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特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International代表 小暮真久氏 / 株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 課長代理 齊藤紳一郎
日本で食べたヘルシーなランチが、アフリカの子どもの給食一食分になる。食べ過ぎによる先進国の「肥満の解消」と「開発途上国の飢餓」の問題を、同時に解消しようという画期的な仕組みを起こした一人が、 TABLE FOR TWO International(TFT)代表小暮真久氏だ。一方、日立の中でブロックチェーン技術を活用した企業間情報連携に取り組んでいるのが、齊藤紳一郎だ。一見すると接点の見つけにくい二人だが、社会課題の解決や新しい価値創造という視点が、実はピッタリと重なる。第1回は、そんな二人の現在について語ってもらった。

TABLE FOR TWOの活動について

小暮
本日はよろしくお願いします。

齊藤
こちらこそ、よろしくお願いします。

小暮
それでは、最初にTABLE FOR TWOについて説明させてください。僕たちTFTというNPOの最大の目標は、世界の食の不均衡によって生まれる「飢餓の問題」と「肥満の問題」を、オフセットするということです。先進国には、食べ過ぎによる肥満という深刻な健康の問題があります。一方で、開発途上国といわれる国では、生きていくために十分な食料が得られていません。

この世界レベルの大きな問題に対し、僕たちが取っている方法は非常にシンプルで、先進国の方では、「腹八分、医者要らず」それぐらいの分量の目安でご飯を食べるようにすれば、普段意の向くままに食べている量を少しだけセーブできます。そしてこの抑えたカロリー分を、飢餓に苦しむ国に分けましょう。そうすることで、一回の食事で自分だけではなく、もう一人食べられる人ができますというのが、「2人の食卓」、TABLE FOR TWOの仕組みなんです。

これは日本人が考えて日本人がスタートした仕組みで、具体的に一番多いのは企業の社員食堂です。お昼を食べに行くと、普段のA定食、B定食、カレーの中に「TABLE FOR TWOメニュー」があります。それはカロリーが2割低くて、中身も少しヘルシーな食事で、これを食べると、食事代から20円がTFTへの寄付になるんです。

20円というのは、日本だと「うまい棒®(※)」2本ぐらいが買えるお金なのですが、これをアフリカの最貧国に持っていくと、子どもが食べる学校での給食1食分になるのです。なぜ学校給食かといいますと、僕たちが活動しているアフリカの最貧国の地域だと、半分ぐらいの子どもたちは就学年齢に達していても学校へ行っていないんです。親の手伝いをしていたり、赤ちゃんの面倒を見ていたり。そうすると、彼らが大人になっても文字が読めない、計算できないということで、なかなか貧困のサイクルから抜け出せないのです。

※「うまい棒」は、株式会社やおきんとリスカ株式会社の登録商標です。

画像: TABLE FOR TWOの活動について

これを断ち切るためには、まず彼らに学校に来てもらうことが重要です。大体この子たちの食事は、1日1食食べられればいいほうで、日によっては庭にあるフルーツをかじるだけだったりします。TFTが支援している学校では、ほかほかのあったかい給食を出しているので、それだけのために子どもたちが学校に来るのです。大体半年ぐらいで、就学率が100%に戻るんです。給食をきっかけに学校に来てもらって、勉強して何とか貧困の鎖を断ち切りたいので、給食という形になっています。

今は大体800近くの社員食堂やレストランなどで、このメニューを提供していただいています。それと、大学も100校近くにTABLE FOR TWOのメニューがありますし、最近では高校や中学校でも参加していただいているという、若い人たちにも引き継がれてきている活動です。少し長くなりましたが。

ブロックチェーンを活用した企業間情報連携

齊藤
素晴らしい活動をご紹介いただき、ありがとうございます。それでは、私の現在の取り組みについてお話しさせてください。私は、日立の中で通信会社向けの営業をやっています。日立では、お客さまとの協創という活動に注力していて、その文脈からお客さまの持つデータやアセットを活用し、我々の持つ技術と組み合わせて新たなビジネスを創出できないかを考えています。その技術要素としてブロックチェーンに注目しており、いろいろと調べたり動いたりしています。

ブロックチェーンはつながりを作る仕組みなので、企業向けに適用しようと考えると1社で使うという話は基本的にないんです。誰かと誰かをつなぐことで価値を作らないとあまり意味がないので、それなら会社と会社をつないだらどうかという発想で、企業間情報連携のプロジェクトをはじめています。企業間情報連携推進コンソーシアムもそのひとつです。

日立というのはいろいろなお客さまと長年ビジネスをしてきているので、業種を問わずそのつながりの中で1社だけではできないことが、他の企業とつながることで何かできるのではないか。それで社会課題をひとつずつ解決していくことができるのではないか、というアイデアが若手同士の議論から出まして、この取り組みがスタートしました。

画像: ブロックチェーンを活用した企業間情報連携

引っ越しのワンストップサービス

小暮
それは、Society 5.0という世界をめざしてのことですか。

齊藤
そうですね。その通りです。でもその一方でSociety 5.0というのはまだ概念的で、データを活用して人々が快適に暮らせる社会というのが具体的に想像できない。今必要なのは、総論ではなく具体的な事例だと思っていまして、さまざまな取り組みが走り出しています。

一例をあげますと、引っ越しをする時ってものすごい手間がかかりますよね。保険、通信、ガス、電気、水道、などの契約を全部変更する必要があります。この誰もが困っていることというのは、社会課題です。これを、通信会社さん、不動産管理会社さん、保険会社さん、ガス会社さん、電力会社さんなどのデータを連携させて、一回で手続きが済んでしまう仕組みが作れないか。これは、使う側は大きなメリットがありますし、企業側も手続き業務が削減できるわけです。

こういう企業間のデータ連携によって生み出せる新しい価値を、今みんなで探っている状況です。ユーザー側から見たメリットは絶対に無視できませんが、自社のデータを拠出する企業側のメリットも提供する。その建て付けが重要だと思っています。

小暮
ちょっと嫌な表現になりますが、「日本人や日本企業は、ペンギンだ。誰かが最初に飛び込むと、みんな飛び込んでいく」。それは確かに僕もTFTを始めたときに、すごく感じました。競合他社のA社はやられていますか?B社は?それならうちも始めないと、というようなケースは実際にあります。

その時に感じたことは、企業の利益はもちろんですが、それを越えたところで、例えば日本にとってこれはどういう価値があるのかをしっかりと示すことが、賛同していただくためには重要だと思いました。

(撮影協力:Los Angeles balcony Terrace Restaurant & Moon Bar)

画像1: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第1回】連携というチカラ

小暮 真久(こぐれ まさひさ)

1972年生まれ。1995年に早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。1999年、同大学修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社入社。ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。同社米国ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、先進国の肥満と開発途上国の飢餓という2つの問題の同時解決をめざす日本発の社会貢献事業「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。2007年NPO法人・TABLE FOR TWO Internationalを創設し、理事兼事務局長に就任。社会起業家として日本、アフリカ、米国を拠点に活動中。2011年、シュワブ財団・世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」(アジアで5人)に選出。同年、日経イノベーター大賞優秀賞を受賞。2012年、世界有数の経済紙Forbesが選ぶ「アジアを代表する慈善活動家ヒーロー48人」(48 Heroes Of Philanthropy)に選出。主な著書に『「20円」で世界をつなぐ仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』(ダイヤモンド社)などがある。

画像2: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第1回】連携というチカラ

齊藤 紳一郎(さいとう しんいちろう)

株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部 課長代理 通信会社担当 メーカー系通信端末販売会社を経て2007年日立製作所入社。通信会社の基幹システム構築プロジェクト及びコールセンター等のアウトソーシングサービスの立上げプロジェクトに従事。2017年よりエンタープライズ領域におけるブロックチェーンのビジネス適用の検討に参画。Society 5.0のめざすつながる社会の実現へのブロックチェーン適用の可能性を検討中。2020年4月発足の企業間情報連携推進コンソーシアム立ち上げメンバー。

「第2回:ブロックチェーンへの切実な期待」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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