただく。
「第5回:自社ならではのデータとアセットを、オープンに活かす」はこちら>
【イベントレポート公開のお知らせ】NEXCHAINオンラインセミナー「企業間連携の現在地」
2021年3月12日に開催したNEXHCAIN主催オンラインセミナー『企業間連携の現在地』のイベントレポートを公開。
NEXCHAIN取り組みの現在と今後の展望、DXを推進する経団連DXタスクフォース浦川座長のご講演や参画企業様のパネルディスカッションなど、オンラインセミナーの4セッションのアーカイブ映像と各講演内容のエッセンスを紹介。
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