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「第1回:非社交家の友達。」はこちら>
「第2回:友達の反利害性。」はこちら>
「第3回:友達のタイプ。」はこちら>

※本記事は、2020年7月8日時点で書かれた内容となっています。

たまに会っても話をしているだけで面白い。そして、次に会う日が楽しみになる。こういう人が本当の友達だと思います。その2でお話ししたように、友達というのは偶然性、反利害性、超経済性という条件を備えた人間関係ですが、きっかけが仕事でも、事後的に友達になることもたまにはあります。

僕には、年齢はもう70歳くらいになるTさんという先輩にして友達がいます。バイオ系の起業家で、最初は仕事でお目にかかった方なのですが、この人の話がもう最高に面白い。面白過ぎてちょっと危険だな、っていうほど面白いんです。いまは岐阜に住んでいらっしゃるので、そんなに会う機会もないのですが、話をしているだけいつも面白い。で、すぐにまた会いたくなる。そういう人です。

「テロワールの会」という集まりがありました。後述する会の趣旨や内容からして絶対に実名は明かせませんが、メンバーはTさんと僕を含めた4人です。ある機会に、4人で会って食事をしている時、一人の方が話の流れで「実はこれ、今まで誰にも言っていなかったんだけどさ……」という話をしました。それは、普段のその人からは想像もつかない話でして、そこにいた全員がびっくりしました。でもその打ち明け話が、すごく面白かったのです。盛り上がりに盛り上がりました。自分を棚に上げずに、ダークサイドも含めて自分をさらけ出せる人間関係というのは、実に気持ちがイイということに気づきました。

その場で出てきたアイデアで、この集まりを定期的に四半期に一度開催しようということになりました。その時食事をしていたレストランが「テロワール」というお店だったので、「テロワールの会」。毎回当番を決めて、その人が絶対に他では言えないことを白状するという秘密の集いです。ルールは「テロワール」を一歩出たら全部忘れる。そこで聞いたことは、絶対に口外しない。

ということで、みなさんちゃんと社会と折り合いをつけて生きている人たちなのですが、次から次に繰り出される「えー!?そんなことが……」という話を聞くたびに、人間の深さを知らされました。もうあまりに面白くて、終わるとすぐに次の「テロワールの会」が待ち遠しくて仕方ありませんでした。

「テロワールの会」は究極的な友達関係のありようだと思います。「テロワールの会」ができる人が本当の友達です。あまりにもリスキー。本当の友達としての信頼関係がそこで問われることになります。ただ、さすがに1.5周ぐらいで話すネタが尽きまして、「テロワールの会」は自然解散となりました。

こういった僕にとっての数少ない友達は、別に議論をしようという目的で会うわけではないのですが、結果的に自分の生活や仕事にとって大変に意味のある話になっていくことがままあります。好みが全然違っていても一向にかまわない。自分が興味を持ったことや好きなことを話したくなる人、その反応を聞きたくなる人。それが僕の友達です。

実ビジネスや社会では、それがビジネスにつながるとか、ビジネスがやりやすくなるといった目的の人脈はもちろん必要だし、重要だと思います。ただ、それだけではちょっと寂しい。偶然性、反利害性、超経済性でつながった特定少数の友達と長く付き合うというのが僕の理想です。

画像: 友達-その4
テロワールの会。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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