「第1回:非社交家の友達。」はこちら>

※本記事は、2020年7月8日時点で書かれた内容となっています。

人は年を重ねるごとに、新しい友達をつくるのが難しくなっていく。僕よりずっと社交的で友達が多い人でもそういう傾向があるのではないかと思います。

子どもの頃は、学校の友達や近所の友達とか、いろいろな友達が自然とできます。僕は小学校の上級生の時に、それまで過ごしていた南アフリカから日本に戻ってきました。最初の登校の日は、やはり緊張しました。僕が南アフリカで通っていた学校は寺子屋みたいなもので、先生のご自宅にヨハネスブルグの日本人の子どもが集まって、下は小学1年生から上は中学3年生ぐらいまでが一緒になって遊んでいるような学校だったんです。

で、ついに日本に帰国することになりまして、その日本人学校の先生が、「日本に帰るのであれば、みんなと友達になれるように、きちんとご挨拶と自己紹介ができるようにならないといけません」と言われました。この先生が外地で乱れていた僕の日本語を直し、正しい日本語の挨拶を教えてくださいました。

日本の小学校に転校した初日、担任の先生に挨拶するように言われた僕は、先生に教わった通り「このたび、遠くアフリカからこの日本の地に戻って参りました楠木建でございます。みなさまにおかれましては、ひとつよろしくお願い申し上げます」。途端に教室中が爆笑になりました。あまりに笑われるので、これは挨拶の仕方が悪かったのかなと思いまして、「えー、大変失礼いたしました。私はこのたびー」と繰り返すと、さらに大爆笑。先生が教えてくださったのは大人のあいさつで、子どもの会話はアフリカと変わらないということに気づきました。最初から躓きましたが、そこは子どもなのですぐに友達になって遊ぶようになりました。

小学生時代は、あんなに友達がたくさんいたのに、年齢を重ねるにつれて新しく友達になるような人はだんだんと減っていく。ひとつには外的な環境要因があります。仕事を始めると忙しくなる。それから家族ができて子どもが生まれて、ますます忙しくなる。うちもそうなのですが、子どもが出ていって一段落、と思った頃には、今度は親の介護とかが始まる。学生の時より時間が取りにくくなるというのは当然あるわけです。

僕の場合、それよりもっと大きいのは、内的な要因です。年を取れば取るほど自分の趣味、嗜好、興味、関心というものが確立してきます。自分で自分の好みが分かってくる。つまり対人関係のストライクゾーンがどんどん狭くなっていくわけです。「ああ、気が合うな」、子どもだとそれだけですぐに友達関係になることができたのに、大人になると本当に気が合うなと思える人はどうしても少なくなっていきます。

高橋睦郎さんという高名な詩人が、1993年に『友達の作り方』という本を出されています。

僕はこの本を読んだ時に、「これが友達の本質だ」と思ったフレーズがありました。「友達というのは偶然性、反利害性、超経済性という条件を備えた人間関係である」。まったくその通りだと深く共感しました。『友達の作り方』というタイトルなのに、「――という友達の本質からして、友達の作り方なんてものはない」。非常にスカッとした本でした。

例えば小学校のクラスとか大学のゼミというのは、みんな偶然に集まっていてそこに利害はない。友達の本質的な条件を満たす人と会いやすい環境です。考えてみると、そういう場というのは「学校」ぐらいしかないんですね。世の中に出ると、仕事が忙しかったりしてそういう偶然の出会いは格段に減りますし、知り合う人は大体仕事を通じて会うわけですから、利害性や経済性が多少なりともからんでくる。

僕の場合は基本的に一人でやる仕事ですし、そんなに大した利害があるわけでもありませんが、やっぱり仕事だと薄い利害があるんです。そうすると、そもそもの入り口が友達につながらなくなってしまい、ますます友達ができにくくなる。

僕が30歳を過ぎたころに友達になったI君という人がいるのですが、彼と出会ったのは本当に偶然でした。ある日、僕は六本木のマッサージ店でマッサージをしてもらっていました。そのマッサージ店は道路に面した壁がガラス張りになっていまして、ぼんやりと外を見ていましたら、僕の以前からの友達でK君という人がたまたま通ったのです。ちょうどマッサージが終わるタイミングだったので、店を出て追いかけてK君に声をかけた時に、一緒にいたのがI君でした。で、2人が近所のお店に行くのに混ぜてもらいました。

K君は元から友達なので当然なのですが、はじめて会って偶然食事をすることになったI君とも、なぜか一発で驚くほどありとあらゆる点で気が合いました。30代の一時期は、その3人で週に2回は会っていて、いまも仲良くしてもらっています。これも偶然性、反利害性、超経済性という友達の条件を完全に満たしているからこそだと思います。

偶然性、反利害性、超経済性を一言でいうと、要するに「縁」です。偶然とか無意識というものが重なって、ひょんなことから生まれるのが「縁」で、日常生活でこれほどコクがあるものはありません。「縁は異なもの味なもの」とはよく言ったものです。その反対に、明確な目的を持って意図的に人脈作りをする人がいますが、僕はそういう人とは友達になりたくありません。

画像: 友達-その2
友達の反利害性。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

第3回は、9月21日公開予定です。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

This article is a sponsored article by
''.