特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International代表 小暮真久氏 / 株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 課長代理 齊藤紳一郎
TABLE FOR TWO International(TFT)代表の小暮真久氏と、日立の齊藤のブロックチェーン対談最終回。当たり前であって欲しいことが、まだできていない。そんな課題を、ブロックチェーンで解決したいという二人の話は、尽きることなく続いた。

「第1回:連携というチカラ」はこちら>
「第2回:ブロックチェーンへの切実な期待」はこちら>
「第3回:ブロックチェーンの輪をどう広げるか」はこちら>
「第4回:必要なのは、技術ではなくアイデア」はこちら>

技術とビジネスの垣根

齊藤
日本の多くの企業は分業化が進んでいて、ビジネスを推進する部門とIT部門とが別組織になっています。欧米の企業では、ビジネスの企画を立てた部門がITの実装をしていくことが普通に行われています。AIもIoTもブロックチェーンも、それ自体がビジネスの本質ではないので、デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、実ビジネスとの融合が必要です。IT部門は専門組織ゆえに高いパフォーマンスを発揮するという面もありますが、もっとビジネスにリーチすることで、さらに飛躍できるはずです。それをサポートしていければと考えています。

小暮
日本のエンジニアの方というのは、僕の知り合いの人たちでもすごく優秀なのですが、とにかく忙し過ぎると思います。どこも自前で全部システムを作らなければならないとか事情はあるとは思いますが、とにかく忙しいですよね。それと、僕ももともとはエンジニアなので少し憤りを感じるのですが、欧米と比べて報酬が安過ぎると思います。アメリカの会社はあんなにもらえるのに、同じようなスペックの人でも日本だと半分しかもらえない。そうすると、僕が想像するに、なかなか自分のドメイン以外の知見を深めてみようとか、他のビジネスをのぞいてみようとか、そういう欲も時間もなくなっていくのかなと思います。

齊藤
そうかもしれません。IT部門も専門家であることを求められているので、技術以外のことを学ぶのは難しい。でも、少しだけビジネスや外部で起きている事象に興味を持つことができれば、視野も可能性も広がるはずです。たぶんイノベーションというのは、違う観点の人たちが会う接点でしか起きないんです。こっちの業界の常識が、他の業界では「えっ、そんなのアリなの」という話は、きっとたくさんあるはずです。僕はよく納豆スパゲティの例を使いますが、イタリアの食文化と日本の食文化が交わったところで、納豆スパゲティが生まれた。そういう接点をどうやって作っていくのかが、いま動いている企業間情報連携推進コンソーシアムのコンセプトなんです。

画像: 技術とビジネスの垣根

日本で暮らす外国人の課題

小暮
そういう接点でアイデアが出て、課題解決につながるといいですよね。今、日本で暮らしている僕の外国の友人たちも、本当に困っているんです。携帯を借りようとすると、口座が必要だと言われて、口座を作ろうとすると、これこれの書類が必要でという堂々巡りになる。日本で働く意欲は満々なのだけれども、家は借りられない、携帯は持てない、レンタカーは借りられないという何重苦にもなっています。日本の人口動態を考えても、これからますますそういう人たちに頼らざるを得ないのに、今もそんな状況です。こういう課題こそ、ブロックチェーンで何とかならないのですか。

齊藤
それは今ちょうど考えているところで、もうステークホルダーと議論をはじめています。日本が直面しているのは、地方の労働人口が減少しているという課題に対し、それを解決するためには外国人の方に来ていただいて働いてもらう必要があるのにも関わらず、そのハードルが高いというのは明らかに矛盾しています。

今はその課題の解決を絵に落とすところまでは済んでいるので、ステークホルダーの納得が得られれば、新しいユースケースとして世に打ち出せると思います。

小暮
それは面白いですね。

齊藤
ステークホルダーに、どこまで納得していただけるかがサービス化において重要です。外国人に向けたサービスというのは、ユニバーサルサービスであるべきなので、そういう企業や団体がステークホルダーになります。そういう人たちと、今まさに議論しているところです。

小暮
本当にそれは、すごい大きな問題ですよね。日本が好きで、日本に来てくれている外国の人に、すごく外国人感を味わせてしまっているというのは、めざしている日本の方向性と矛盾しています。

齊藤
その通りです。

信用というパスポート

小暮
これからは、そういう外国の人たちに介護のヘルパーさんとして来てもらう場合、われわれ日本人側からしても、その人がどういう人なのかブロックチェーンできちんと身元保証されていると、すごく安心ですよね。

齊藤
ブロックチェーンの文脈をどこまで使うかということはありますが、外国人の不自由を解決したいという点は同じで、できることはいろいろあるはずです。

小暮
今シンガポールに住んでいる友人がいて、すごくうらやましいのが、ベビーシッターと英語のチューター(家庭教師)をフィリピンの人にやってもらっているんです。それは、紹介状みたいなものを以前働いていたところから書いてもらったり、マニュアルベースにやっているんですけど、ああいうことがブロックチェーンでできたらすごくいいと思います。

齊藤
信用を積み重ねていくという話は、改ざんできないことが肝なので、そういうところは多分はまると思います。「この人、変な人じゃないよね」というのが、これまでの仕事の中で蓄積されていって、社会の信用につながるというブロックチェーンの世界観は、すごく有効です。

小暮
うちは子どもが小学生で、英語を習わせたいと思っても、いまのマーケットのチューターはすごく高いので、フィリピン人のチューターが少しでも安く教えてくれるのであれば、頼みやすいですよね。ただ、信用できる人じゃないと困るし、紹介状だと改ざんできたりするので、ブロックチェーンだったらいいなと思います。あと、フィーの受け渡しとかもそれでできたら、さらにいい。

齊藤
チューターもそうですが、ベビーシッターで子どもを預けるというときには、子どもの命がかかっているので、信用がまず第一ですよね。信用は、行政や会社がお墨付きを与える以外は、積み上げるしかありません。そういう分野では、ブロックチェーンはすごくいい仕組みだと思います。

小暮
本当に、そうですね。齊藤さんのコンソーシアムがそうした社会課題を解決してくれる日が、なるべく早く来ることを楽しみにしています。

齊藤
ありがとうございます。がんばります。

(撮影協力:Los Angeles balcony Terrace Restaurant & Moon Bar)

画像1: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第5回】ブロックチェーンがめざす、納豆スパゲティとは

小暮 真久(こぐれ まさひさ)

1972年生まれ。1995年に早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。1999年、同大学修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社入社。ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。同社米国ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、先進国の肥満と開発途上国の飢餓という2つの問題の同時解決をめざす日本発の社会貢献事業「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。2007年NPO法人・TABLE FOR TWO Internationalを創設し、理事兼事務局長に就任。社会起業家として日本、アフリカ、米国を拠点に活動中。2011年、シュワブ財団・世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」(アジアで5人)に選出。同年、日経イノベーター大賞優秀賞を受賞。2012年、世界有数の経済紙Forbesが選ぶ「アジアを代表する慈善活動家ヒーロー48人」(48 Heroes Of Philanthropy)に選出。主な著書に『「20円」で世界をつなぐ仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』(ダイヤモンド社)などがある。

画像2: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第5回】ブロックチェーンがめざす、納豆スパゲティとは

齊藤 紳一郎(さいとう しんいちろう)

株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部 課長代理 通信会社担当 メーカー系通信端末販売会社を経て2007年日立製作所入社。通信会社の基幹システム構築プロジェクト及びコールセンター等のアウトソーシングサービスの立上げプロジェクトに従事。2017年よりエンタープライズ領域におけるブロックチェーンのビジネス適用の検討に参画。Society 5.0のめざすつながる社会の実現へのブロックチェーン適用の可能性を検討中。2020年4月発足の企業間情報連携推進コンソーシアム立ち上げメンバー。

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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