特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International代表 小暮真久氏 / 株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 課長代理 齊藤紳一郎
普段から、なんて面倒なんだろうと困っていること、それこそが社会課題というお二人の話は、これからブロックチェーンの輪をどう広めていくのかへと展開していく。

「第1回:連携というチカラ」はこちら>
「第2回:ブロックチェーンへの切実な期待」はこちら>

日常生活の中の「何とかならないか」問題

小暮
普段の生活の中で僕がちょっとイライラするのが、病気になったときに病院に行くと、毎回同じ情報を書かせるじゃないですか。あれは、何かひも付けしておいて欲しいと思うのですが、でも自分の健康に関するデータを良くわからないところに置いておくのは、やっぱり怖いところもあります。

齊藤
そういう「何とかならないかシリーズ」って、結構多くないですか。僕も入院した時の保険請求の手続きが、面倒で驚きました。保険会社に連絡を入れ、書類を取り寄せて病院にこれを書いてくださいと持参して依頼する。2週間とか3週間待たされて、再度病院に行きお金を支払ってから今度はそれをまた保険会社に郵送するってすごい無駄な労力ですよね。クレジットカードを登録しておけば、病院から保険会社にデータを送るだけで済むと思うのですが。

小暮
そうですよね。僕の子どもがまだ小さいときに保育園から電話がかかってきて、突然熱がでてしまったので、病院に連れて行ってくださいと言われたのですが、結構離れたところにいるのですぐには帰れない。病院に連れて行っていただけませんかとお願いすると、薬のアレルギーとかまったく情報を持っていないので、両親のどちらかが連れて行かないと駄目だと言われました。ああいうのもどこかにデータを集約しておいてもらえると、共働きの人たちは助かるのに、と思いました。

画像: 日常生活の中の「何とかならないか」問題

ブロックチェーンの誤解

齊藤
情報をシェアすることで得られる恩恵は、多分世の中にいっぱいあるのですが、企業の理屈であったり、社会のルールであったり、個人情報の保護といった理由だけで使えないのは、すごくもったいない話です。

小暮
本当にそうですよね。情報を提供する側の個人やそれを管理する企業にとって、情報漏えいや改ざんというのは、非常に大きなリスクじゃないですか。そこを、「ブロックチェーンであれば大丈夫ですよ」というのが、どのくらい浸透してきているんですかね。

齊藤
まだまだ駆け出しのところだと思います。どちらかというと、「技術がまだ発展途上だから、まだ様子見だよね」というのが世の中の一般論だとは思いますけど。

小暮
暗号資産(仮想通貨)交換所のコイン流出に対する脆弱性と、ブロックチェーンのデータの秘匿性が同じように語られているのが、僕は悲しいと思っているんです。それが一緒くたになっているのが、日本なのかなっていう気がしていて。

齊藤
そうですね。あとは、どこにどうその技術要素を使うのかというところだと思うんです。ブロックチェーンが絶対にはまる分野はありますから。使えるところから使っていくのが正しいんだと思います。私たちがいま始めているのは、社会課題になっていることが多いのですが、いまここで話せることが少なくて。

ブロックチェーンの可能性

小暮
エネルギーの分野でも、ブロックチェーンというのは有望ではないですか。僕らが活動をしているアフリカの開発途上国というのは、全然電力が行き届いていないのです。でも太陽があるので、太陽光で電力グリッドを新たに作りましょう。その間のトランザクションは、全部ブロックチェーンベースでやりましょう。その電力を、零細農家の第2の稼ぎにしましょうということで、国連に助けてもらって太陽光パネルを設置して、電力を売りながら返済していくというプロジェクトが、アフリカでいくつか走っているんです

それは、もともと電力網がないので逆にやりやすいらしくて、この電力インフラなんてまさにブロックチェーンがはまる分野だと思ったんです。

齊藤
電力は僕の専門外なのですが、ないものをゼロから作るのであれば、こっちの方が早いというものもあると思います。今は僕らも、企業間情報連携推進コンソーシアムでここにないものを作ろうとしていて、そこで使うシステムの機能の一部にはブロックチェーンを活用します。

営み自体は企業間で何かをはじめましょうということなので、賛同を得られる会社を探すのに苦労しているところです。

画像: ブロックチェーンの可能性

メディアの力と絵の力

齊藤
TABLE FOR TWOの活動には、見習うべきところはいっぱいあると思っていまして、僕らがどうやって企業の合意形成を取りながら、企業をまたいで情報連携を推進するコンソーシアムを作って社会課題を解決していくべきなのか、小暮さんのアドバイスがいただけると嬉しいのですが。

小暮
僕の経験からいくと、やっぱりメディアの人に力を貸してもらうというのは絶対あるかなと思います。僕も、当初は1日20件とか30件の企業を回っていたのですが、もうきりがないんです。しかも人手がない中で、きちっと情報を伝えるためには、メディアの助けを借りるというのが大きかったです。

『「20円」で世界をつなぐ仕事』という本を書いたのもそのひとつですし、とにかく取材依頼というものをすべてお受けするようにしました。メディアの方というのは、情報を探しにいくときに割と業界の中の雑誌も読まれていたりするんです。だから、もうどんなに小さなメディアでも、きちっと取材は受けて説明してきました。

齊藤
打ち出し方は、本当に大切だと思います。結局仲間が集まらないと、実現できることが小さくなるので、参画する会社の数をどう拡大するのかが僕らも問題なのです。

小暮
僕がメディアの方たちによく言われたのは、やっぱり絵を作ることだと。特にブロックチェーンというのは見えにくいじゃないですか。

齊藤
そうなんです。まったく見えないんです。

小暮
それが現実の世界で実際どういうふうに形になるのかを絵で示せれば、すごく強い。例えばひとつのスマホアプリの画面とかで、こんなふうにワンストップでできますという絵ができて、実際それを使えばどれだけ楽になるのかが想像できる、そういう絵があるといいですね。

齊藤
それはめちゃくちゃ大事です。僕もデザイン思考とか勉強しながら手探りでやっていますし、うちの会社の中でもそれを専門にやっている部隊があります。やっぱり、子どもにもわかる絵というのは、伝える力が強いです。

小暮
そうですね。僕、TFTを始めて2年目ぐらいに、とにかくすごく忙しかったせいで、なんか太っちゃったんです。そうしたら、メディアの人に、「小暮さん、絶対やせたほうがいい」と言われました。小暮さんが太ると、本当に説得力がないし、絶対に駄目って言われて、はい……みたいな(笑)。

齊藤
(笑)。それも絵になって世に出てしまいますからね。でも、絵の力、伝え方というのは本当に大事です。

小暮
そう思います。当時のTFTで一番取材が来たのが、秋葉原のメイドカフェでした。TABLE FOR TWOに関わっていた学生がそこでバイトしていたので、秋葉系の人がメイドカフェでTABLE FOR TWOの食事を食べてみて、「萌えと脂肪の燃えー」っていう(笑)。えっ、まじ?超ベタじゃん、と思いましたが、『朝日新聞』も取材に来てくれました。

だからブロックチェーンも、今は僕から見て少しお行儀が良過ぎる気がします。スマートなテクノロジーなんだけれども、もうちょっと何かベタな活用例みたいなものがあっても面白いかなって。

齊藤
なるほど。

小暮
なんかまだちょっと硬くて、わかるけど食べないみたいな感じが若干するんですよね。

(撮影協力:Los Angeles balcony Terrace Restaurant & Moon Bar)

画像1: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第3回】ブロックチェーンの輪をどう広げるか

小暮 真久(こぐれ まさひさ)

1972年生まれ。1995年に早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。1999年、同大学修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社入社。ヘルスケア、メディア、小売流通、製造業など幅広い業界の組織改革・オペレーション改善・営業戦略などのプロジェクトに従事。同社米国ニュージャージー支社勤務を経て、2005年、松竹株式会社入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに強い感銘を受け、その後、先進国の肥満と開発途上国の飢餓という2つの問題の同時解決をめざす日本発の社会貢献事業「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。2007年NPO法人・TABLE FOR TWO Internationalを創設し、理事兼事務局長に就任。社会起業家として日本、アフリカ、米国を拠点に活動中。2011年、シュワブ財団・世界経済フォーラム「アジアを代表する社会起業家」(アジアで5人)に選出。同年、日経イノベーター大賞優秀賞を受賞。2012年、世界有数の経済紙Forbesが選ぶ「アジアを代表する慈善活動家ヒーロー48人」(48 Heroes Of Philanthropy)に選出。主な著書に『「20円」で世界をつなぐ仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた』(ダイヤモンド社)などがある。

画像2: ブロックチェーンがつくる「社会の新しい価値」
【第3回】ブロックチェーンの輪をどう広げるか

齊藤 紳一郎(さいとう しんいちろう)

株式会社 日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部 課長代理 通信会社担当 メーカー系通信端末販売会社を経て2007年日立製作所入社。通信会社の基幹システム構築プロジェクト及びコールセンター等のアウトソーシングサービスの立上げプロジェクトに従事。2017年よりエンタープライズ領域におけるブロックチェーンのビジネス適用の検討に参画。Society 5.0のめざすつながる社会の実現へのブロックチェーン適用の可能性を検討中。2020年4月発足の企業間情報連携推進コンソーシアム立ち上げメンバー。

「第4回:必要なのは、技術ではなくアイデア」はこちら>

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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